[KATARIBE 12614] [HA06][EP] 「明けない夜」続き

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Date: Wed, 14 Apr 1999 04:50:03 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 12614] [HA06][EP] 「明けない夜」続き
To: kataribe-ml@trpg.net
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 ども、D16です。
 はりにゃが続けてくれたのに更に続けます。

 今回は前野君と一の会話だけ(^^;

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> 十		:「十(つなし)。死んだ筈じゃ、なかったのか?」

 前野		:「知り合いですか…?」
 十		:「………」

 歯を食いしばったまま、押し黙る……

 前野		:「…では、無差別ではない、と言った理由を聞いてもらい
		:ましょうか……」
 
 別の資料を取り出すと、床に広げる。
 
 前野		:「これは、素材が画像に出てくるタイミングをグラフにと
		:ったものです…
		: 明らかに、一定のリズムが存在することが分かるでしょ
		:う?」
 
 ゆっくりとグラフの上を指でなぞる。
 それは、一見乱雑に見えながら、一定のパターンを繰り返している。
 
 前野		:「さらに、より大きなリズムによって全体が支配されてい
		:ます」
 
 うねるように波を描くグラフを示しながら、静かに語る。
 
 前野		:「これに似たものを、以前見たことがあるのを思い出した
		:んです…」
 十		:「……それは?」
 前野		:「……バイオリズムです…
		: そして、これが無差別ではない……いや…」
 
 いったん言葉を切る
 
 前野		:「特定の個人を標的とした呪詛であるという根拠です。
		: このテープは、無差別の対象を攻撃するには、あまりに
		:堅固な構造なんです」
 十		:「…………」
 
沈黙…
 
 前野		:「……では、この写真について、何か心当たりは?」

 前野はファイルから一枚の写真をつかみ、一の前に示す。
 うすぼんやりとした露出。定かではない輪郭だが、中央の表情だけははっき
りと見える。
 女性だった。
 耳の当たりで切り揃えられた髪。薄く透ける肌。色を失った唇。
 病に蝕まれてでもいるのか、やつれた故の線の細さが危うい均衡を保ってい
る。今はまだ整って見える表情も、あともう少し病魔が強くなることで凶相を
浮かべかねない。

 一十		:「双逢(ふたえ)……さんだ」
 前野		:「誰です?」
 一十		:「さっきの男、十一(つなし・はじめ)の妹だ。俺の従妹
		:にあたる」
 前野		:「何者なんです?」
 一十		:「……」
 前野		:「……」

 何分沈黙は続いたろうか。
 耐え切れなくなったのは十だった。

 一十		:「明日まで待ってくれないか。羽黒山に問い合わせる。十
		:は死んだはずなんだ。あと、双逢さんの事も」
 前野		:「それはわかりました。なら、いま一さんが話せる事、知
		:っている事を聞かせてください」

 口調は要請だが、有無を言わせぬ力強さがあった。

 一十		:「わかった」
 
 きしるような声で、一十はつぶやいた。

 ○一十の回想(1991年羽黒山)
 ---------------------------

 その頃の俺は高校の長期休みを利用して羽黒に入峯していた。
 漠然と地理風水という事をやって行くのだろうなと言う希望はあったが、そ
のために入峯したのではない。ただ、山形で風水に関して知る人をさがしてい
ったらその人は羽黒で修験を収めていたのだ。
 名を、雪爪と言った。
 雪爪師はまず、山を巡る事から俺に教えた。故に、俺は羽黒の夏峯、秋峯、
冬峯の修行に出向いた。
 修行は楽しかった。
 楽ではなかった。
 だが、山の中で感覚を磨くにつれ自分の中にうずもれていた、感覚が目覚め
て行くのを感じた。一日ごとに目に見える景色の意味が違って見えた。肉を痛
めつけ、精神を追い詰めて行く事で新たに地平が開けて行く。そんな日々だっ
た。

 そんな日々に俺は従兄弟に逢った。
 名を十一といった。

 最初、俺は奴と自分が似ているなどとは思いもしなかった。
 奴は俺とは違い元から羽黒の修験として修行を積んでおり、俺が羽黒に赴い
た時点ですでに院号を持つ術師だった。
 十(つなし)は俺にとって一番年齢の近い修験であり、師だった。
 そして何より、狭間に生きる者としての先輩だった。

 術を使うという事、人とは違う力を持つという事、人とは違う物を見るとい
う事。十はそのいずれにおいても強く自分を律していた。

 十一		:「『むこう側』の事など、普通は知らないほうが良い」
 
 奴はいつもそう言っていた。
 
 十一		:「俺たち狭間に棲む者はその事を常に思わなければならな
		:いはずだ。俺達の力は特別だ。それゆえに力の行使には細
		:心で無ければならない。普通に生きて行く人々の為に俺達
		:の異能は存在する。俺達の技術は此の世と彼の世を分かち
		:両者の不幸な衝突を避ける為のものだと思う。
		: だから、本当なら俺たちの事すら知られていないほうが
		:望ましい。俺はそう思ってる」
 一十		:「極端じゃないか?
		: 異能を持つが故の責任は分かるが、その為に自分を捨て
		:る気には俺はなれないぜ」
 十一		:「甘い、と思う。最も自分だっていざその決断を強いられ
		:た時にどうするかは分からん。だが、俺達の力が幸福をも
		:たらすばかりじゃないって事は、お前だって知ってるはず
		:だ。自分達に災いが及ぶ事だって十分にある。自分達以外
		:に及ぶ事も。
		: 俺達は人を巻き込んじゃいけない筈だ」
 一十		:「確かに、な。だが、お前はそうして捨てられるのか?」
 十一		:「その覚悟はして居るつもりだ」
 一十		:「家族にはどう説明する?双逢ちゃんには?」
 十一		:「……」
 一十		:「んなことは、いざそういうことが起きてから考えても良
		:いと思うけどな」
 十一		:「一、」
 一十		:「ん?」
 十一		:「お前、長生きするよ」
 一十		:「ありがと」
 十一		:「だが、お前に俺の背中預ける気にはならねぇな」
 
 そう言うと奴は少しさびしげに微笑んだ。

 やがて俺は高校を卒業、大学でようやく院号を得て術師として羽黒から、地
相鑑定などの仕事の見習を世話してもらっていた。
 奴は羽黒の修験としてあちこちの仕事に借り出されているようだった。電話
をするたび、兄の不在をわびる双逢さんに、ふと奴の科白を思いだし、俺は少
し、十に腹を立てたりもした。
 だが、そんな日も長くは続かなかった。

 ある日、双逢さんから電話が来た。
 奴、十一の死を告げる電話だった。

 ○松蔭堂の土蔵(3/28深夜)
 -------------------------

 前野		:「その男、十一さんは本当に死んだんですか?」
 一十		:「ああ、通夜から焼き場まで俺は同行した。確かに、奴は
		:死んでいた。仕事中の事故でな。遺体の損傷は、さほどで
		:も無かったよ。奴だと分かったからな」
 前野		:「本当に、死んでいたんですか」
 一十		:「骨は俺が拾った」
 前野		:「そう言うことを聞いてるんじゃないって事ぐらい分かっ
		:てるはずです!本当にその死体は十一という男のものだっ
		:たんですか?」
 一十		:「双逢さんをあれほどまでに悲しませてまで、死を装う必
		:要がどこにある!」
 前野		:「奇麗ごとだけですむ世界じゃないでしょう?あなたがど
		:う思おうと、その十という男はその時、何らかの要因で死
		:を装う必要があったんです。他に、何か今この状況を説明
		:できますか?その十という男が、」
 一十		:「待て、言うな!」
 前野		:「直紀さんを呪っているんです!」
 一十		:「違う!たとえ、十一がまだ死んでいないとしても、十に
		:は理由が無い!」
 前野		:「なら、この人はどうなんです?この女性は、一さんの話
		:によれば、この人は双逢さんだ。あなたの従姉妹だ。なぜ
		:、この人があのビデオに映っていたんです?
		: このデータ、」

 そう言うと前野はグラフを指し示した。
 
 前野		:「直紀さんのバイオリズムに沿って、調整された呪詛。
		: 一さん、何度だって言って見せる。
		: 直紀さんは、呪われたんだ。あなたのいとこのどちらか
		:一方に!
		: 原因に一番近いところに居るはずなのは、一さん、あな
		:ただ!」

 途中から二人は叫んでいた。
 しかし、冷静なままで叱責する前野に対し、一は明らかに肩を波打たせ、動
揺を明らかにしている。

 再び、母屋で鐘が鳴った。
 
 一十		:「明日、羽黒に問い合わせてみる。
		: 俺が最後に知る限りでは、双逢さんは十の葬儀のあとは
		:実家に帰っているはずだ。連絡するよ。
		: 声を、荒げて、すまない」
 前野		:「人の命がかかっています。緊急に、お願いします。何か
		:あったら。無道邸の方へ来てください」
 一十		:「調査、ありがとう。感謝している」
 前野		:「それでは」

 前野を松蔭堂の前まで見送ると、一は春冷えの空を見上げつぶやいた。

 一十		:「何が、起きているんだ……」

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 ここまで、はりにゃ口調修正をお願いします。今回かなり勝手にしゃべらせ
ちゃったんで、
「んなこといわねぇよっ!」
 てのが有ったら、遠慮無く切ってください。

 なお、同時期にキノエとキノトは十一の元にゆき、式神返しされます。そし
て、3/29(月曜日)の夕方頃ベーカリーに赴き一十を連れ出し、吹利市郊外で襲
いかかります。
 ユラが麻樹さんを呼ぶのは3/28(日)の夕方当たりです。
 ちょっと整理。

 3/24(水)	夕方	直紀呪いビデオを見る。
			観楠店長十一を目撃
		夜	松蔭堂土蔵にて直紀と一十普通のビデオみる。
			(少し体調悪くなる)
 3/25(木)	朝	直紀会社休む。紘一郎呪いのビデオの話をする
		昼~夕方	松蔭堂にて一十、前野、煖、花澄呪いのビデオに気づく
 3/26(金)	早朝	直紀疑心暗鬼、その後会社へ
		昼	紘一郎情報収集、夕方直紀宅へ
 3/27(土)	昼	花澄、十一目撃
 3/28(日)	朝	直紀グリーングラスへ、ユラ寝かせる。紘一郎へ連絡
		昼	紘一郎グリーングラスへ直紀容態急変、呪詛と判明
		夕方	紘一郎、一十に連絡。その後、一十はキノエキノトを
			打つ。
		夜	前野調査完了、一十宅へ
		深夜	前野と一十の話し合い

 今のところこんなとこです。

 それじゃ。

柳田真坂樹(Masaki Yanagida)
東京大学農学部森林理水及び砂防研究室
研究生
e-mail:yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp
    

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