[KATARIBE 13787] [WP01P] 『巡礼紀行』

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Date: Thu, 24 Jun 1999 12:43:03 +0900
From: "gallows" <gallows@terra.dti.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13787] [WP01P] 『巡礼紀行』
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どうも、gallowsです。WPの、狩人持ちの皆さんこんにちは。
狩人同士の薄い因果みたいなEPになるといいなあ、とか思います。

以前書いた「愛より疾い死」との矛盾点が山ほどありますが、こっちの設定で
細かいところを固めていく予定です。

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『巡礼紀行』
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巡礼の果て
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 私は、母の過去の恋人の娘らしいです。父と出会ったときには、母は既に私
を妊娠していたそうですから、間違いないのでしょう。私にはどうしようもな
い、過去の出来事です。だけれど、私はその事実を背負って行かなければいけ
ません。運命というものがもしもあるのならば… いえ、私は幼い頃から漠然
と感じていました、運命の実在を。だからこそ私はこの道を歩いてきたのです。
 思えば、そう悪いことばかりでもなかったのではないか、と今ならば思えま
す。父は本当の娘ではないと知りつつも、それなりに気を使っていてくれまし
たし、母は父に申し訳なさそうにではありましたが、私の待遇が少しでも良く
なるようにと心がけていてくれました。だけれど、今までの私にはそれを感謝
する心の余裕がなかった、ということなのでしょう。それどころか、私はいつ
も畏れを抱きながら家庭での生活を送っていました、だから少しでも嫌われま
いとする努力もしてきました。父の家はそれなりの名家で、母や私に対する風
当たりが強かったと言うことも、一因としてはあったのかもしれません。
 しかし私のこの態度は、一つ年下の妹で、父と母の本当の娘である珠希の反
感を買ってしまったようでした。彼女には、私の卑屈な気遣いなど、直感的に
見抜けたのです。
 そんな私も高校に進学し、ようやく安らげる場所というものを見つけること
が出来ました。里見宗司、学年担当の美術教諭です。あの春の日の最初の出会
いは、私に定められた運命の中で、まるでイレギュラーなものに違いないと感
じました。日陰に突然陽光が射してきたようなものです。先生は、いつもどこ
か遠くに思いを巡らせているようで、私の事など目にも入らないと言う様子で
したが、だからこそとても優しく接してくれました。驚くほど怒らない人で、
いつも微かに笑みを浮かべているようにも見え、常時平穏そのものといった様
子でした。
 先生と私が深い仲になっていったのもまた、何かの必然だったのでしょうか。
私はある時から、居辛い実家よりも、先生の六畳二間のアパートの一室に居る
ことの方が多くなってきました。お世辞にも住み良いとは言えない環境でした
が、私にとって、其処はかけがえのない物に思えました。
 ある日、父が凄い剣幕で先生の家にやって来ました。その時の事は今となっ
てはよく思い出すこともできません。しばらくは重々しく会話をしていたので
すが、気が付いた時には、私は父に殴り倒されていました。その直後、それを
止めようと咄嗟に動いた先生の手により父は転倒し、頭を古びたテーブルの角
にぶつけ、そのまま動かなくなりました。父は血と一緒に、涙を流しているよ
うでした。
 そして、あの9日間がはじまりました。行く先々で出会った人々は妙に印象
深く、今でもはっきりと思い出せます。彼らもまた、私の運命にわずかばかり
なれど関係してくれた人達と言うことなのでしょう。それはまるで巡礼のよう
で、今『何処にも無い場所』へと向かう私と先生には、不可避な儀式のような
物だったのかもしれません。
 その巡礼の果て、手にすることが出来た完全なる平穏、私と先生は永劫の至
福の環を、今、くるくると回りだしたのです。止まることもなく永遠に…


三ッ木珠樹
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 着の身着のままアパートを飛び出した私たちは、八王子市に住む先生の美大
時代の友人だというとある芸術家の住居を訪ねました。芸術家の名前は三ツ木
珠樹、売り出し中の彫刻家だそうです。私たちはこの人に、お金を借りに来た
のでした。
 今の私と先生には逃げ場はほとんどないし、協力者もほとんどいません。だ
からせめて誰の手も届かない場所へと逃げなければなりません。しかし、そん
な一時の平穏を望むのにもお金はかかる、どうしようもないことです。

 里見     :「君はなにも心配することはないよ」

 先生はそう言うと、胸ほどの高さの鉄製の門を開け、一歩踏み出しました。
 磨りガラスの玄関前で、チャイムを一度だけ鳴らす先生。ふと時計を見ると
まだ午前7時、客が来る時間としては非常識だし、まだ起きてさえいないかも
しれません。
 とはいえ、このまま諦めて帰るわけにもいきません。咄嗟に先生の家から持
ち出した所持金を全て合わせても2万円にもならないのです。警察が既に動い
ているかもしれないため、もう一度家に帰ることもできない、先生は、もう一
度だけチャイムを鳴らしました。
 しばらくして、家の中から足音が聞こえ始め、扉の向こう側に人影が現れま
した。まず繊細な造りの指が見え、それがガラガラと扉を横に開くと、そこに
は少し眠たげな男の人。少し陰のある、物静かな人、それが私の抱いた印象で
した。少し先生にも通じるものがあったのかもしれません、私はこの人なら信
用出来るような気になりました。

 三ッ木    :「里見宗司、か?」
 里見     :「すまない、こんな時間に」
 三ッ木    :「それはいいが… どうしたんだ、突然。まあとりあえず
        :入りなさい、事情はその後だ。そちらの連れの子も遠慮す
        :る必要はない」

 そうとだけ言うと、彼は突っかけたサンダルを掃き捨て、また奥へと入って
いきました。先生は頭を下げつつ中に入り、私に目で合図を送ります。中に入
れと言うことなのでしょう。

 鏡華     :「…お邪魔します…」

 私たちが通されたのはおそらく客間でしょうか、掃除は行き届いているので
すが、並べられたいくつものオブジェが独特の空気を醸し出していました。お
そらくこれらが彼の過去の制作物、ということなのでしょう。ふと、私はその
中の一つに目が止まりました。抽象的な表現でしたが、それはまるで…

 鏡華     :「…まるで、人の頭部のよう…」
 三ッ木    :「頭部?」
 鏡華     :「あ、ごめんなさい。素人がいい加減なこと…」
 三ッ木    :「構わないよ、それは『魂』という作品なんだが、もし魂
        :というものが存在するとしたら確かにそれは頭部にあるの
        :かもしれないね」
 里見     :「それだけ頭には個体の特性や機能が集中している…」
 三ッ木    :「人間の価値はその頭部で決まる、お前の持論だったな、
        :里見。で、今日はどういう用件なんだ? 世間話に来たよ
        :うには見えないが…」

 しばらく間が続く、そして、先生はゆっくりとした口調で切り出した。

 里見     :「恥を偲んで頼む。金を、貸してはくれないだろうか。事
        :情は、今は言えない…」

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 と、とりあえず此処までです。修正、加筆などありましたら宜しくお願いし
ます。
 今後の展開としては、しばらく都内のホテルなどに転々と泊まるか、野宿が
続くか、どうなることやら…
 しばらくしたら四国(?)の里見の親戚の方に望みをかけて移動させる予定で
すが、ヘッドコレクターになるまでに何人くらいの狩人と遭遇できますか
ね(^^;

 
    

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