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Date: Fri, 28 May 1999 12:30:22 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 13083] [HA06]EP 『明けない夜』続き
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <9905280330.AA00736@avalanche.gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
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ども、柳田です。
久方ぶりに、明けない夜続けます。
けれど、なかなか進まない(泣)
○打ち返し(3/29)早朝
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バイパスを走る長距離トラックの音が傾きかけた空家にまで届いてくる。
空家の中に明かりは無い、外を通る車のヘッドライトが時折差し込んで中の様子が照ら
し出される。
埃の積もった畳、所々にさびの浮いた流し台。
人の生活していた痕跡はほとんど無い。しかし、プリントの剥げた合板のちゃぶ台の上
には銘柄の違う缶コーヒーの缶がいくつか並んでいる。他には、ビスケットタイプの栄養
補助食品の包みがいくつか。誰かが本来は無人であるはずのこの空家に侵入し、生活して
いるようだった。
どこか遠くで風の鳴る音が聞こえた。
と、不意に闇が動いた。空家の宵闇の中から染み出すように男が一人。
藍よりも深い闇色のコートに身を包んだ男だ。
十一 :「定石通りか。よく今まで生き延びてこれたな、十」
暗闇の中で男は一人口を歪め笑った。
風の音が近づいてくる。灯る筈の無い空家の蛍光灯が一瞬、明滅する。
十一 :「震為雷、巽為風……。共に木行のまま用いるか。それがおまえのや
:り方か?」
一瞬の沈黙。
そして、
轟音。
安普請の戸が蝶番ごと吹き飛ばされた。
ちゃぶ台がひっくり返り、埃が巻き上がる。びょうびょうと吹き付ける風は明確な意思
を持って男を取り巻いた。
閃光と共に蛍光灯が炸裂する。ばらばらと破片が風に乗り、舞い上がる。
十一 :「………」
男はコートをはだけると、内ポケットに右手を差し込む。そして、首をかしげるように
して降りかかってくる蛍光灯の破片を避ける。
男の背後、色褪せた襖に音を立てて破片が突き刺さった。
十一 :「こけおどしはやめておけ」
男は表情を変えずに告げた。
その言葉が届いたか。男を包む旋風がひときわその鋭さを増す。
き……ん。
男の周囲で気圧が急激に変化する。風に乗ってガラスの破片がコートにかぎ裂きを作る
。
と、青白く閃光が走り、電光の舌が天井の電燈から迸る。
イオン化した空気と焼け焦げた埃が乾いた匂いをたてた。
電光の舌が男を舐め上げた。
と、その動きが止まった。
いや、違う。
電光の流れが制されているのだ。
男は内ポケットから、数本の白く光る棒状のものを取り出した。鋭く先端の尖らされた
それに、電光は捕らえられているように見えた。
空気が弾け、電光のきらめきが男の手から逃れた。
十一 :「震は雷。二陰一陽を圧し、一陽は天を目指し、多いに轟く様を持っ
:て雷と為す。雷は三碧木気にて……」
電光が姿を取った。一時とてその姿はとどまることは無かったが、たてがみのように髪
を振り立てた少女の姿が現れては消えた。
十一 :「克するに金気を持って撃つ」
男の手から、光芒が飛んだ。
光芒は電光を身にまとった少女の眉間を貫き、その姿を流し台に縫いとめた。
凄まじい音がした。流し台から、水道の蛇口へ電光の奔流が殺到した。オゾンの香りが
充満する。
少女の声無き悲鳴がエーテルを震わせた。
少女を縫いとめたもの、白く光る釘は彼女の体から容赦無く力を奪って行く。
旋風が男を押し包んだ。
無数の真空が男の肌を切り裂き、赤く金気臭い霧が立ち込める。しかし、男に動ずる気
配は無かった。
十一 :「巽は風。一陰二陽に服し、一陰は陽に順い、伏して入りゆく様を持
:って風と為す。風は四緑木気にて……。克するに金気を持って撃つ…
:…薙鎌!」
再び、男の手から光芒が走り柱に突き立った。突き立った釘に霊気の飛沫が飛び、幼い
少年の苦痛の声が響く。
風は止んだ。
電光は消え失せた。
ずたずたになった部屋の中に立ち、男はしばらくは耳をそばだて他の襲撃を警戒してい
るようだった。
相変わらず、バイパスを通るトラックの音だけが聞こえてくる音だった。
明かりだけは、二体の侵入者を縫いとめた釘の発するぼうっとした光がある。
男は懐より折り結んだ紙片を取り出すと息を吹きかけた。そして、光を発する釘をその
紙片に突き刺す。
流し台の釘に一つ。
柱に撃ちこんだ釘に一つ。
見る間に紙片が解け、ふくらみ人の姿を取った。
全裸のキノエとキノトの姿だった。
十一 :「職神ではなく、霊を使役しているとはな。しかも、共に木気とは無
:駄なことを。これでは、陣を張る駒が足りないだろうに」
キノエ :「き……貴様ァ!」
キノエに目をやった男の表情がふと止まる。そして、顰められる。
十一 :「しかも、自律させているとは。甘い」
キノエ :「お前、これで……これで済むと思うな!」
十一 :「済ませる気も無いよ。しかし、未練がましい奴だ。道具にこの姿を
:取らせるとはな」
キノエ :「うるさい!あたしの姿になんか文句でもある!」
十一 :「それは、お前のほうから聞いてみるがいい。すぐだ。すぐにわかる
:さ、式として使役されているのなら、自分達がどう扱われるか承知し
:ているだろう」
キノト :「何……を」
十一 :「撃ち返させてもらう。こちらの式としてね。安心するんだ、それほ
:ど形は変えないで返してやるよ。もしかしたら奴はおとなしく殺され
:てくれるかもな。その姿をしている限り。
: 使い捨てにする道具に執着していては、情が生じるだろうに……。
:馬鹿な奴だ」
キノエ :「そんな、こと!」
十一 :「お前達に、拒否はできない。式として『作り変えられて』いればよ
:かったのにな。そうすれば、嘆く自由もなく、苦しみも無かったとい
:うのに」
キノト :「ミツルが、そんなことするはず無いよ!」
十一 :「しなかったから、こうなる」
男はキノエの髪を掴み、機械的に顔を上げさせる。
抵抗する手首を無造作に、折る。くしゃりと、紙の音がした。
十一 :「あいつに会わなければ、こんなことにはならなかったんだ。可哀想
:にな」
耳元に唇を寄せ、耳朶に歯を立て、呟く。
恐怖の表情がはじめてキノエの顔に浮かんだ。
男は耳朶を噛み破った。キノトは、男の歯が肉を噛み破りかちりと音を立てるのを聞い
た。
がくがくとキノエの身体が跳ねる。
縫いとめられた眉間を軸に身体が回る。男は眉間の釘を抜くと、その釘を少女の耳朶に
突き立てた。
キノエ :「……やだ、あたしが、あたしが変わる!」
男の哀れみを帯びた瞳が、キノトに向けられた。
縫い付けられた釘が、うずいた。
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他の参加者の方が入ってこれない状況。もうしわけありません。もう少し状況が進展
したら、皆さんの助けが必要になると思います。
もうしばらく御付き合いください。
柳田真坂樹(Masaki Yanagida)
東京大学農学部森林利水及び砂防研究室
修士一年
e-mail:yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp