Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Tue, 25 May 1999 23:21:26 +0900
From: ソード <so_do@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 13050] [WP01]:EP :『失われれしは我が想い』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199905251409.XAA05949@ns.trpg.net>
X-Mail-Count: 13050
こんにちは、ソードです。
不観樹さんにDMを出して、加筆してもらってから流します。
****************************************************************
エピソード03『失われしは我が想い』
====================================
新宿、昼間
----------
小春日和というのが似合う5月のある日。
新入生や新入社員が常連となるのに大切なこの期間に、喫茶店
「月影」は店を閉じていた。
直人 :「じゃあ、行って来る」
竜也 :「うん。いってらっしゃい」
直人 :「ああ、電話は留守電になってるから、知っている人だっ
:たらとってもいいからね」
竜也 :「大丈夫!俺、ちゃんと留守番出来るよ!」
直人 :「うん。まかせた」
年の割にはしっかりとした少年に見送られながら、店の二階から
新宿の町へと出かけてゆく。
直人 :「……(今日こそは、見つけられるといいなぁ)」
夕暮を描く情景
--------------
朱理 :「もしもこの腕が………私の本当の……腕だったなら」
口に出して、呟く。儀式めいた、呟き。
左手をそっと添えていた右の二の腕が、ゆっくりと力を持つ。
力無く垂れ下がっていた手首がほんのわずかだけ重力に逆らって
反り返る。指の関節がわずかに角度を取る。それだけで、手は命を
吹き返す。
朱理 :「…………」
そして、世界が凍り付く。朱理の右腕が生き返るその代償の様に。
朱理 :「…………………」
腕は、ほんの僅かだけ、微光を帯びて。
凍り付いたまま、落ちない夕日。
凍り付いたまま、動かない風景。
朱理 :「…………………………」
さっきまで力を持っていなかった掌に握られた筆が、キャンバス
に張られた画布に色素を乗せていく。
窓の外の風景と微妙に交錯しながら、ほぼ完成に近いと見える絵
はその色合いを鮮やかに一筆ごとに変化させていく。
朱理 :「…………………………………」
完全な沈黙の中、朱理の腕と、絵の中の風景だけが動き続ける。
朱理 :「?」
どれほどの時間がたったのだろう?
どれほどの。いや、時を止める結界の中では時間はさして意味を
持たない。
誰かが、来ていた。
雑居ビル
--------
直人 :「見つけた!」
今日は、見つけるつもりで来ている。いつもよりも集中している
ため、見つけるのも反応も早い。
直人 :「(この中で人に見つかるとまずいな……)」
結界を先ほど作られた物と隣り合わせになるように張る。重ねて
作成できないことは、既に竜也と実験済みである。
結界のそばまで行って、人目に付かないように結界内に進入する
つもりだった。
直人 :「ここか、周りに人は……いない。よし!」
すばやく結界を解き、一歩前へ。同時に結界の侵入を試みる。集
中的に訓練したのだ。戦闘用や、あらかじめ結界術者用に強めに張
っていない限り、簡単に入り込める。
直人 :「侵入成功。術者はこの扉の先か……」
そのまま入ろうとして考え直し、ノックをする。
SE :こんこん
しばらくの間。内側で、僅かな反応。
直人 :「失礼します」
なるべく友好的に聞こえる様な声音、態度。
そして、ゆっくりとドアを開ける。
朱理 :「……………」
油絵の具に随所が汚れたやや大きめのスモッグ。
キャンバス。油絵の具の匂い。右腕に握られたままの絵筆。
無言のまま、まっすぐ見つめ返す、強い視線。
そして、頬に隠しきれない緊張感。
直人 :「こんにちは、初めまして」
緊張感を読みとる。
扉を開けた位置から一歩も踏み出さないようにしたまま、一礼。
朱理 :「……………初めまして。どちら様ですか?」
じれるような、しばらくの無言の後。朱理の方から尋ね返す。
直人 :「多分、あなたの仲間です」
朱理 :「…………え?」
その応えは、予想の他にあったのだろう。その意味を問う疑問符。
直人 :「えーと、話すと長くなるんですが、今大丈夫ですか?」
その問いに、朱理は画布と直人とを見比べる。
朱理 :「あ………あと、もう少し………」
まだ、納得の行く出来にはなっていない。まだ、今日の作業をお
仕舞いと言ってしまえるまでにはなっていない。
朱理 :「そちらに座って、待っていて頂けますか?」
背もたれのない、丸椅子を指し示す。
直人はそれに腰掛けて、朱理が再びキャンバスに向かう様子をじ
っと観察する。
直人 :「(あの右腕が鍵なのか?義手だけど自由に動いている……)」
しばしの静寂。結界内には、朱理の筆を走らす音だけが聞こえる。
油の匂いだけが、ゆっくりと満ちていく。
永い時間かけて、何かが彼女を満足させたのだろう。
朱理は筆を油を入れた容器の中に、静かに沈めた。
朱理 :「で、何のご用でしょう?」
背もたれのない椅子。それを回転させる。直人の方に向きなおる。
直人 :「あ、終わりました?お疲れさまです。えーと、とりあえ
:ず自己紹介しますね。月島直人といいます。喫茶店月影の
:マスターでして、あなたと同様に、結界を張ることが可能
:です」
朱理 :「はい……」
直人 :「これ、名刺です」
名刺を渡す。朱理は、左手でそれを受け取る。僅かに緊張が走り、
消える。
朱理 :「…………」
朱理が、名刺の内容を読みとり終えるのを待ち、直人は話を再開
する。
直人 :「僕は、2年ほど前に、終末の住人に目覚めました。あな
:たは、どれくらいになるのですか?」
朱理 :「終末の………住人?」
直人 :「あ、僕が勝手につけたんですがね……結界を張り、災厄
:と立ち向かえる能力者を総称して、終末の住人と呼んでい
:るんです」
朱理 :「災厄…………ですか?」
直人 :「あなたは、気づいておられませんか?今年は1999年
:ですよね」
朱理 :「……えぇ」
直人 :「じゃあ、去年は西暦何年でしたか?」
朱理は口を閉ざしたまま、その問いに答える。
直人 :「僕は、今年は2度目の1999年だと思っています。他
:の人は違和感を覚えていないようですがね。でも、僕だけ
:がそう思っているわけじゃない」
朱理が同意の意味の沈黙を返す。
直人 :「あなたは、そんな疑問を持ったことはありませんか?」
朱理 :「何が………起こっているの?」
****************************************************************
私がどこを書いたか丸分かりですね(笑)
とりあえず、次を書こうと思いますので、しばしお待ちを……。
では……また。
{
〔-------------}〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜\
〔-------------}〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜/
{
Email so_do@trpg.net
name k.ohtsuka
:
/--------------------------------------:∨∨∨∨∨∨∨)
/========================================:∧∧∧∧∧∧∧)
: