[KATARIBE 12515] [HA06][Novel] 「 hold 」

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Date: Tue, 6 Apr 1999 18:28:05 +0900
From: fukanju@trpg.net (Rosei Fukanju)
Subject: [KATARIBE 12515] [HA06][Novel] 「 hold 」
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ども、不観樹露生@貯めてたえぴそど放出強化週間(^^;  です。はい。

  麻樹の一人称小説です(^^;

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「hold」

  強い春の風が吹き荒れた。
  そして、その翌日は雨だった。
  窓の外の雨音で、目を覚ました。
  窓は開け放したまま。
  それほどでもない雨足。
  吹き込んできてはいない。
  気付く。コートを着たまま。
  …………昨夜は。
  丑三つ時、静まりかえった母屋の階段を、音を立てないように登
り、自室の戸を開けて閉めて。
  そして、そのまま、戸に寄り掛かった。そこまでは憶えている。
  つまりはそのまま眠ってしまったという事だ。
  そのまま、窓の外を、灰白色の空模様を感じとる。
  意図的に、脳を目覚めさせない。
  曖昧なまま、身体の筋肉へ、何も指令も出さないまま、holdする。
  休息。休養。動かないままでよい、贅沢な時間。
  凪ぐ、精神。
  雨音。

  憶い出している。
  あの日もこんな…………雨だった。
  自分と莫迦兄貴とあいつと…………彼女と。

「髪の長い方が、麻樹、短いのが、美樹」
  あいつはそういう失礼な見分け方をした。
  見分けて欲しかったのは自分。
  だから、あの時は。生まれて初めて髪を伸ばした。
  生まれて初めて。見分けて欲しいと思ったから。

「ねぇ、大丈夫なの?」
  うるさい。少しは静かにしろ。
  鍼を打つ。あいつの顔から、苦痛の色がゆっくりと抜ける。
  感覚を遮断して。
「兄貴、包帯」
  傷の処置を終える。
  あいつの手は。彼女の手が握り締めている。
「一応の処置だけしておいた。死ぬことはない」
  そう告げる。汗で額に貼り付く前髪が、邪魔だ。
  まだ腕が不足しているから。完全には治療できない。
  誰にも見えないように、頬の裏を噛む。
  痛み。

「気をつけて。向こうに着いたら…………落ち着いたら。気が向い
たら、連絡して下さい」
  兄貴が、あいつに告げる。
  彼女が、ハンドルを握る車。助手席。
  降ろされたままの車窓。あいつの前髪に、振り掛かる、雨。
「傷に障る。これ以上濡らさない方がいい」
  告げる。
「ありがとう。美樹。そして、麻樹」
  パワーウィンドウで、車窓が閉じる。それが、一回止まる。
「そーいや、麻樹、なんで髪切ったんだ?」
「邪魔だったからな」
  刈ったばかりの髪の中を。雨が流れていく。
  車は走り去っていく。

  還るもの。
  還らないもの。
  hold。
  そのままにとどまるもの。

  トントントン。
  階段を上ってくる音。この足音は、ご隠居。
  目を覚ます。窓の外の雨は止んだのか、鳥の声。
  後ろ髪の下を掻く。いい加減、また髪も伸びた。
  休日はまだ半日も残っている。床屋にでも、行くとするか。

                                                        Fin.
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  ちなみに、思い出しているのは高校2年の時の事件です(^^;
#せめて、制服で区別しろよ(爆)>友人

  で、床屋に行こうとする途中で、花澄さんにつかまって、
髪に紐の編み込みとかされるのかも(^^;


廣瀬瑞樹 Miduki Hirose


    

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