[KATARIBE 12928] [WP]EP 『訓練』

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Date: Thu, 13 May 1999 00:51:40 +0900
From: ソード <so_do@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 12928] [WP]EP 『訓練』
To: kataribe-ml@trpg.net
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こんにちは、ソードです。


 月影の店主と、その居候の5歳の少年の異能訓練の話です。

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エピソード  『訓練』
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月島直人(つきしま・なおと)
 喫茶店「月影」店長。物体操作能力者。
川島竜也(かわしま・りゅうや)
 月島直人の元に居候中の5歳の少年。光の女性体召還能力者。

喫茶店「月影」店内
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 直人     :「じゃあ、竜也、いくよ」
 竜也     :「う……うん」(身構える)

 喫茶店の店内は、さほど広くはない。その中で二人が数メートル離れて対峙
する。
 片方はこの喫茶店の店長。白いワイシャツに紺のベストを着込んでいる。
 片方は、まだ小学生にもなっていない少年。Tシャツに半ズボンという、春
には少し寒い格好だが、本人はいたって元気である。

 直人     :「大切なのは、イメージだと思う。しっかりと『彼女』を
        :イメージするんだ」(眼鏡を外す)

 眼鏡を外してすぐに、直人の左の瞳がが銀色に変色する。よく見ればコンタ
クトレンズだという事が分かるのだが、竜也にはその違いは判別できない。
 彼の「鍵」である。これから力を引き出し、このコンタクトを通してみる物
体を操作するのが、彼の能力だ。

 直人     :「さあ、『出して』ごらん」
 竜也     :「……」(目をつぶって集中している)

 竜也の傍らに、光のもやのようなものが生まれる。しかし、はっきりとした
形状を取る事はない。

 直人     :「その程度かい?自分の力で出来るのは……もっとちゃん
        :と具現させるんだ」
 竜也     :「く……も……もう、無理だよ……」
 直人     :「そうか、かわいそうに、じゃあ、彼女はあっという間に
        :消えてしまうね」

 そう言うと、カウンターにあったグラスを数個投げつける。竜也の上を通り
過ぎたときに、いきなり空中で破裂した。

 竜也     :「うわっ!」
 直人     :「彼女は消えるよ!そんな存在感ではこの世界には長く要
        :られない!」
 竜也     :「やだっ!消えちゃやだっ!」
 直人     :「だったらしっかり召還するんだ!彼女の全てを!」

 割れたガラスの破片は、そのまま重力に引かれて竜也に降り注ぐ。それを、
光のもやが竜也に覆い被さるようにして守るが、触れた側から削り取られ、霧
散して行く。

 竜也     :「いやだっ!母さん!」
 直人     :「戻れ、元ある姿にっ!」(指を鳴らす)

 地面に降り注いだガラスの破片が、今度は一箇所に、もやの中心に向かって
集中して行く。その動きは重力の束縛を解かれ、弾丸のごとき速さを持ってい
る。無数と思われる破片の一つ一つが、鋭い弾丸のようなのだ。一度に受けれ
ば、人間なら即死は免れない。

 SE     :ぱきぃぃぃん

 その破片が、すべてはじかれた。別の場所でグラスへと再生している。はじ
いたのは、光の壁。竜也と彼を抱くように座っている大人の女性の形状を持っ
た光の固まりの周囲を、薄い光の壁が包んでいる。

 竜也     :「かあ……さん?」
 直人     :「ようやく出来たか……」

 少し息をつき、ほっとしたような表情を見せる直人。
 光の女性は、立ち上がり、光の壁を消す。

 直人     :「竜也、まだやれるね?」
 竜也     :「うん。大丈夫だよ」
 直人     :「じゃあ、続きだ。とりあえずは格闘戦だね」(身構える)
 竜也     :「うんっ……母さん。おねがいっ」

 竜也の答えを聞いてから、間合いを詰めようとする直人。しかし、それより
も早く光の女性が動く。

 直人     :「げっ」

 瞬時に間合いを詰められ、動揺する直人。女性は打ち込んで来ない。

 直人     :「このっ!」(右拳を彼女に向かって放つ)
 竜也     :「母さんっ」
 光の女性   :(そのまま前進しつつ拳を避け、直人とのすれ違いざまに
        :膝を腹に叩き込む)
 直人     :「速いっ?!……ぐっ……(服の再生っ……衝撃は緩和し
        :きれないかっ)」
 光の女性   :(膝を下ろそうとする瞬間に、前のめりになって無防備に
        :なった直人の後頭部を肘で狙う)
 竜也     :「あっ……母さん!ストップ!」
 光の女性   :(肘を直人の後頭部の直前で止める)

 光の女性は、そのまま直人の側から離れ、竜也の元に戻ってくる。
 直人は、まだ前傾姿勢のままだ。骨にも内臓にも異常はないが、素人のパン
チを腹部に受けたくらいの衝撃は残っている。

 竜也     :「おっちゃん、大丈夫か?」
 直人     :「ああ……大丈夫だよ。まさかそんなに速く動かれるなん
        :て思っても見なかったよ」
 竜也     :「うん」
 直人     :「服を瞬間で再生と崩壊を繰り返させて衝撃吸収したけど、
        :普通だったら内臓破裂おこしてるね……」
 竜也     :「うん……ごめん」
 直人     :「謝る必要はないさ。手加減はこれから覚えていけば良い
        :んだからね。でも、手加減が出来るまでは、普通の人に使っ
        :ちゃだめだよ」
 竜也     :「うん。大丈夫」
 直人     :「さて、次の訓練にいこうか。さすがに僕が相手をすると
        :もたないから、グラスを使おう」(グラスをカウンターに
        :3つ並べる)
 竜也     :「どうすれば良いの?」
 直人     :「この位置から、この前出してた光弾であれを狙うんだ」
 竜也     :「うん!分かった!」
 光の女性   :(右手をカウンターの方に向け、竜也を見る)
 竜也     :「うん……行くよっ」
 光の女性   :(野球ボールくらいの光弾を3つ発射)
 直人     :「でかいっ!」

 彼女の放った光弾は、正確に3つのグラスに命中した。そのまま貫通し、背
後の棚に命中する。棚を崩壊しつつ、壁を貫いて爆発、店の半分を吹き飛ばし
た。

 竜也     :「あ……」
 光の女性   :(困った顔で竜也を見る)
 直人     :「あらら。全く、ここが結界内じゃなかったら、大惨事に
        :なる所だよ」
 竜也     :「うん……ごめんなさい」
 直人     :「まあ、そのための結界だけどね。でも、本当に使い方を
        :間違えちゃだめだよ」
 竜也     :「うん。もっと練習しなくちゃいけないね」
 直人     :「今日はもう終わろう。そろそろ店も開けないといけない
        :しね」
 竜也     :「うん」
 直人     :「じゃあ、結界を解くから、さよならしなさい」(眼鏡を
        :かける)
 竜也     :「あ……」(光の女性を見る)
 光の女性   :(竜也に微笑むと、勝手に消えてゆく)
 竜也     :「……またねっ!」
 
 光の女性は消え、直人の左目の色も元に戻る。

 直人     :「さて、最後の練習だ。僕の張った結界を解いてごらん」
 竜也     :「え……」
 直人     :「そんなに強く張ってないから、簡単だと思う」
 竜也     :「うん」(目をつぶって集中を始める)

 しばらくすると、外の雑踏が戻ってきた。破壊された店も元どおりになっている。
 無事、結界が解かれたのだ。

 竜也     :「ふうぅぅ」
 直人     :「お疲れさま。よくがんばったね。じゃあ、お昼ご飯にし
        :ようか」
 竜也     :「うん!」
 直人     :「じゃあ、特別にハンバーグでも作るかな」
 竜也     :「うん!」
 直人     :「玉ねぎも、たっぷり入れるからね」
 竜也     :「え゛……」
 直人     :「好き嫌いしちゃ、大きくなれないぞ。あと、僕の事は
        :『お兄ちゃん』と呼ぶように」
 竜也     :「うぅ……根に持ってる……」
 直人     :「そんな事はないさ、君のためを思ってのことだよ」

 そう言いながら、玉ねぎを切り出す直人。
 竜也の目に光る涙は、玉ねぎのせいといえば、そうなのであろう。
 月影の開店までは、あと数十分ある。

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