[KATARIBE 13666] [WP][EP]: 「その翌日」

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Date: Fri, 18 Jun 1999 17:07:40 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13666] [WP][EP]: 「その翌日」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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99年06月18日:17時07分29秒
Sub:[WP][EP]:「その翌日」:
From:E.R


 こんにちは、E.Rです。

 「日曜日」、その翌日のEP、とりあえずできたとこまで。
 最初の部分はハリ=ハラさんに、最後の部分は不観樹さんに見ていただいてますが、
 真中の部分については、修正お願いします>ハリ=ハラさん

 さて。

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  EP「その翌日」
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 月曜日の子供
 --------------

 どんな夜だって、明ける時は明ける。


 がたごと、と、音。

 風音     :「…………?」

 音の出所が、はっきりしない。
 
 風音     :「(……ねこでも入ってき)…………っ!」

 慌てて跳ね起きる。音の主にはっきりと思い当たったのだ。
 大急ぎで着替えて、襖を開ける……と。

 ひどく、戸惑った顔があった。

 志郎		:「あ…えと…おはよう…ございます(ぺこっ)」
 風音     :「おはようございます」

 双方、それ以上の言葉が無い。
 運良く……というか、このなんとも気まずい沈黙は、火にかけた鍋がかたか
たと鳴る音に遮られた。

 風音     :「あ」
 志郎     :「あ、いけないっ」

 慌てて火を止める、その隙に、風音は記憶槽を引っ掻き回した。
 今日は月曜日。ということは……小学生?

 かちり、と、火が止まる音。
 
 志郎     :「……あの」
 風音     :「はい?」
 志郎     :「きのうは……ありがとうございました」

 表情に少し戸惑って、風音は相手を見る。
 どうやら、昨日の記憶は、少しは残っているようである。
 ……どのような形かは、さておくとして。

 志郎     :「あの……あれ?」

 何か言いかけて、首を傾げる。そして、何だか気まずそうにこちらを見る。
 その理由に気がついて、風音は苦笑した。
 
 風音     :「私の名前は、白鷺洲風音」

 近くにあったメモ用紙と鉛筆を取って。

 志郎     :「さぎ……しま?」
 風音     :「……かざね、って言うんだけどね(苦笑)」 
 志郎     :「かざね‥さん?」 
 風音     :「そう……ああ、さんはいりませんから」 

 口調こそどこか幼いものの、声も青年のもの、背丈も自分より頭一つ高いの
である。
 その相手に「さん」をつけて呼ばれたくは無い。

 志郎     :「(ふるふる)…よびすては失礼だって、先生がいってました」 
 
 一瞬……理不尽であると承知しながらも、先生の教えにむっとした風音である。

 風音     :「……いいよ。私も呼び捨てにしたいから。 
        :そしたら同じでしょ?」  
 志郎     :「う〜ん……じゃあ、かざね……(何か、むず痒いような顔)」  
 風音     :「はい(苦笑)……えと、志郎、でいいのね?」 
 志郎     :「はい」 

 名前の確認。人間関係の第一歩。
 それだけで……何となく、ほっとするものである。

 志郎     :「おせわになります(ぺこっ)」 
 風音     :「……いえ」 
 志郎     :「あ、お台所勝手に使っちゃって、ごめんなさい(あせ)」 
 風音     :「いえ……どうぞ(苦笑)」 

 と……ふと、志郎の視線が浮く。
 過去の方向へ、と、それは直感に近かった。
  
 志郎     :「いけないっ、亜紀を起こしてこなきゃっ」 
 風音     :「亜紀ちゃん……」

 亜紀ちゃん。
 この名前は知らない。
 けれども……多分、この男に近しい相手。
 
 風音     :「……ええと……亜紀ちゃんはお泊り(苦笑)」
 
 居なければ、ならない相手。
 では……不在の理由は必要である。

 風音の答えに、志郎は一瞬、非常に脅えたように視線を巡らせた。
 
 志郎     :「あ…ぁ…そう…亜紀はトモちゃんの家にお泊りだった…」 

 言葉と共に、すう、と、その脅えが静まる。それが見て取れる。

 志郎     :「じゃあ、ごはん作り過ぎちゃった…」 
 風音     :「……大丈夫」
 
 卵焼きと、お豆腐のお味噌汁と、生野菜。
 少し焦げてはいるものの、手馴れているのが分かる。

 志郎     :「あの……かざね…も、どうぞ」
 風音     :「ありがとう」


 協力要請
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 朝ご飯を食べて、片付けたころには、もう九時を廻っていた。もっと早いか
と、風音は思っていたのだが、どうやら起きた時間が遅かったらしい。
 
 風音     :「…………(さて)」

 片づけを終えてしまうと、志郎は所在無げに椅子に座っている。

 風音     :「……(このまま外には出せないし)」

 不精ひげが生えているは、髪はばさばさだは、服には正体不明の染みが付い
ているは。これで外に出た日には、不審者扱いされるのが目に見えている。

 風音     :「…………(と、言っても)」

 祖母と二人暮しで14年。男性のものなぞ、そも、何処に売っているかさえ
わからない。何が必要か、なんてことになった日には。

 風音     :「…………」

 無言でがたん、と椅子から立ちあがる。青年がびくり、と、視線をこちらに
向ける。
 
 風音     :「えと、ちょっと用事があるから、私出てきますけど……
        :志郎は、ここに居てくれます?」
 志郎     :「あ、はい……」
 
 視線が、少し困ったように動く。

 風音     :「あ、庭があるから、そこで遊んでてくれてもいいけど」
 志郎     :「はい」

 ごく少ない知り合いのうち、それでも相談が出来そうな人が、一人だけ。
 メモ用紙を掴むと、風音は一つ溜息をついた。


 協力要請された側
 -----------------

 うららかな、朝だった。というのが三ッ木珠樹の認識である。
 温室改造のアトリエから、徹夜明けのぼさぼさの頭、のび放題の
無精ひげのまま、朝の体操でもしようかと出てきて。
 玄関先に立って、なにやら迷っていたとおぼしき、女性に気付く。
 白鷺洲風音である。もっとも、珠樹には、おとなりの「ふうちゃ
ん」というあだ名の女の子(の成長した姿)であるという以上の認
識はないのであるが。

 風音     :「ええっと……お兄さんっ」

 決死の覚悟、の声と表情。
 珠樹が一瞬目を丸くする。

 珠樹     :「……はい?」 
 風音     :「男の人で、身長がこれくらいの人の服って…
        :…どう言うサイズでしょう?」 

 言葉と一緒に、手を伸ばす。風音よりも頭一つ上あたりに。
 珠樹にしてみれば、自分より一回り小柄なあたりだ。

 珠樹     :「………ん〜〜〜。Lでいいと思いますが」 
 風音     :「L…………(めもめも)……あの、で……」
 珠樹     :「(誰かにプレゼントでもするんだろうなぁ…
        :…………)ん?」

 そこで風音は困惑する。そも何をどう聞けばいいのかわからないのである。
 志郎の姿を、考えてみる。あの状態で外に出したら、何が問題であるのか……
  
 風音     :「えと……ひげそりって……なんか特徴あるんですか?」 
 珠樹     :「ひげそり…………うーん、人によって好みが
        :別れるから …………」

 ひげそり。一言で言っても、電動式と手で剃る物。電動式の中にも往復剃り
に回転剃り、手で剃る物にも種々雑多な価格形式の物があるのだ。他人の使う
ひげそりに関しては応えようもない。

 風音     :「……うーー(悩)」 

 さてこの場合。
 珠樹はプレゼントと誤解したままである。
 それはまあ……ある年齢以上の女性が、突然男物の洋服だのなんだのを買お
うとすれば、そう見られるのだろうが……
 
 風音     :「いえ、なんでもいいんですけど……あ、なら、
        :なんでもいいのか……」

 ……でも、大体、何処に売ってるのーーっっ……と。
 人間叫べればまあ苦労は無い。

 珠樹     :「そうだねぇ…………いろいろあるから。あ、
        :好みもあるからねぇ……」 

 好み。
 昨日転がり込んできた男の好みなぞ、答えられるわけが無い。

 風音     :「…………うう……あの、大体、男の人って」 
 珠樹     :「……ん?」 
 風音     :「生きて行く際、何が必要なんでしょう」 

 心底、真面目な問いである。
 但し……この場合、心底外した問いでもあるあたりが問題で……  

 珠樹     :「…………(げーじゅつ的な悩みに突入中)」 

 生きていく。文字通りとって、芸術家として、人間として、どう応えるべき
か悩む珠樹。
 当然のごとく訪れてしまう、沈黙。

 風音     :「…………」

 だんだん、心細くなる。
 だんだん、どうすればいいかわからなくなる。 

 珠樹     :「うーむ。男の人が生きていく……………」 

 芸術家の悩みは果てない。
 沈黙。

 風音     :「あの、だからっ!」 
 珠樹     :「あ?」
 風音     :「三ッ木のお兄さんが、一週間出張するとしたら!」 
 珠樹     :「……ふむ」
 風音     :「あの……何持ってゆきますか?」 

 ……多少的確な質問へと移行……したはしたのだが。

 珠樹     :「あぁ、そーだねぇ。まず、いつもの彫刻刀に
        :スケッチブック………」
 風音     :「………………」

 その後、延々と芸術機材が並びまくって。

 珠樹     :「…………。でまぁ、あとは、身の回りのもの、かな?」 
 風音     :「…………その、身の回りのものって……なんですか?」

 肝腎の、部分にやっと辿り着いた気が、しなくもない。
 風音はどっと疲れを覚える。

 珠樹     :「ふむ。下着一式と、適当な着替え、髭剃り、
        :後は何かあったかなぁ……」 
 風音     :「…………」

 そこまで聞いただけで、充分である。
 取りあえず、風音の現時点の処理能力を凌駕している。
 それだけは思い知らされる。
 
 珠樹     :「あぁ、爪切りは必要だな……、それに洗面用具
        :一式と……」 
 風音     :「…………」  
 珠樹     :「まぁ、最悪何もなくても出張の一週間ぐらいはこなせる
        :と思うけど………………?(汗)」 

 限りなく、ピントのずれていく応え。

 なんでかなあ、と。
 考えてしまう。
 何が悲しくて、こんな思いをしているんだかわからなくなって。
 誰のせいで……と考えても、けれどもやはり自分のせいで。
 招じ入れるまでは、徒の未来。
 招じ入れた途端、きっちりとした現実。
 
 そう、思った途端。
 急に、目蓋がふくれあがって。
 
 珠樹     :「……ど、どうしたの(汗)」
 
 何で、こんなことで泣かなくてはいけないんだろう。
 情けなくて……尚更に涙が出る。

 珠樹     :「…………(汗)」
 風音     :「……お兄さん」
 珠樹     :「はい?」
 風音     :「助けてください」
 珠樹     :「うん、助けるけど(汗)」
 風音     :「家にきて……」

 ぐい、と、一度目をこすって、珠樹の腕を掴む。

 風音     :「見て、助けてください!」

****************************************

 時間的には、最初に書きましたように、日曜日の翌日、
そして次の週が、珠樹さんの個展、となります。
 ああしかし、致命的に社会性が無いと言うか……(^^;)>風音

 であであ。




    

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