[KATARIBE 13720] [HA06][novel] 「自走式ぬいの、家出までの経緯」

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Date: Mon, 21 Jun 1999 13:00:01 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13720] [HA06][novel] 「自走式ぬいの、家出までの経緯」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199906210400.NAA23233@www.mahoroba.ne.jp>
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99年06月21日:12時59分58秒
Sub:[HA06][novel]「自走式ぬいの、家出までの経緯」:
From:E.R


 こんにちは、E.Rです。
 自走式ぬい、雪骨の、独立までのあしどりです(ちがうって)

*****************************
  「自走式ぬいの、家出までの経緯」
   ==============================

  最初は、何を言っているのかもよく聞こえなかった。

  「1.2cmのジョイントなんてないし……いっか」

  針で仮どめされた耳が、頭に固定されてゆく。
  視野が、開けてゆく。

  「で……っと、後は体と繋いで……ジョイントってこれが楽だから……
  ……よし」

  ぱちん、と、音。そしてどんどんと組み上がってゆく体。

  「よしできた!」


  丁度手に載る程度のうさぎのぬいぐるみは、世界を見上げた。
  彼の作り手と思しき相手は、なおも糸を始末したり、耳の具合を直したり
していたが
  「ま……これでいっか」
  と呟くと、ぱたぱたと辺りを片付けた。
  「名前は……兎だから、梅。雪骨ってことにしようね」
  雪骨。自分の名前。
  「さてと……寝ようかな」

  しんと寝静まった部屋の中で、新参ぬい、こと雪骨はきょときょとと
頭を巡らせた。

  山ほどの、ぬい。
  くま、猫、犬、狐、ふくろう。本棚に、机の上に、何体もの
先住のぬいたちが乗っかっている。
  そのどれもが、自分よりも出来がよく見える。
 
  『あんた、新参かい?』
  近くのねこのぬいが、声をかけてくる。
  『はい』
  『おやおや……それも、新しいぬいだね』
  『新しい?』
  『作り手が初めて作ってみたぬい、ってこと』
  『……それはー、かわいそうにー』
  間延びした声。大き目のくまぬいの声より、その内容に雪骨はびくっとした。
  『かわいそう、ですか?』
  『うんー、人にー、貰われないしー』
  小首を傾げた雪骨に、小さなふくろうぬいが弾んで近づく。
  『この作り手はね、初めて作ったぬいに限り、手元に残しておくんだね』
  『それは、かわいそうなことなんですか?』
  『まあねえ』
  小さなふくろうぬいは、丸い体についた小さな羽根をぱたぱたと動かした。
  『これだけのぬい、だろう?ほっぽっておかれるのが関の山なんだな』
  『ほっぽって?』
  『まあ君はね、それでも珍しめのぬいだから、一週間は保つだろうけど、
  それから先は棚の上、だろうね』
  『…………』
  『貰われて行ければ、それはそれで幸せなんだけどね』

  遠い、目。 
 
  『……逃げないんですか?』
  『逃げてどうする』
  『貰ってくださる人を探………』
  意気込んで言いかけた言葉を、雪骨は飲み込んだ。
  唖然と呆然が、あたりから立ち込める。
  『作り手がね、誰かに、ってえんならその相手も受け取ってくれるさ』
  『でも、道端にころがってる私達を、だれが拾ってくれるかね?』
  『泥だらけになるか、猫か犬に引き裂かれるか。まあそこらが落ちだね』

  でも。
  ぬいと生まれた以上、誰かに可愛がられたいではないか。
  誰かの、たった一つしかないぬいになりたいではないか。
  棚の上に幾つも並んだうちの一つのぬい、ではなく。

  『いって、みるかい?』
 考え深げな声が、雪骨の思考を途中で切った。
 『いくのならね、このふくろにお入り』
 『そしてね、べーかりーくすのき、ってところにおいき』
 サンタの服のクマが、じっと雪骨を見ている。
 『そこのひとならば、拾ってくれるかもしれない』
 雪骨は、小首を傾げる。
 『あなたは反対しないんですか?』
 『しないよ。きみのきもちはわからないでもないから』
 『……あなたは?』
 『ぼくはね、ゆずちゃんのクマだから』
 サンタ服のクマは、少し首を傾げた。
 『ひどく、うらやましがられる』

 誰かの特別であること。
 誰かのたった一つであること。

 『そのひとをみつけたら、ぼくらはね、護れるんだよ』
 『護れる?』
 『だから……いってごらん』

 こく、と一度息を呑んで、雪骨は袋の中に飛び込んだ。

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 ちうことで。
 雪骨君、独立に向かって…………ないじゃないか(汗)

 まあ、これから「自走式のぬい」に繋がります。
 であであ。




    

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