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Date: Tue, 15 Jun 1999 19:11:36 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13542] [HA06p] :「紫陽花唄」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199906151011.TAA17050@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 13542
99年06月15日:19時11分31秒
Sub:[HA06p]:「紫陽花唄」:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
sfさん、エピソード記法、ありがとうございます。
で、早速、己の手元で試して見ました。
これで……良いのだろうか、という(汗)
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エピソード「紫陽花唄」
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登場人物
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小松訪雪(こまつ・ほうせつ):松蔭堂の若主人。人外保育園の園長。
譲羽(ゆずりは) :木霊。少女人形に宿る。
本編
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某日、松蔭堂の庭。
片隅に、人の背丈ほどに伸びた紫陽花の塊が一つ。
濃い緑の葉の群れる中に、五つの花が浮いている。
二つは真夏の空を先取りしたような鮮やかな青、三つはもうすこし優しい
色合いの紫。
良く晴れた朝がたの空気の中で、その色が映える。
花の前に、人形が一つ。
おかっぱの髪が、白いワンピースの肩口のところで綺麗に切り揃えられてい
る。
とんとん、と、人形が跳ねる。
跳ねると一緒に、切り揃えた髪もぽふぽふと跳ねる。
そのたびに、ぢいぢい、と、小さな声が聞こえる。
縁側に少し背中を丸めて座りながら、ぼんやりと訪雪がそれを見ている。
梅雨も近い筈なのに、ひどく明るい光景。
ぢいぢい、と、節をつけたような声が、尚更にそれを現実から剥離させる。
と。
訪雪 :「……ん?」
ふと、気がつく。
節を『つけたような』、ではない。
本当に、譲羽の声には節回しがある。聞きなれない、しかし耳に快い。
訪雪 :「……ゆずさん」
譲羽 :「ぢ?」
くる、と振り返ると、木霊の少女はととと、と、駆けてくる。
譲羽 :「ぢ?(小首を傾げっ)」
訪雪 :「いや……ゆずさん、歌ってたのかね?」
譲羽 :「ぢいっ(こっくり)」
真面目くさった顔で、大きく頷く。
訪雪 :「……なんの歌かね?」
譲羽 :「ぢい……(ぴょい、と縁側に上って、玩具の受話器を取り
:上げて)ぢい!」
訪雪 :「ああ、はいはい」
近くの受話器を取り上げて。
譲羽 :『あのね、ゆずね、あじさいの唄歌ってたの』
訪雪 :「紫陽花の?」
譲羽 :「ぢいっ(こっくし)」
訪雪 :「どんな歌かね?」
譲羽 :『あのね、お花ごとにね、唄があるの。だからゆず、歌って
:たの』
訪雪 :「お花ごと……?」
改めて、訪雪は庭を見やる。
五つの花が、目に入る。
訪雪 :「お花ごと、って、5つの歌があるのかね?」
譲羽 :「ぢ?(きょとん)」
金色の目をしぱしぱさせてから、譲羽は受話器を抑えていない左腕をぶんぶ
ん振り回した。
譲羽 :『ちがうよ、唄はうんといっぱいあるよ』
訪雪 :「いっぱい?」
譲羽 :『いっぱい、お花あるもん』
もう一度、花を見る。そして気付く。
訪雪 :「って……あの、小さい花一つ一つに、違う唄があるのかね
:(汗)」
譲羽 :「ぢいっ(おおいばりでこっくり)」
言うだけ言うと、譲羽は受話器を放り投げて、花の元へと跳ねてゆく。
小さな指が、一番下に咲いていた、花の塊にそっと触れる。
譲羽 :「ぢいっ(これも、お唄があるの)」
訪雪 :「……」
そっと、小さな指が花に触れる。
ぢいぢい、と、小さな声が、確かに一つずつ異なる節をつけて流れてくる。
訪雪 :「一つ一つが、違う唄かね?」
譲羽 :「ぢいっ(こっくり)ぢいぢいぢいっ(だってお花、みいん
:なちがうもん)」
どれ、と訪雪は受話器を取り上げて庭に降りる。
自分の分と、譲羽の分と。
訪雪 :「ゆずさんは、で、どの花の唄が好きかね」
譲羽 :「ぢ……(悩)……ぢいっ」
ぽんぽん、と跳ねて、受話器を要求する。
心得て訪雪が、腕に滑り込ませた受話器に向かって。
譲羽 :『あのね、ゆずね、全部すきなのっ』
訪雪 :「……ふうむ」
譲羽 :『あのね、みいんないっしょけんめい歌ってるの。そんでね、
:みいんなきれいなの』
訪雪 :「…………(笑)」
覚えず、笑みが浮かぶ。
見上げて、譲羽が手を伸ばす。ひょいと抱き上げると、木霊の少女はやはり
嬉しそうに、訪雪の腕の中でぽふぽふ跳ねた。
訪雪 :「みいんな綺麗、かね、ゆずさん」
譲羽 :「ぢいっ(うん!)」
そのまま黙って、紫陽花を眺める。
良く晴れた空に溶けこむように、花の色は鮮やかである。
解説
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人外保育園の、日常のエピソードです。
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てなもんで。
今朝、丁度、こういう色合いの紫陽花を見ていて、ふとある歌を思い出しまして。
中近東某国版では、これが、「羊飼いが草笛を吹くけれども、草は一本一本異なる
歌を持っている」てなことになるんですけれども。
紫陽花の花、一つごとにいろんな唄があって、それがゆずの耳にはハーモニーに
聞こえているのかな、とか(笑)
まあ、そういうEPです(って解説に書かない辺りがひねくれてるかも)
であであ。