[KATARIBE 13166] Re:[WP01]:EP: 「失われしは我が思い」

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Date: Tue, 01 Jun 1999 15:59:37 +0900
From: 不観樹露生 <fukanju@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 13166] Re:[WP01]:EP: 「失われしは我が思い」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <375384D90.048EFUKANJU@sv.trpg.net>
In-Reply-To: <199905311048.TAA03281@www.mahoroba.ne.jp>
References: <199905311048.TAA03281@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 13166

ども、不観樹露生@実習の待機時間中(汗)です、はい。

 「失われし………」関係者の方々どーも〜〜〜

On Mon, 31 May 1999 19:48:18 +0900
"E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp> wrote:
> 何時のまにやら、加わってたり(笑)
> 風音、朱理さんに出会います。
> 朱理さんのシーンに、そのまま続きます。

 なのですが、結界内の様子の描写が終わった後、
 結界外の描写へと戻ることにして、そちらに加筆訂正後、
挿入しました〜〜〜(^^;

>  てなもんで。
>  朱理ちゃんの異能、今だ発現しておりません(汗)
>  …………かけないんだよう(千金の重みのある理由ですな(滅))

 んと、加筆訂正で、発現させました(^^;
 結界技能と異能がセットなので(^^;
 結界を抜けるために発現してます(^^;
#つーか、義手の右腕が動くこと自体が異能なのです(汗)

>  風音は、直人さんを「馬」にのっけようとしてます。(いあ流石に180cm
>の人を動かせない)
>  で、この馬を作り出したのが、「未来具象化」能力ですね。
>  一応、「彼女が連想する範囲で」属性を設定できますが、流石にあまりに
>とっぴな連想はできないです。
>  (充分している、とゆーきも(汗汗汗))
> 

 えっと、この馬は、風音さんが結界内に侵入したのと
同時にやってくるのでしょうか?
 それとも、未来の変更の結果として、この事件が進行してある程度してから
やってくるのでしょうか?


と、ゆーわけで、この際ついでなので、ひとまとめに、まとめました。

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エピソード03『失われしは我が想い』
====================================

新宿、昼間
----------

 小春日和というのが似合う5月のある日。
 新入生や新入社員が常連となるのに大切なこの期間に、喫茶店
「月影」は店を閉じていた。

 直人     :「じゃあ、行って来る」
 竜也     :「うん。いってらっしゃい」
 直人     :「ああ、電話は留守電になってるから、知っている人だっ
        :たらとってもいいからね」
 竜也     :「大丈夫!俺、ちゃんと留守番出来るよ!」
 直人     :「うん。まかせた」

 年の割にはしっかりとした少年に見送られながら、店の二階から
新宿の町へと出かけてゆく。

 直人     :「……(今日こそは、見つけられるといいなぁ)」


夕暮を描く情景
--------------

 朱理     :「もしもこの腕が………私の本当の……腕だったなら」

 口に出して、呟く。儀式めいた、呟き。
 左手をそっと添えていた右の二の腕が、ゆっくりと力を持つ。
 力無く垂れ下がっていた手首がほんのわずかだけ重力に逆らって
反り返る。指の関節がわずかに角度を取る。それだけで、手は命を
吹き返す。

 朱理     :「…………」

 そして、世界が凍り付く。朱理の右腕が生き返るその代償の様に。

 朱理     :「…………………」

 腕は、ほんの僅かだけ、微光を帯びて。
 凍り付いたまま、落ちない夕日。
 凍り付いたまま、動かない風景。

 朱理     :「…………………………」

 さっきまで力を持っていなかった掌に握られた筆が、キャンバス
に張られた画布に色素を乗せていく。
 窓の外の風景と微妙に交錯しながら、ほぼ完成に近いと見える絵
はその色合いを鮮やかに一筆ごとに変化させていく。

 朱理     :「…………………………………」

 完全な沈黙の中、朱理の腕と、絵の中の風景だけが動き続ける。

 朱理     :「?」

 どれほどの時間がたったのだろう?
 どれほどの。いや、時を止める結界の中では時間はさして意味を
持たない。

 誰かが、来ていた。


雑居ビル
--------

 直人     :「見つけた!」

 今日は、見つけるつもりで来ている。いつもよりも集中している
ため、見つけるのも反応も早い。

 直人     :「(この中で人に見つかるとまずいな……)」

 結界を先ほど作られた物と隣り合わせになるように張る。重ねて
作成できないことは、既に竜也と実験済みである。
 結界のそばまで行って、人目に付かないように結界内に進入する
つもりだった。

 直人     :「ここか、周りに人は……いない。よし!」

 すばやく結界を解き、一歩前へ。同時に結界の侵入を試みる。集
中的に訓練したのだ。戦闘用や、あらかじめ結界術者用に強めに張
っていない限り、簡単に入り込める。

 直人     :「侵入成功。術者はこの扉の先か……」

 そのまま入ろうとして考え直し、ノックをする。

 SE     :こんこん

 しばらくの間。内側で、僅かな反応。

 直人     :「失礼します」

 なるべく友好的に聞こえる様な声音、態度。
 そして、ゆっくりとドアを開ける。

 朱理     :「……………」

 油絵の具に随所が汚れたやや大きめのスモッグ。
 キャンバス。油絵の具の匂い。右腕に握られたままの絵筆。
 無言のまま、まっすぐ見つめ返す、強い視線。
 そして、頬に隠しきれない緊張感。

 直人     :「こんにちは、初めまして」

 緊張感を読みとる。
 扉を開けた位置から一歩も踏み出さないようにしたまま、一礼。

 朱理     :「……………初めまして。どちら様ですか?」

 じれるような、しばらくの無言の後。朱理の方から尋ね返す。

 直人     :「多分、あなたの仲間です」

 朱理     :「…………え?」

 その応えは、予想の他にあったのだろう。その意味を問う疑問符。

 直人     :「えーと、話すと長くなるんですが、今大丈夫ですか?」

 その問いに、朱理は画布と直人とを見比べる。

 朱理     :「あ………あと、もう少し………」

 まだ、納得の行く出来にはなっていない。まだ、今日の作業をお
仕舞いと言ってしまえるまでにはなっていない。

 朱理     :「そちらに座って、待っていて頂けますか?」

 背もたれのない、丸椅子を指し示す。
 直人はそれに腰掛けて、朱理が再びキャンバスに向かう様子をじ
っと観察する。

 直人     :「(あの右腕が鍵なのか?義手だけど自由に動いている……)」

 しばしの静寂。結界内には、朱理の筆を走らす音だけが聞こえる。
 油の匂いだけが、ゆっくりと満ちていく。
 永い時間かけて、何かが彼女を満足させたのだろう。
 朱理は筆を油を入れた容器の中に、静かに沈めた。

 朱理     :「で、何のご用でしょう?」

 背もたれのない椅子。それを回転させる。直人の方に向きなおる。

 直人     :「あ、終わりました?お疲れさまです。えーと、とりあえ
        :ず自己紹介しますね。月島直人といいます。喫茶店月影の
        :マスターでして、あなたと同様に、結界を張ることが可能
        :です」
 朱理     :「はい……」
 直人     :「これ、名刺です」

 名刺を渡す。朱理は、左手でそれを受け取る。僅かに緊張が走り、
消える。

 朱理     :「…………」

 朱理が、名刺の内容を読みとり終えるのを待ち、直人は話を再開
する。

 直人     :「僕は、2年ほど前に、終末の住人に目覚めました。あな
        :たは、どれくらいになるのですか?」
 朱理     :「終末の………住人?」
 直人     :「あ、僕が勝手につけたんですがね……結界を張り、災厄
        :と立ち向かえる能力者を総称して、終末の住人と呼んでい
        :るんです」
 朱理     :「災厄…………ですか?」
 直人     :「あなたは、気づいておられませんか?今年は1999年
        :ですよね」
 朱理     :「……えぇ」
 直人     :「じゃあ、去年は西暦何年でしたか?」

 朱理は口を閉ざしたまま、その問いに答える。

 直人     :「僕は、今年は2度目の1999年だと思っています。他
        :の人は違和感を覚えていないようですがね。でも、僕だけ
        :がそう思っているわけじゃない」

 朱理が同意の意味の沈黙を返す。

 直人     :「あなたは、そんな疑問を持ったことはありませんか?」

 朱理     :「何が………起こっているの?」

 朱理のその問いに、直人は答える事が出来ない。

 直人     :「分かりません。でも、確実に何かが起こっています。こ
        :の結界と共に得た不思議な力……こんな力、使わなくても
        :生活できる筈なのに、この力でなければ解決できない事件
        :が、あちこちに起きているんです。少なくても、それは、
        :1998年……今から2年前よりも、今年に入ってからの
        :方が多い様に思います」

 そこで、一旦、直人は言葉を切る。朱理は少し大きく瞬き、微妙に小首を傾
げる。

 朱理     :「私に……何を望んでいるの?」

 彼女の表情を読み取るかのように、真っ直ぐに見つめる直人。
 彼の言葉の意味を読もうと、目をそらさずに見つめ返す朱理。

 直人     :「出来れば協力してもらいたいですけど、若干の危険は伴
        :います。だから、無理にとは言えません。でも、連絡だけ
        :はつけられるようにしておいて欲しいんです。僕の他にも
        :終末の住人を何人か知っていますから、何かあったら手助
        :けできるように……」

 微妙に濁された語尾。

 朱理     :「何か?」

 僅かに強い語気。僅かに細められる視線。

 直人     :「結界を張れる事で……結界が見える事で、何かトラブル
        :に巻き込まれる可能性もありますから」
 朱理     :「……」
 直人     :「……まあ、本当は、うちの店にコーヒーでも飲みに来て
        :くれたら良いと思ってるんですけどね……ただの宣伝です
        :よ。あとは……私が寂しがりやなんですよ」

 そういうと、にこりと人懐っこい笑みを浮かべる。不安を抱かせないための
冗談。その意図までも、通じる。

 朱理     :「喫茶店、ですか………。まぁ、美味しいコーヒーを出し
        :てくださるのだったら……」

 笑みを作っている。会話での後ろにあるもので、応える。

 直人     :「そうですか。良かった。コーヒーの煎れ方には自信があ
        :るんです。さっきお渡しした名刺に地図がありますから、
        :すぐに分かると思います」

 名刺の裏側を見る、ややデフォルメされた地図だが充分に判る。

 朱理     :「………今日の営業時間は………もう終わり?」

 僅かに体の向きを変えると、まだ沈まない夕陽を背に受けて、朱理の表情が
見えなくなる。

 直人     :「今日は休みにしていたんですが……。今日の開店時間は
        :今からということにしましょうか」

新宿、月影への道
----------------

 ビルを出た所で結界を解き、合流する。結界内で沈む寸前だった夕日は、既
に沈みきってしまっている。
 月影までは歩いて十数分の距離だ。

 朱理     :「…………」

 特に、何もしゃべらずに、直人の背中を見ながらついて歩く。微妙な距離が、
注意深く置かれている。朱理の左肩にかかる、画材の重み。

 突然、雑踏の中で直人は足を止めた。

 直人     :「……」
 朱理     :「……?」

 直人は、朱理の視線に答えずに、じっと前を睨み付けている。
 一瞬吹き出した殺気、そして、それが抑えられて。
 それから、ようやく口を開く。

 直人     :「朱理さん、申し訳ないが、用事を思い出しました。ここ
        :まで来ておいてなんですが、ここで別れましょう」
 朱理     :「………そうですか」

 異常。何かの異常事態だということは、朱理にも伝わっている。

 直人     :「すみません。この埋め合わせはいずれ……」

 直人の口元には微笑が浮かんでいたが、目の奥には緊張感が張りつめている。
 会話の最中も、進行方向の一点から目を離す事はない。
 視線の先には、信号待ちをしている一般人達。

 直人     :「じゃあ、僕はこれで」

 そういって、答えもまたずに歩を進めてしまう。見ていた方向とは違う、路
地に向かって。

 ざわっ。

 黒い透明な壁が、急速に自分に迫ってくる感覚。そのまま自分にぶつかる事
を予想し、思わず身を竦めるが衝撃は何も無くすり抜ける。

 朱理     :「…………これ……」

 朱理が先ほどまで張っていたような、薄く弱いものではない。完全に外界と
の接触を断つかのような強力な結界が張られたのだ。何気なく歩いているだけ
でも感じるような強烈な存在感まで備わっている。
 交差点の人々が信号の変化にしたがっていっせいに動き出す。動いていく群
れの中から、動かない事で離れる青年が一人。黒いジーンズ生地のズボンとジャ
ケット、下には黒いシャツを着込んでいる。
 あたりを見回し、はめていた眼鏡を懐に仕舞いながら
 にやり……
 と笑い……。消えた。
 結界内に侵入すると、外界からその姿は見えなくなってしまう。瞬間移動と
いうよりは、今張られた結界に入り込んだと考えた方が普通である。

 朱理     :「…………そういう事?」

 呟く。今まで知らなかった、事。
 終末の住人、災厄、そして………

 朱理     :「………………」

 唇を、僅かに噛む。
 歩道で立ち止まったままの朱理の脇を、新宿の雑踏が通り過ぎていく。


都区内某所 〜新宿〜
--------------------

 鞍馬		:「……『壁』が……?!」

 岡崎鞍馬は、遠くの……常人にはそそり立つ堅いビルの群れに阻まれて見え
ないはずの……新宿の町並みを凝視していた。

 そこには、「壁」が出現していた。
 他の者には感じられないらしい……月島直人が「結界」と呼ぶ……その現象
を、鞍馬は「壁」と呼んだ。
 それは彼の中で、彼と同じバンダナを身につけたあの人の記憶と結び付く。

 彼にとっては、嫌な思い出。

 あの人に近付くために、……
 思ったときには、既に足はアスファルトの路面を蹴り、彼は夢中で走り出し
ていた。

 歩道を走り、路地を過ぎる。普通の交通が利用しない東京中の「道」を、彼
は熟知していた。彼に並行して走る者がいたなら、彼が短距離走もかくやと言
う速度でしかも何分も走り続けるのを見ただろう。しかし道なき道を走り抜け
る彼に追従できる者はその場にはいなかった。
 人の目の影から影へと渡りながら、塀を踏み越え、多少の段差も飛び越え、
ついに彼の視野に新宿の町並みが飛び込んできた。

 鞍馬		:「…………!」

 「壁」は、通りの向こうに、鞍馬の視野一杯を覆うように存在していた。
 のしかかるような圧迫感が、汗腺から逆流してきそうな感じすら覚える。

 嫌な思い出が、いちいちダブる。
 「壁」に阻まれた思い出。目の前のものと、大きさは違うけれど。

 そろそろと近付く。
 そこに「壁」がある、手応えを感じる。見えないが、確かに感じる。

 鞍馬		:「…………(深呼吸)…………ふっ!」

 「壁」の位置を頭に叩き込み、呼吸を整え、一転彼は「壁」に向かって突進
した。「壁」の存在が眼前に迫る。

 しかし彼が「壁」にぶつかることはなかった。
 抵抗すら感じることなく、彼は「壁」のあった場所を通り過ぎた。

 彼の耳を打つ周囲の雑踏に途切れは無い。すれ違う会社員やOLが怪訝そう
な顔で見ながら通り過ぎてゆく。世界は何も変わった様子はなかった。

 「壁」に踏み込むことはできなかったのだ。

 鞍馬		:「…………くそっ…………」

 もどかしさと失望が、彼を包んだ。



新宿、結界内
------------

 日向     :「だれだぁ?俺の世界と同じもの作る奴はぁ……」
 直人     :「日向錬也……探しましたよ」
 日向     :「きさま……」

 二人が相対したのは、これで2度目となる。1度目は日向が月影を爆破した
事件のとき。直人は、この時に父を失い、終末の住人となったのだ。
 双方が、同時に理解した。左目の異質な色……直人は銀、日向は金。二人と
も自分の瞳ではなく、カラーコンタクトである。彼ら「対」が持つ鍵は全く同
じ物なのだ。

 日向     :「お前かぁ、お前、お前だなぁ……俺の獲物はぁ……」
 直人     :「そうみたいですね。まさか、私の対だとは思いませんで
        :したよ」
 日向     :「くっくっくっ……いいねぇ……おもしろいねぇ……今ま
        :でのどんな仕事よりもわくわくするねぇ……」

 日向の目は、狂気に彩られている。人を殺す事を喜ぶ彼の嗜好を、終末の狩
人の使命が促進、変質させているようだ。
 終末の狩人とは、直人たち終末の住人が生まれた事の反動で生まれた存在で、
終末の住人と同様に「結界」を張り、「鍵」を持つ。しかし、終末の住人とは
違い、その存在目的はただ一つ。「対となる終末の住人を消滅させる事」のみ
なのである。

 直人     :「あなたのこと、調べましたよ。無関係な人を巻き込んで
        :目標を破壊する爆弾テロリスト……」
 日向     :「良く調べたなぁ……うん、良く調べた。警察でさえ、俺
        :を捕まえる事は出来ないのによぉ……そうだ、俺は誰にも
        :捕まえられねぇ……俺の世界では、俺が最高なんだよぉ……」
 直人     :「結界の能力を犯罪に使うなんて……たしかに、今の警察
        :であなたを止める事は不可能だ。法が止められないのなら
        :……僕があなたを止める」
 日向     :「とめる?止めるってのか?この俺を?……いいぜぇ……
        :止められるなら止めてみなよ、刃向かう獲物を狩るのは、
        :久しぶりだぜぇ……」

 そして、懐からペンライトのようなものを取り出した日向は、その上部につ
いているボタンを押した。


闖入者
------

 珠希     :「結界…まさかまたアイツが出てきたってワケ?」

 桜居珠希はこの日、学校帰りに友人達と新宿で遊び回っていた。マルイで服
を見て、タワレコでCDを買ってというお決まりのコース、そしていざ帰ろう
というときの出来事だった。
 友人達と別れ、裏通りから結界内に侵入する珠希。一瞬他人の結界に入るとき
特有の違和感に吐き気を覚えるが、次の瞬間それすらも吹き飛ばす空気の振動に
襲われた。


 SE     :ドーン、ゴゴゴゴォ
 珠希     :「爆発? アイツじゃないの? いずれにしてもただ事じゃ
        :ないわね。…由紀夫、起きなさい」
 由紀夫    :「起きてるよ。人使い荒いんだから、労働基準法違反だね」
 珠希     :「悪かったわよ。まったく、子供のくせに」

 バッグから子供の生首を取り出す珠希。どういう仕組みなのか血は出ておら
ず、それどころかその生首と会話している。そして珠希がその首を粗大ゴミの
山におくと、あたかも一つの生き物であるかのように巨大なゴミ人間が立ち上
がった。

 由紀夫    :「とほほ。珠希さん、贅沢は言いませんがせめてもう少し
        :格好よさげなモノにはして頂けないのでしょうか?」
 珠希     :「わかったわよ、今後善処するからとりあえずその辺に隠
        :れてなさい」

結界内、交差点
--------------

 SE     :ドンッ!

 直人の後方にそびえるビルの最上階付近が爆発する。ビルは1フロア完全に
吹き飛び、破片は道路に居た直人に降り注ぐ。その人間が作り出した破片一つ
一つが、重力という自然の法則に助けられ必殺の破壊力となる。

 直人     :「なっ!」

 かろうじて避ける直人。というより、彼の身体を狙って落ちてくるわけでは
なく、破片は道路の中央、直人と日向の中間位置に集中して落ちている。

 日向     :「この世界から逃げるなよぉ……ゆっくり駆り出してやる
        :からなぁ……くくくくっ。もし逃げたら、このあたりは虫
        :けらが多くて楽しそうだなぁ……」

 日向の声から、彼が走り去って行くのが分かる。姿を隠されたのだ。

 直人     :「逃げるつもりは毛頭ありませんが……この爆発、実際の
        :ビルにも仕掛けられてなければ、結界内で爆発はしません
        :ね……」

 単純だが、おそらく真理であろう。彼が結界の外でスイッチを押せば、今度
は実際のビルが崩れ、人の居る道路に破片が降り注ぐ。
 電波的な起爆装置の場合、押した信号を出しつづけている可能性もある。そ
の場合には、結界内から出た瞬間に爆発してしまう。

 直人     :「しかし……このやり方、やはり奴を止めなければ……」

 立ち込める土煙の中から、片足を引きずりながら姿をあらわす直人。傍らの
街路樹に腰を下ろす。無数の破片が直人を狙うことを意図していなくても、す
べて避けきれるものではない。片足に乗っていた瓦礫は崩壊させて抜け出した
が、右足は折れていて使い物にはならない。
 その時、直人の頭上、壊れた街頭の下に一人の少女が現れる。

 珠希     :「…答えなさい、頭の沢山ある化け物に追われているの?」
 直人     :「!(しまった……土煙で接近を感知できなかった……)」

 油断である。奇襲を受けたにもかかわらず、その側でへたり込んで動けない
でいる。今の声の主が、直人を殺そうと思えば簡単に殺せただろう。
 見上げると、町中で会えば男の半分は振り返って注目するであろう容貌を持っ
た女性である。制服を着ていることから察するに女子高生であろう。

 直人     :「君は?……!(「送還」出来ない……日向が召喚した一
        :般人じゃないということか……だとしたら、住人か狩人だ
        :な?)」
 珠希     :「私の質問に答えるのが先よ」
 
 有無を言わせない強い口調。その声に神経質な響きが混じる。

 直人     :「頭のたくさんある化け物というのは知りません。今の爆
        :発は、結界内にいる爆弾テロリストのものです」

 珠希     :「アイツ以外に結界を作れるやつがいるというの?」

 その女子高生、珠希はそう呟くと、空に向かって合図をした。するとどこから
か身の丈3mはありそうな異形の怪物が降ってくる。よく見るとテレビやギター
などの粗大ゴミの山の上に、子供の頭が取って付けたようにくっついている。

 直人     :「!?」
 珠希     :「詳しい事情を聞いてる暇はなさそうね。状況だけ言いなさ
        :い、コイツに潰されたくなければね」
 直人     :「実は…」

 彼女が狩人であるという可能性は否定できないが、この状況で逆らうのはまず
いと判断した直人は、新宿に仕掛けられた爆弾の話をし始めた。

 珠希     :「なるほどね。由紀夫、一度結界から抜けて爆弾探しよ」
 由紀夫    :「OK」
 直人     :「……手伝ってくれるのですか?」
 珠希     :「学校帰りの遊び場を壊されちゃたまんないわ、あとで詳し
        :い話も聞きたいしね」

 珠希はそう言って笑うと、粗大ゴミの化け物と共に爆発で崩壊したビルへと入っ
ていった。

新宿、雑踏
----------

 新宿という街が苦手である、とは、風音はあまり思わない。
 人こそ多いが、それはまとめて風のようなもので、こちらに関わるものでは
ない。

 ……大概は。


 もうすっかり暗くなった道を、しかし人の流れは絶えることなく動いている。
 ざらざらと、人の数だけ未来が砕ける。
 砕けた未来を受け流しながら歩いていた風音は、ふと足を止めた。

 風音     :「……?」

 どこか見慣れた、けれども異質な青銀色の光沢を持つ壁が、自分の目の前に
ある。
 目を細めると、青銀色の光沢がすう、と流れるように消え、壁が透き通る。
 二重写しの、奇妙な風景。
 
 風音     :「…………」

 壁越しに流れ来る、近未来。
 がらがらと砕ける壁。
 それが静かに天から降ってくる。
 無音。
 それが降り注ぐ……先に。

 風音     :「……?」

 女性。すらりと背の高い、厳しい視線の。
 微かに唇を噛み締めて、視線を据えている。
 からからと、彼女より来る未来。
 砕ける壁が、確かに彼女の上に…………

 風音     :「……っ」
 朱理     :「?」

 思わず手を伸ばしたその気配に、彼女が振り向く。
 切り揃えられた髪が、鋭い弧を描く。右腕だけが、妙に力を持たない。

 風音     :「……貴方、危ないわ」
 朱理     :「え?」
 風音     :「頭上に……いえ」

 怪訝そうな、そしてどこか突き放すような目と、語調。
 風音は口をつぐんだ。

 ズジョウニ、ビルノカベノハヘンガオチテキマス
 ハナビラミタイニ……

 風音     :「花びら」

 ぽつり、と呟くと、彼女からやって来た破片の一つがすう、と形を取る。
 手のひらを並べたくらいの大きさの、ごつごつとしたそれは、しかしひらひ
らと舞うように風音の手元に落ちてきた。

 朱理     :「!」
 
 朱理の目には、それはごく唐突に現れたように見えた。
 
 朱理     :「あなた……一体……」
 風音     :「もっと、降るわ」
 朱理     :「なに?」
 風音     :「貴方の上に」
 朱理     :「……何をっ」

 莫迦な、と言いかけて朱理は口をつぐむ。目の前の小柄な女の言葉を信じた
わけではない。
 しかし流石に、初対面の人間に向かって「莫迦な」とは言えない。

 風音     :「……あ」

 ふいと、風音が視線を泳がせた。
 
 からからと、青銀色の壁より流れる未来の破片。
 倒れる男。それに向き合う男。視線。月の色。太陽の色。
 奇妙な方向を向く、足。そして……女子高生?
 そして、食い込むように深く刻まれる文字。


  カレラハフカクカカワルモノ。


 寸前の未来。

 風音     :(間に合わない)
 朱理     :「……!」

 五感のうち二つを支配する、爆発の衝撃。しかし触覚には一切伝わらぬ……
 破片の幻は、彼女達の立つ路地、一面に降り注いだ。
 反射的に避けてから、二人は顔を見合わせた。
 
 風音     :「……見えるんだ」
 朱理     :「……あなたは……あなたも?」
 風音     :「今ので、誰かが怪我したわ……月の目の人」
 朱理     :「え」
 風音     :「知ってる人?多分あれじゃ足が折れてる」
 朱理     :「足が?!」
 風音     :「行って……あ、でも駄目、貴方は駄目」
 朱理     :「なぜ?」
 風音     :「行っては駄目。壁がまだ……」
 朱理     :「だって、もう砕けて!」
 風音     :「まだ、続くわ」

 埒があかない。
 く、と一度唇を噛むと、朱理は、砕けかつ砕けていないビルに向き直った。

 朱理      :「…………行かなくちゃ、ならない」

 つう、と、左手が右の肩へ伸びる。左手に持ち上げられて、右の手が動く。
 右の手首が重力に従って、だらりと垂れ下がる。右手のどの関節一つとって
も、力がわずかにでも入っているようには見えない。

 どこかの店のカウンター。朱理が、その右腕を外して見せている情景。
 とてもよくできているけれども、義手。それを先に知っている。

 朱理      :「…………………なら……」

 朱理が、口の中で何かを呟く。
 その義手の手首が不意に力を取り戻す。
 まるで何かをなぞるように、現実で無いものに向かって指先が伸びる。
 伸びた腕が、すう、と、めり込んで行く。
 ほんの数瞬後、朱理の姿はこちら側から消えうせている。

 風音     :「…………」

 ひどく、躊躇いがあった。
 それでも、彼女一人を行かせるわけにはいかない、と、ふと思った。
 たとえ変えようのない未来であっても。
 すい、と、躊躇いがちに手を伸ばす。ぴしん、と弾けるような感触に一旦手
を引っ込めかけたがそのまま突き入れる。後は抵抗らしいものも感じないまま、
するり、と、入りこむ。

 風音     :「……」

 未来が流れ来る。そのうちの一つに風音は手を伸ばした。ひしゃげて見る影
もない街灯が何者かに追い立てられるように走って来る。

 風音     :「馬」

 その一言で、それは「馬」へと変じる。よじくれた下半分は四足と胴体へ、
そして長すぎる首へと続いて。
 月の目の人は、なんとなくやたらと大きな印象があった。

 風音     :「いこうか」

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 このあと、朱理、風音の二人組と直人氏との合流シーンが入ると思います。
 でまぁ、この後ろの珠希ちゃんと由起夫君の部分を、別行動として、
ここの後で描写した方が良いかな、と。

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新宿、崩壊したビル
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 由紀夫    :「あーあ、派手にやってくれたもんだ」

 粗大ゴミの化け物と化した由紀夫は、珠希の指示で瓦礫の山をどかしながらぼ
やいた。珠希は爆発の中心部を結界の中にいる内に突き止めた方が効率が、よい
と判断したのだ。そして爆発の中心部と思われる一室に二人は辿り着いた。

 珠希     :「じゃあ結界から抜けるわよ、目立つから粗大ゴミは放棄」
 由紀夫    :「はいはい」

 そして由紀夫の首をバッグに詰めると珠希は結界を抜けていった。

新宿、崩壊前のビル
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 珠希     :「ムカツクわねぇ!」

 桜居珠希は怒っていた、結界から抜ける際にひどい頭痛に襲われたのだ。結界
の外に出てみるとそこは今は誰も使っていない貸事務所のようであったが、なか
なか目的の爆弾も見つからない。

 由紀夫    :「珠希さん、あんま怒るとしわ増えますよ」

 ぐしゃ。由紀夫の首の入ったバッグが壁に叩き付けられる。

 由紀夫    :「よ、幼児虐待だ」
 珠希     :「あれ? 壁が、崩れてる」

 バッグを軽く叩き付けただけで壁の表面がボロボロと崩れたようであった。よ
く見ると周囲の壁に比べて若干色も違う。さっと見て回るとビルの柱の要所要所
にこのような処理が施されているようであった。珠希はバッグから折り畳み式の
剃刀を出し、畳んだままで壁に施された張りぼてを落とす。

 珠希     :「ビンゴ。由紀夫、出番よ」

 壁には案の定爆弾とおぼしきモノが埋め込まれていた。珠希は由紀夫の首を取
り出し、爆弾の上にそっと置く。

 由紀夫    :「!爆弾人間などにしてしまって僕に死ねというのですか」
 珠希     :「自分の体なんだから信管を抜き取るくらい出来るでしょ」
 由紀夫    :「あ、なるほどね」

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 あとは、鞍馬君が合流してませんが…………(汗)
 こちらは、結界外に出てしまっている、珠希ちゃんの方に合流すると
よいのではないでしょうか(笑)
 という感じで。とりあえず、まとめてみました〜〜〜(^^;

 変更、修正、エトセトラありましたらどーぞ(^^;

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不観樹露生(ふかんじゅ・ろせい)        6月の標語
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