[KATARIBE 12871] [HA06][EP] 「氾濫」

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Date: Fri, 7 May 1999 12:51:28 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 12871] [HA06][EP] 「氾濫」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199905070351.MAA25767@www.mahoroba.ne.jp>
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99年05月07日:12時51分16秒
Sub:[HA06][EP]「氾濫」:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
ふと気がついたら、これ、送ってなかったんですなー。
連休前に書いてたものに、手直し手直し(笑)
「夢渡り〜風糸」に繋がります。

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EP「氾濫」
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 知ることは、力にもなる……と、時折聞く。
 ただ、それを振りまわすのか、振りまわされるのか。

 
 からからと、シャッターを降ろす音。そして裏口が開く音。
 瑞鶴、夜。
 しゅんしゅんと元気良く音を立てるやかんを火から下ろしながら、ふと、花澄が首を傾げる。

 花澄    :「そういえば……店長」
 店長    :「え?」
 花澄    :「『吹利史』の本、どうするの?」
 店長    :「……お前なんで……ってああ」
 花澄    :「この前お茶持ってった時、机の上に焦げた本があったから……」

 ふむ、と、店長は合点する。

 花澄    :「で、あの本どうするの?」
 店長    :「うん……さてどうしようかな、と」
 花澄    :「あの本だとね(苦笑)」
 店長    :「入手経路聞かれても困るしなあ(苦笑)」

 流石に、「焦げた本」を新刊書です、と胸を張って渡せるわけもない。

 店長    :「そういえば内容については何か言ってたか?」
 花澄    :「ううん。聞かなかったから」
 店長    :「……そか」

 やはり納得する。
 知る必要の無いことを知らないでいること。
 そのことを……お互い、知っている。

 花澄    :「内容……て、店長、中見てないの?」
 店長    :「俺の本じゃないからな。……ああ、流石に表紙開けて中身を確認することは
       :したけれども」
 花澄    :「……それは別として(汗)」
 店長    :「やっぱり、あれを初めに読む権利があるのは堀川さんだろう」
 花澄    :「まあ、それはそうだけど」

 とん、と、湯のみを目の前に置いて。

 花澄    :「でも、そしたら何であの本の内容が気になるの?」
 店長    :「……うん」

 本が焼かれるということ。
 その本の持つ……誰かにとっての危険性。
 『吹利史』という題。

 花澄    :「あれが、古代史だったら、って考えた?(苦笑)」
 店長    :「……やな奴だなお前は(嘆息)」

 奥六郡郷土史保存協会。
 東北地方の地祇(国津神)をまつる、と。
 多分それは、古代の域まで遡る話だろう。
 
 …………何故そんなものに、記憶の無い娘が追いかけられるのか。

 店長    :「まあ……俺が調べていいことでもないのかもしれないが」
 花澄    :「って?」
 店長    :「記憶が戻ることがあるとして……そのときに、美都さんが、
       :知られたくない過去まで含まれるかもしれないだろ」
 花澄    :「……そうかもしれないけど……」

 困ったものだ、といいたげな、笑み。

 花澄    :「……でも、美都さんは怒らないと思うけどなあ」
 店長    :「そういう問題でもないだろ」
 花澄    :「じゃ、何が問題?」

 さて、と言葉を濁して、店長はそのまま立ちあがった。


 人には、多分、見て欲しい自分と、見て欲しくない自分が居るのだと思う。
 見て欲しくない自分に、けれども気がついても欲しいのだろうと思う。
 けれども……気がついて欲しい相手と、欲しくもない相手が、いることと思う。
 気がつくべき相手も、いるのだと思う。

 布施美都、という人間から、今は、その全ての判断が消えてしまっている。
 その彼女の過去を調べること自体が……ある意味踏みこみすぎているのではないだろうか、と。

 がたん、と硝子戸を開いて、瓶とグラスを取り出す。
 花澄が肩をすくめる。

 花澄    :「……多分、考えすぎよ、お兄ちゃん」
 店長    :「まあ多分」

 知ることは、関わること。
 関わることは、恐らくより深く相手の領域に踏み込むこと。
 踏みこまざるを得なくなること。
 そして……恐らく、知ったことを呑みこむこと。

 店長    :「……まあ、この場合、仕方ないか」
 花澄    :「?」
 店長    :「まとめて、呑む」
 花澄    :「……そーだねー」

 くすんと笑う。
 恐らくは既に、自分よりも多くの知識を、呑みこんできた者の笑い。
 
 店長    :「酒代がかさむな(苦笑)」
 花澄    :「それは仕方ないもん(苦笑)」

 からん、と瓶のふちがグラスにあたり、硬い音をたてた。
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 情報の氾濫。
 「王様の耳はロバの耳〜」と叫んだ床屋さんの心情や如何に(笑)
 というか……それを、黙っていなくって良いなら、それは楽なんです。
 吐き出してはいけない、とくるからしんどい。
 そういうしんどさを、書いてみたかった、と。

 ではでは。




    

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