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Date: Wed, 2 Jun 1999 12:35:16 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 13184] [WP01][EP] 「鮮紅色」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199906020335.MAA01666@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 13184
99年06月02日:12時35分09秒
Sub:[WP01][EP]「鮮紅色」:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
終末関係者の方々、こんにちは。
えと、「雨夜」の二日後の風音の一シーンです。
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EP「鮮紅色」
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咳をしても一人、と、呟きのようにもらしたのは誰だったか。
きんきんと響く咳で、目が覚めた。
風音 :(……風邪、引いちゃったな……)
二日前の夜。雨になるのは分かっていたが、用事があった。
何より雨を避けるのが面倒臭かった。
その挙げ句、ずっくりと濡れそぼって……このざまである。
風音 :(わるいこと、したな)
雨の中出会った、黒尽くめの女性。傘を差し掛けて、そのままうちまで
付き合ってくれた。
それでこの調子では、彼女も付き合った甲斐がなかろうというものである。
ぼう、と頭の芯が痛む。寝返りを一つ打って、風音は手足を丸めた。
体の節々が痛かった。
それでも、眠りはゆるゆると満ちてくる。
ゆらりと満ちるそれを、待っていた……矢先。
常夜灯代わりに点してある豆電球がちかりと光った。
そこからころころと小さな人形が転げ落ちてくる。
未来。
正確に言えば、未来の破片。
そろもん・ぐらんでぃ
月曜日に生まれて
火曜日に洗礼
水曜に結婚して
木曜に病気
金曜に危篤
土曜に死んで
日曜に墓の中
はいそれまでよ
そろもん・ぐらんでぃ
それは幼い頃に憶えた、ひどく華やかな絵本の中の一節。
ことことと、無数の人形達が、節に合わせて踊る。
人形は、けれどもひどくリアルなものだった。
風音 :「……待って」
上半身を起こして、 手を伸ばす。人形は手の触れたところから
さらさらと崩れてゆく。
最後の一つ、日曜日の人形だけが、ぽつりとそこに残る。
膝を抱え、座り込んだ格好のそれは、しかし風音の指の先で、
風船が膨らむほどの速さで人の大きさへと移行した。
風音 :「……貴方、なの?」
ばらばらと、延びた髪。無精髭。こけた頬の線。
男はすう、と視線を上げた。
空っぽの視線が、ふと風音のそれと重なった。
そろもん・ぐらんでぃ
ワタシハ・ヒカレル・アナタニ
嘲笑に似た響きに、風音は思わず眉を顰めた。
響きは、鮮紅色の波動を伴っていた。
風音 :「……名前は?」
アガタ・シロウ
風音 :「あがた……?」
反射的に聞き返した風音の声に、相手はこくりと頷いた。
そのまま…………
ぷしん、と未来がはじけた。
はじけた未来は、濁流になって風音の頭に降り注いだ。
濁流はやはり、鮮紅色に染まっていた。
ひどく、金気臭い、匂い。
けふけふ、と、自分の喉の立てる音に、ふと我に帰る。
何時の間にか、未来の残像は消えていた。
伸ばした手が、ひどく冷たかった。
風音 :「……近い、な」
壁にかけたカレンダーを見る。
今日は……水曜。
風音 :「…………風邪、治さないと」
そのまま布団に潜る。
額の奥が痛む。瞑った目がちくちくと射すように痛い。
未来は、近づいている。
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てなもんで。
であであっ