[KATARIBE 12808] [HA07][Story] 「学期の初め」

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Date: Tue, 27 Apr 1999 18:43:37 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 12808] [HA07][Story] 「学期の初め」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199904270943.SAA03719@www.mahoroba.ne.jp>
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99年04月27日:18時43分34秒
Sub:[HA07][Story]「学期の初め」:
From:E.R
こんにちは、E.R@フォルダ内大掃除 です。

以前、不観樹さんがIRCで動かしておられた
癸野巧君を、以前使わせていただいた、その話がありますので、
流します。
「学期の初め」っても……これ、三学期、ですね(汗)

*********************
「学期の初め」
=========
 
  明けたばかりの空気はざんと冷たくて、その癖年の初めのもつ不思議な力を
 含んでいる気がする。
  うんと、手を伸ばしてみる。
  指の先が、じんとかじかんだ。

  三学期が始まった、その翌日。
  始業式の次の日、つまり今日が宿題テストで。それが終わった後は……
 ……流石に一日で終わってくれたものだが!……皆とっとと帰ってしまった。
  まあ、例外というか……運動系のクラブ員が、運動場をぐるぐる走っているのが
 見える。

  この学校に入学して、もう9ヶ月が過ぎた。
  そうするとやっぱり気に入りの場所は出来てくる。あたしにとってはここが
 その一つだった。
  運動場の、そのまたはずれ。夏には木陰として重宝しそうな小さな木立。
 今はその殆どが裸の枝を空に突き上げている。何枚かの葉がかろうじて枝に
 残っていて。
  生きている。でも眠っている。
  うん、と手を伸ばす。と、今度は温みのある手応えが返ってきた。

  生死を、あたしは呑み込む。
  それは、時々苦い。
  でも、今の木立ならば眠っている。こちらの多少の不備に反応して力を流す
 ことは……否、力を吸い取って仕舞うことは、多分、ない。
  だから、安心する。だから、うんと手を伸ばす。
  だから……暫く目をつぶる。

  ……と。
  不意に、歪んだ。
  何が、と問われると困る。でも、何かがひどく歪んだ。
 それはよくわかった。否、確信した。
  ……何が?
  寝っ転がっていた木の根元から上半身を起こす。ばらばらと髪にくっついていた
 枯れ葉が落ちるのがわかる。
  眼鏡に一つ絡み付いたのを払いながら、見まわす。
  すぐに、歪みはわかった。
  数本先の木のところに、前のめりに膝をついている男子生徒。ぜいぜいと、
 擦れるような呼吸音。時に早く、時に間遠になる、はっきり言って聞いている方が
 しんどくなるような。
  風邪?それとも…これならば喘息か何かだ。
  聞いているだけでこちらの喉もおかしくなるようで……
 思わず顔を顰めている。反射的に、入力先を設定する。
  呼吸器の一時的な肥大。それを『撫で』て、癒す。一時凌ぎなのだが、
 それはそれで楽になるらしい。
  ……にしても、症状がひどい。
  思わず周囲から力を吸い取りそうになるのを必死で堪えた。今の時期、下手に
 木々から生命力を吸い取ると、枝の数本枯れるかもしれない。
  体がぐらりと揺れる。ごん、と、頭が根元に逆戻りするのを知覚する。
  ひどい、目眩。
  と、相手が顔をあげた。不意に規則正しくなった呼吸音。
  驚いたように、相手はこちらを見ている。
  ……後輩?
  ふと、そう思ってしまって、内心苦笑する。後輩も何も、一年生に後輩がいるわけが
 ない。
  でも、相手は確かに、後輩、と、一瞬勘違いするような体格だった。何せ小さい。
 ぱっと見ただけでも多分あたしより小さい…小柄なことがよく分かる。背も、体格も。
  そして、色白の、如何にも気弱そうな顔立ち。女だったらそれこそ『深窓の令嬢』
 とでも評されそうな……。
  に、してもだ。
  大きな目、見開いて……そこまでまじまじこちらを見る必要、あるってえのか?
「……何よ」
「すっ……すみませんっ」
  相手は慌てて頭を一つ下げると、とっとと走り出す。
  癪に障る。何だかこちらが悪いことをしたようじゃないか。
「……何だってんだ」
  不当ではない筈だぞ。今現にしんどい思いしてるのはこちらだ。(まあ、あのまま
 あの呼吸音聞かされてしんどい思いが持続してるのと、どっちがましか、といえば
 少々考えるけどさ)
  ……しかしまあ、ここまできっちりと『薄幸の美少女』のシチュエーションを
 模倣し……無意識であるだろうところがなお恐い……ついでに似合う奴がいるとは
 思わなんだ。
  男なのが勿体無い。どうせならばセーラー服でも着て、今の行動取って
 くれれば………
  くらくら廻る頭を抱えて、そこまで考えて……そしてあたしは苦笑した。

  生命力を吸い上げ、そしてそれを他に流す。
  一番の不機嫌の原因は、多分それだ。結局単なる変換器。己には己一人を
 生かす程度の力しか備わってはいないのだ、と。
  只今現在、この頭痛のお陰で思い知っている。
  それが、多分何よりも痛い。

  木々の、ぼんやりとした不安。そして気遣いの気配。
「いや……だいじょぶ。このまま少しここで寝るから」
  生命力の回復方法は至って簡単。寝るか、喰うか、周りから吸い上げるか。
 三番目が論外であり、手元の鞄の中に食べるものが入ってない、という場合、
 回復手段は、一つ。
  だから……そのまましばらく眠ることにした。
  微かに、寒気。皮膚から流れ出す……否、流れ出そうとする生命力を食い止めて。
  目を閉じる前に、あたしはもう一度空を眺めた。
  喰い入るように、空は蒼かった。

**********************************

  てなもんで。
  何というか……やっぱこいつ、性格悪いわ(汗)

 ではではっ




    

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