[KATARIBE 12675] [HA06]nvl: 『口紅』続き

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Date: Mon, 19 Apr 1999 11:21:30 +0900
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 12675] [HA06]nvl: 『口紅』続き 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199904190221.LAA07320@www.mahoroba.ne.jp>
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99年04月19日:11時21分19秒
Sub:[HA06]nvl:『口紅』続き:
From:久志
 ども久志です(^^)
アップするペースめたくた遅いな(^^;)

 復刻『口紅』続きです。

『口紅』
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 翌日は朝から上の空だった。何度も授業に集中しようとするが、その度に脳
裏に焼きついて離れないあの映像が浮かぶ。
 先生が、船越が、意識を失い死んだように倒れる姿。ホームにがっくりと倒
れた若い男の姿、男にすがり泣き叫ぶ女の姿。ポロシャツに、ワイシャツに、
カッターシャツに残された刻印。血の色にも似た、赤い口紅の跡。
「ねぇ、もとみー」
 すべて電車で口紅をつけられて、その後で倒れた。しかし何のために?なぜ
口紅をつける必要があったのか?
「も・と・みーっ」
 それとも口紅そのものに意味があるのだろうか?まさか毒?もしくは呪いの
類だろうか?どれも馬鹿げているようで確証が持てない、なのに不自然すぎる
偶然の羅列。
 じゃんじゃかじゃんっ!
「うわあっ」
 耳元でいきなりギターの音色が響く。顔をあげた先に、トーテムポールよろ
しく愛敬のあるフラナの顔と無愛想な佐古田の顔が縦に並んでいる。
「おどかすなよ、佐古田」
「もとみー、なにボーッとしてるの?もうお昼休みだよ、ご飯食べよっ」
「ん、ああ」
 時間感覚がすっぱり抜けている、顔をあげると教室の時計はもう12時を過ぎ
ていた。言われてはじめて空腹感を覚えた。
「やっぱり、気になるの?船ちゃんと先生のこと」
 首をかしげて神妙な顔で覗きこんでくるフラナ、やっぱりそれなりに昨日の
ことが気になっているんだろう。一人だけで悩んで、周りを心配させてもしょ
うがない、頭を振って立ち上がる。
「いや、ともかく飯食べにいこう」
 中庭の日陰でめいめい昼食を食べながら、かいつまんで、夕べの帰りの電車
での出来事を話す。駅構内で倒れた男、その背中に刻まれた口紅の跡。
「口紅…かぁ」
「ああ、間違いない。成田先生や船越のシャツにつけられたのと同じ真っ赤な
口紅の跡だった」
 さすがのフラナも黙り込んでしまう。佐古田は相変わらず無表情のまま手に
したカップを傾けた。
「…こうなると、さ、絶対偶然じゃないよね」
 しばらく黙った後にぽつりとフラナがつぶやいた。手にしたままだったクロ
ワッサンを思い出したようにはむっとくわえた。無表情のままの佐古田が手に
したスープを飲み干し、無言で肯いた。
「でもな、だからって警察に言ってもどうにもできないだろう。倒れた原因も
わからなければ、口紅が原因だって証拠もない」
「でも、実際口紅をつけられて三人も倒れてるんでしょ?」
「ああ」
 こんな憶測だらけのことを警察には言えない、口紅が原因だという証拠もな
い、これといった手がかりもない。
「そもそも、なぜ口紅をつける必要があったんだろう」
「口紅に毒が塗ってあるとか、血でも吸われたとか」
 もし、毒を塗るんだったらわざわざ服につけなくても、直接肌につけた方が
いいのではないだろうか。しかも口紅につけるとしたら自らも毒にやられる危
険性がある。血でも吸ったとしたら、服に穴でも開いてるはずだ。それに吸う
のだったら、シャツにつけられていたような唇を押し付けた跡はつかないはずだ。
「それは…なさそうだな」
「んーなんなんだろ、ね」
 そこで止まってしまう、他に想像しうるもの…
「…暗号」
 ずっと押し黙っていた佐古田がぼそりと一言つぶやいた。
「え?」
「わからない者にはわからない、が、知っている者には何かの意味を伝えるも
のかもしれない」
 無表情に淡々と語られる言葉、妙に説得力のあるように思えた。
「暗号…か」
 でも、それが本当に暗号なのか、もし暗号だとしても、何たるかがわからない。
「なんとかなるよぉ、三人よれば…なんとやらっていうじゃんっ!」
「…文殊の知恵だ」
 ともかく、今わかっていることだけでもまとめてみることにした。適当に破
ったノートの切れっ端に、思い出せることを書き出してみる。

 手がかり
 1.全て電車で被害にあっていた…犯人は電車に乗っている?
 2.シャツにつけられた口紅…犯人は女?

「男だったらやだね」
 じゃんじゃん。これは佐古田もギターで同意した。
「それと、口紅の跡がついていたのは…」
 口紅がついていたのは肩より下、肩甲骨の中ほどのところ。大体口紅のつい
ていたあたりの高さに手をおいてみる。
「この位置が唇の位置として…ちょっとフラナ顔の位置あわせてみてくれ」
 ひょこっとフラナが立ち上がり、手をかざした位置に口の高さがあうように
非常階段に飛び乗る。顔の大小もあるが、あまり大きな問題にはならないだろう。
「とすると頭のてっぺんがここの位置になるな」
 ちょうど本宮の鼻と上唇のあいだあたり。
「船越の背…俺とそれほど変わらないくらいで、先生も同じくらいだったから」
 たしか船越は一センチ低い176だったはず。昨日駅で倒れた男も、同じくら
いだったように記憶している。
「犯人の身長は160ぐらいか」
「踵の高い靴はいてるかもしれないよ」
「じゃ155くらいから見ておこう」

 手がかり
 4.被害者はおよそ身長176cmくらいの男…推定
 5.口紅のつけられた位置から考えて…犯人の身長は推定155〜160cm

「これぐらい…かな、どれも推測ばかりだけど」
「大丈夫だよ、捜査はこれからなんだからさ」
 あくまで能天気なフラナの声、フラナにとっては探偵ごっこでもしている
気分なのだろう。しかし少なくとも、一人でうだくだ悩むよりはいくぶん落
ち着いて物事を考えられる。
 丁度、昼休みを終える鐘が校舎に鳴り響いた。
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 ふに…新学期ネタもかかなきゃあ(^^;)






    

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