[KATARIBE 12514] [HA06][EP] 「自転車泥棒」

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Date: Tue, 6 Apr 1999 18:27:18 +0900
From: fukanju@trpg.net (Rosei Fukanju)
Subject: [KATARIBE 12514] [HA06][EP] 「自転車泥棒」
To: kataribe-ml@trpg.net
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ども、不観樹露生@左手打ち込みになれてきた(汗)  です。はい。

  かなり前に自転車泥棒にあった時のネタをちょっと(^^;

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「自転車泥棒」

  春は夜明け。
  物狂おしいほどに、美しいシーズン。
  夜明け前は自殺者の一番多い時間帯。

美樹:「はふ」

  狂うことと。
  現実を見つめることは全くの独立事象で。
  おそらくは。

前野:「どうされました?」

  ふとかけられた声に、顔を上げる。
  前野氏。

美樹:「いえ。自転車を盗まれましてね」

  昨日の夜明け。コンビニエンスストアの前。
  ほんの一品を購入するだけの用で。
  ついふだんは掛けるはずのロックをかけなかった。

前野:「おやおや、それは災難で」

  薄暗い日でも、このベーカリーの奥でも決して外さないサングラ
スの奥の目は見えないが、善人である。

美樹:「コンビニにちょっと買い物するつもりで、鍵を掛けるのを
        忘れましてね………」

  レジをしている最中、ふと表側を振り返った瞬間に、自分の自転
車をコートの男が引っぱり出しているのを見つけてしまう。
  店員に財布をぽんと預けて飛び出す。
  それでも、それは致命的な遅れ。
  自転車の速度には。
  それほど足が速いわけではない。いや、小学校のかけっこではい
つもビリが指定位置であった。
  最初に掛けたダッシュの効果が切れると、たちまちに息が切れる。
  肺が、眼を回す。
  足がもつれ始める。
  引き離されていく。夜明け前の大通りを、自分の自転車が、見知
らぬ男に操られて。自分を引き離していく。
  突然胸郭に走る痛み。右手で左胸を押さえながら、走り続けよう
とする。足がもつれる。転ぶ。
  自分の愛車の姿を見失って、無様に転んだまま前を見る。
  街路樹の根っこで強く打った右の二の腕が、麻痺したように痛む。
  ちょうど、道の真っ直ぐ先の山の上から。朝日が昇る。

美樹:「……というわけでしてね。取りあえず、警察に盗難届を出
    :  すやら、なんやらで、このばたばたと忙しい時期にいや、
    :  参りました」

  悪人ではないのだ。自転車泥棒も。
  盗まれた人間への想像力が不足しているだけで。おそらく。

前野:「ほんと、災難でしたね」

  だから、取りあえず、笑んでみしょう。
  世界から。自転車泥棒が無くなる日まで。

                                                  (おわり)
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  つーことで、ハリにゃ、訂正とかあったらよろしく(^^;



廣瀬瑞樹 Miduki Hirose


    

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