[KATARIBE 12474] [HA06][EP] 「明けない、夜」まとめ

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 31 Mar 1999 22:45:22 +0900
From: fukanju@trpg.net (Rosei Fukanju)
Subject: [KATARIBE 12474] [HA06][EP] 「明けない、夜」まとめ
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199903311346.WAA01911@ns.trpg.net>
X-Mail-Count: 12474

どもぉ。不観樹露生です。

「明けない、夜」をとりあえず順番どーりにくっつけただけですが(^^;
まとめです。
改行の整形もしてないし、EP形式にもちゃんとなってません(汗)

#Macintosh用のeditorは使いなれてないからなぁ(汗)


*************************************************************************

EP:「明けない、夜」
====================

○黄昏に
--------

 窓から冬の西日が差し込んでいる。
 吹利市街のビデオ制作、販売会社(有)ELnetのオフィスで、在庫のビデオテー
プと格闘しているOLが一人。

 直紀          :「だー!だから、香港映画ははけないって言ったのに!」

 散乱しているビデオのパッケージは香港製のカンフー映画。町場のビデオ屋で
は人気があったが、こんな物はふつう長距離バスの中では見ない。

 社長          :「おかしいなぁ、面白いし。それにこっちは結構話題になっ
                :たじゃないか」
 直紀          :「だからといって、バスの中で『スピード』なんて見たくな
                :いです」
 社長          :「つまりあれだね、誰も船に乗ってる時には『ポセイドンア
                :ドヴェンチャー』は見たくないって言う(笑)」
 直紀          :「(わかってりゃするなっつーの)……あれ、これは……な
                :んだろ」
 社長          :「ん?どしたね柳くん」
 直紀          :「しゃちょーこのビデオ、制作のほうのが混じってますよ。
                :パッケージが真っ黒でなも書いてないです」
 社長          :「ンなはずはないと思うが……」
 
 一時間後。
 黄昏時、部屋に明かりがともる。フローリングの部屋。少し乱雑にものが散ら
かっているのはここしばらくすーが来ていないせいだ。

 直紀          :「今度また、こーいちろーに来てもらわなきゃなぁ」

 ぱたぱたと部屋着に着替えると、紅茶のマグカップを抱えてテレビの前に座る。
 会社からちっと借りてきたビデオを取り出す。
 役得というやつらしい。

 直紀          :「『スピード』と『タクシー』は今見てもいいけど、『カン
                :フー・カルトマスター魔王教主』は一さんとこで見たほうが
                :いいか」
 
 と、抱えたテープの中からなにも書いていないパッケージがぽとりと落ちる。

 直紀          :「あれ?なんであたしこんなの持ってきたんだろ?」

 何も書かれていないただのパッケージ。落とした拍子に開いたパッケージの中
からは同じようになにもラベルされていないカセットが見えている。

 直紀          :「っかしいな。制作のほうじゃないのかな?」
 
 取材や素材としてのビデオでも、どんな物かというラベルぐらいは貼る。
 未使用の物かと思ったが、爪は折られていた。

 SE            :「がしゃこん、きゅるるる」
 直紀          :「なんだろ、真っ暗でよく見えないなぁ」

 暗闇の中、かすかに明滅する光。蛍か、蝋燭か。
 音は風と木々の葉ずれにも似たかすかなざわめき。
 と、光が動いた。
 いつのまにか直紀の視線はその光に誘われている。
 スピーカーからの音は相変わらずだが、何の編集もされていないその音が却っ
て見るものに緊張感を抱かせた。
 そして、

 直紀          :「……あれ?」

 画面にノイズが流れていた。部屋は暗闇に飲みこまれている。唯一の光源であ
るテレビの青白い光が直紀の顔を照らし、窓に映していた。
 直紀は外を見る。

 直紀          :「……わっ!」

 人がいたように見えた。
 すぐにそれが窓に映った自分の姿だということに気がついたが、なにか不安は
拭えなかった。
 それはきっと、白いノイズに照らされた自分の表情がその時あまりに虚ろで、
まるで死に顔を思わせたからに違いなかった。

 SE            :「きゅるるる。がしゃ」

 画面がブルーバックになる。
 テープが終わったらしい。

 直紀          :「……っていま何時?!」

 時計を見る。
 暗いはずだ。八時を回っている。
 二時間近く直紀はこのテープを見ていたことになる。少なくとも時計はそう言
っている。

 直紀          :「ねてた、のかなぁ」

 直紀は気味悪げにぶるっと震えると、電話を取り松蔭堂に電話をかけた。
 一の在宅を確認すると、直紀は『カンフー・カルトマスター魔王教主』のテー
プをかばんにつめこんだ、そして一瞬ためらい、なにもラベルされていなかった
テープを取って部屋を出た。
 
松蔭堂にて
かしゃんと小さな音を立てて垣根の扉が開く

直紀:「へへへ、こんばんわぁ」
十 :「あ、いらっしゃい。いま暖房つけるから」
直紀:「…って、この寒いのに暖房切ることないでしょうに(^^;」
十 :「さっきまで居間の炬燵にいたから。ほら、浮かせられるモノは浮かせないと!
それに
  :布団をかぶれば寒くないっ(うんうん)」
直紀:「まぁ一さんらしいか(苦笑)それはそうと、何か好みっぽいビデオがあったから
  :持ってきたよー」

がさごそとバッグを漁り、先ほど持ってきた
『カンフー・カルトマスター魔王教主』の文字が妙にポリゴナイズされた
テープを目の前に突きつける。

十 :「こ、これわぁ!!伝説のカルトマスターと呼ばれた老祖父が主人公にその技
を伝承したが、
  :直後に魔王の儀式により生け贄にされ、村は37秒で壊滅!唯一生き残った主
人公の娘が
  :主人公の技を密かに盗み富を欲しいままにしている男に弟子入りをし、いつか
は魔王教主を
  :倒すという壮大なストーリーー!!(ここまで一気)と噂に高いあのビデオで
はっっ」
直紀:「………………………むちゃくちゃB級っぽいよ、それ(^^;」

第一噂にはなってないぞ、おそらく。

十 :「早く見よう、見よう!直紀さん(わくわく)」
直紀:「はいはい。…みゅ?」

パッケージから取り出し、デッキはどこだったかいな?と
きょろきょろしてると、じーーっと顔をのぞき込まれる

十 :「じーーーーーー」
直紀:「な、なにかな??」
十 :「なんだか顔色が良くないようだけど…」
直紀:「うーん、そっかなぁ。最近忙しかったから疲れが溜まってるのかもね」

がさごぞとテレビ前に散乱した本やらビデオやらをかき分けテープをセットする
ビデオは妙な盛り上がりを見せ、そろぞれ
やっぱりB級なりのこだわりとアジがたまらないね!
とか
あこでの無意味な効果音や爆発音が何とも言えん!
だのそれぞれ感想を言い合ってると

十 :「あれ?こっちのビデオは?」
直紀:「あ、それ?何だか制作の方のビデオも一緒に持って来ちゃったみたいなんだ。
  :だけどねえ、なんか変なんだよね」
十 :「変?」
直紀:「うーーんと、うまく言えないんだけど…こっちは明日みよっか、もう
  :遅いし」


○影の入場
----------

 吹利駅前。夕暮れ時。
 店の常連と本宮に店を預けて、湊川観楠は銀行にやってきていた。
 大した用ではない。

 観楠          :「さてと、用事も済んだし早いところ戻らないと」

 うんと伸びをして、商店街をベーカリーに向かって歩き出す。
 冬の黄昏時、商店街は夕食の買い物をする人々で心地よい喧騒に満ちている。
 と、観楠の目の前を一人の大柄な男が横切っていった。

 観楠          :「あれ?あれは一さん?」

 一瞬観楠が別人と思ったのも無理はない。背格好や顔立ちは似ていたものの、
その男は仕立てのよさそうなスーツにグレーのロングコート。きれいに櫛の入っ
た髪の毛にきっちりと髭をあたってある。
 おおよそ、観楠の知る一とは思えなかった。

 観楠          :「(一さん、就職の面接にでも行ったんだろうか)一さん!」

 観楠は呼びかけた。
 が、男は答えなかった。
 やがて、男の姿は吹利の雑踏の中に消えた。

 観楠          :「人違いだったかなぁ」



○ビデオ
----------

ブラインド越しに朝日が射し込む
すがすがしい朝の雰囲気

直紀:「あ”ぉ”う”ーーーーーー。だるーーーーーーーー(ぐてぇ)」

…年頃の女が『あ”ぉ”う”ー』はないだろうに(;_;
直紀がもそもそ布団の中で動いてると、玄関の方から声が聞こえてくる

すー :「あれ?鍵あいてるよ、こうちゃん」
紘一郎:「いくら姉でも、鍵開けたまま外出しないはずだし、まだ中に居るんじゃな
いか?」

直紀 :「(うにゅ、うるしゃいやい)」
SE :もぞもぞ

すー :「あーなおちゃん、何してんのよう!会社始まってるじゃないよ」
直紀 :「あう”ーー。なんか、だるいんだよう、動く気しないんだよう(もそもそ)」
すー :「もーー!昨日まで元気だったくせに何言ってんのよ。ほらぁ、退いた退いた。
   :掃除できないでしょーー」
紘一郎:「俺がな(はぁ)」

一通りの片づけを終え、かちゃかちゃとお茶の準備をする。

直紀 :「でもちょうど良かったさーー。そろそろ片づけに来てくれないかなーー
   :って思ってたのさーーー(ぐてーー)」
紘一郎:「この時間居たのは予定外だったが、まぁちょっと聞きたいこともあったか
らな」
直紀 :「ふぅん。あ、すーちゃん、そこの週日野菜取ってぇー」
すー :「もう、結構元気なんだから自分で取りなよねー(ぽい)」

直紀 :「さぁんきゅう。水分補給ーーーっと、あれ??」

コップを横に傾け、液体を取ろうとするが、出てきたのは
オレンジ色のとろっとした液体だった。
どう見てもゼリーには見えない。

すー :「むう、ゼリーにする気力も残ってないのか(^^; だいじょぶ?」
直紀 :「???おっかしいなぁ、ちゃんとゼリーになってるハズなんだけどなぁ。
   :…まぁこれはこれで、いいか(ごきゅごきゅ)」
すー :「うん。確かに。また違った味わいが(ごきゅごきゅ)」
紘一郎:「…それはそうと姉ちゃん。会社で妙な噂聞かないか?」
直紀 :「みゅ?噂??(ごきゅごきゅ)」
紘一郎:「ああ、”呪いのビデオ”の噂だ」


○拡大
-------

  次の場面は………泣声から始まったりする。


  ぢいいっと、かすかな声。
  松蔭堂の玄関にいた花澄は、飛び上がった。

  花澄   :「な、何事っ?!」
  訪雪   :「……ゆずさん、ですかな?」

  ぢい、としか聞き取れない声は、しかし、花澄の耳には悲鳴と聞こえた。
  
  花澄   :「あの今ゆずどこにっ?」
  訪雪   :「多分、一君のところに……」
  花澄   :「有難うございます、失礼しますっ」

  一息で二つの挨拶をしてのけると、ぱたぱたと一氏の部屋へと向かい……

  前野   :「あ、こんに……どうしました?(汗)」
  花澄   :「え、今あの、ゆずの声が……」
 
  ぢいいいいっ、と、今度はもっとはっきりした声がした。

  前野   :「あ、本当だ」
  煖     :「ゆずちゃん、ですね」

  その声を背後に聞き流して、はたはたと走って……

  花澄   :「ゆず?!」
  譲羽   :「ぢいっ(花澄ぃっ!)」

  ぴょん、と飛びついてきた少女人形を抱え上げて……で、見たものは。

  花澄   :「………(脱力)」
  十     :「ん?どした。ゆずちゃん。そんなに怯えて?」
  譲羽   :「ぢいいいいいっ(わああああんっ)」

  暗い部屋から出てきた……声から察するに一らしい人物は、すっぽりと
 ゴジラのマスクを被っている。

  花澄   :「気持ちは判らないでもないですけど………前野さんの次は一さん、
         :そんなにゆずを脅かさなくても(苦笑)」
  前野   :「私は脅かしてないんですけど…(^^; 」
 
  後ろから追いついてきた前野が苦笑する。

  十     :「あうあう、冗談だって。はいはい外すから」

  脱ぐと今度はガメラマスク。

  譲羽   :「……ぢいいいいっ(ひしっ)」
  十     :「うむ、これもこわがるか。無理はない」

  すぽん、とそれも脱いで。

  花澄   :「…………(一体何重になってるの(汗))」
  十     :「じゃあ、この埴輪マスクだ。これならタイチやシュイチと一緒」
  前野   :「怒りモードになってますよ(汗)」
  十     :「へ?ああ、間違えた」
  譲羽   :「ぢいいい……(へばりつきっ)」

  かくかくと、木粘土製の体が音を立てて震えている。

  花澄   :「……一さん?(にこにこにっこり)」
  十     :「じゃあ、いいかげんにマスクとりますね。どれどれ、ごしごし。
         :はいとれた」

  で、とれた後には……お約束通りのっぺらぼう。

  譲羽   :「…………ぢい」

  譲羽のほうは恐いもんだから、とれた、と言われてもよう見ない(笑)

  花澄   :「……見なくて正解(溜息)」

  と。

  煖     :「あの〜、十さ〜ん(ぱたぱた)」

  何時の間に入り込んだのか、一の部屋のほうから煖が声をかける。

  十     :「はぁい」

  向けられたのっぺらぼうの顔に驚いた様子も見せず、

  煖     :「この、“季刊 全国高校生制服専門紙 Boys-B”は、
         :どの棚に置きましょうか?(にっこり)」
  十     :「……(のっぺらぼうのまま滝汗)」
  前野   :「………(^^;)」
  十     :「ああ、ちょっとまって、その引き出しをあけるとすごいことが!」

  形勢逆転。
  それに追い討ちをかけるように。

  花澄   :「……そうですか、口がないなら食べられませんよね……
         :煖ちゃん、これどうぞ(にっこり)」

  手に持っていた箱を差し出して。

  花澄   :「ショートケーキの詰め合わせ、ですけど」
  煖     :「あ、ありがとうございます(にこにこ)」
  十     :「だあああああっ!い、今顔出しますからっ!」
  花澄   :「……(苦笑)……はい、どうぞ」

  箱を一旦、押し頂くにしてから横の棚の上に置き、ぺりぺりと特殊メイクを
  剥がし出す。その音に、ようやく譲羽が頭をもたげた。

  十     :「にしてもよくできてるでしょこのマスク。サークルの後輩が
         :特撮研で。うちに来たらだれか脅かそうと思ってたんですが」
  譲羽   :「……ぢい(恐る恐る)」
  前野   :「ゆずちゃん、大丈夫?(苦笑)」
  譲羽   :「………ぢい(涙目でこっくり)………ぢいぢいぢいっ
         :(一さん、こわかったのっ)」

   手をぶんぶん振りまわしての、力説である。
 
  十     :「最初の獲物がゆずちゃんとは思わなかったな。しかし、
         :脅かしがいがある。おばけの気持ちわかるなぁ」
  譲羽   :「………ぢい(恨みがまし〜)」

  苦笑した花澄が、まだぱたぱたと背後で動きまわっている煖に声をかけた。
 
  花澄   :「煖ちゃんも……如何です?ケーキ」
  煖     :「この、“愛蔵版ビデオ 青葉”シリーズと、“全国制服美少年
         :データベース”の整理が終ってから頂きますわ(にっこり)」
 
  一瞬、取るべき表情を選び損ねた前野と花澄である。

  十     :「(事態を認識したらしい)だぁーっ、だから引き出しのなかは
         :駄目だって!」
  煖     :「はいはい(にこにこ)」
  十     :「だいたい、何でまた急に……」
  煖     :「あら、キノエちゃんから一さんのお部屋、是非とも掃除して
         :貰えないかって、頼まれたんですけれども?」
  十     :「何で最初にそう言ってくれなかったんですかぁ?(泣)」

  ………それどころでは無かったような気がする。

  十     :「ああまったく……(引き出しを閉めている)」
  煖     :「じゃあ、この封禁してあるビデオボックスの方を…(いそいそ)」

  何やらぶつぶつ言いながらあちこちを取り繕いはじめた一を尻目に、
  煖は、ビデオボックスを開いた。

  十     :「あ、そこのは直紀さんが持ってきてくれたビデオで(汗)」
  煖     :「あら?こちらのはタイトルが書かれてませんけど……」

  『カンフー・カルトマスター魔王教主』と書かれた方はそのまま、
 つい、と、ラベルの無いテープを引っ張り出す。試すすがめつした挙げ句、
 近くにあったビデオに突っ込む。
  見事な手際である。

  SE   :(ガショ…きゅるきゅるきゅる…)
  花澄   :「………(汗)………あ、あの煖ちゃん、それ……見ていいの?」
  煖     :「でも、タイトルくらいは見ないと、ラベルが付けれませんもの」
  十     :「って……あああ煖ちゃんっ(滝汗)」
  前野   :「……(苦笑)……ん?」

  きゅるきゅるきゅる、と、幾分かすれた音は、そのまま、テープの中の
 かすかなざわめきと重なっていった。



 ○ビデオの噂
 ------------

 直紀          :「“呪いのビデオ”ってなにさ」
 
 とろりとした週日野菜をごきゅごきゅと飲み干しつつ直紀は尋ねた。
 と、紘一郎はかばんの中から黒ファイルを取り出した。
 そう、その黒ファイルこそ吹利のあらゆる都市伝説が書かれている。
 記述は短いものから数頁に渡るものまで多種多様。
 その手が一つのページで止まる。わりと新しい記述のそれは、

 都市伝説No.2956「呪いのビデオ」

 紘一郎        :「“呪いのビデオ”は最初高校生の間で広がった話なんだ
                :話の基本パターンはレンタルビデオ屋の邦画の棚、古くて
                :あまり回転も良くないやつのビデオがたまに入れ替わって
                :いてなぜか店員も知らずにぞれを貸してしまう。ラベルが
                :ついてないから家に帰って見る時点で違いに気がつく」
 直紀          :「ふんふん」
 紘一郎        :「ここでパターンが二つに分かれる。一つは見なかったと
                :き。そしてもう一つが見てしまったとき」
 すー          :「見なかったらどうなるの?」
 紘一郎        :「何も起きない。その代わり大抵あとからそのビデオが呪
                :いのビデオだって気がついてぞっとする」
 直紀          :「……」
 すー          :「呪いってなによう」
 紘一郎        :「もう一つのパターン、見てしまったときに呪いがかかる
                :、つまり、それを見た人間はそのビデオに描かれていたよ
                うな死に様で13日の間に死んでしまう」
 すー&直紀    :「……」
 紘一郎        :「これがはっきりしてるパターンで、マイナーチェンジは
                :それこそ数多い。ただし、共通点はビデオ屋でラベルのな
                :いビデオを借りてきて。見てしまうと不幸で、見ないとラ
                :ッキーってことになる。こういうのって、姉ちゃん職場で
                :聞かない?」
 直紀          :「……もしかしたら、あれかな」
 紘一郎&すー  :「!」
 直紀          :「けど、何も変なの映って無かったよ?」
 すー          :「見ちゃったの?」
 直紀          :「うん」
 紘一郎        :「実際にそれらしいのがあったって事?」
 直紀          :「それかどうかは知らないけれど……多分、うちの会社の
                :素材テープが紛れこんだんじゃない」
 紘一郎        :「どこにある?そのテープ」
 直紀          :「そのへんにころがってない?ふーなんか疲れが取れない
                :なぁ」
 すー          :「会社の方連絡したの?」
 直紀          :「すー。電話してよぉ。代わりにぃ」
 
 そう言うと直紀はまた布団の中に潜りこんだ。
 
 数分後。
 紘一郎        :「姉ちゃんみつかんないぞ。って、寝てるか?」
 すー          :「なんか、ほんと疲れてるみたい。熱とかはないみたいだ
                :けど」
 紘一郎        :「テープ、何処に行ったんだろうな……」

 その時、紘一郎とすーは事態の重大さにまだ気がついていなかった。


 ○そのころの松蔭堂
 ------------------

 煖            :「なにも、映ってませんねぇ」
 前野          :「いや、画面が暗いだけだ。一さんこれ、野外で撮影した
                :ものですね。やっぱりマニアックな」
 十            :「……いや、心当たりは無いなぁ。って、何がマニアック
                :だってんですか」

 他愛もない会話の合間にも、テープは進む。
 
 ぼうっと、光が明滅する。青い光、緑色の光。揺らめく様は蝋燭の炎のよう
にも、蛍のようにも見える。

 花澄          :「これ、葉ずれの音ですよね」
 
 スピーカーから聞こえる雑音はマイクに吹きつける風の音だった。
 花澄の言うとおり風はざん、ざんと一定の間隔で吹きつけているらしい。

 前野          :「どっかの修学旅行の露点風呂の隠しどりですか?」
 十            :「ちがうってば、これは、なんだ?」
 煖            :「あ、光、動いてません?」

 ゆっくりと画面の中で光が動く。
 画面の左上隅にまるで虫が這うようなスピードで動き、そこから右下隅に動
き始める。

 と、画面が止まった。

 花澄          :「煖ちゃん?なにか?」
 
 猫族の集中力のまま画面にくいいる煖。
 
 前野          :「静止画像じゃ荒れて、見にくいだろう」
 十            :「いや、何とか見えないわけでも……」
 煖            :「……これ、人ですよね」
 
 煖が画面を指差す。
 花澄の目には暗闇が映っているだけだ。
 十が画面の明るさ、コントラストをいじる。
 どうにか、人影にも見え無くもない姿が花澄の目にも見えた。

 十            :「このテレビじゃこんぐらいが精一杯ですね」
 前野          :「画像を取り込んで、フォトレタッチすればかなり見える
                :と思います」
 花澄          :「え、と。どうしたんです?」
 前野          :「サブリミナルの手法です。暗闇の中、明かり、ノイズ。
                :その中に、幾つかの暗示を仕込ませてある」
 十            :「煖ちゃんの猫族の目だから見られたんだろうな」
 前野          :「もっとも、ありふれた手ですから気がつけば大丈夫でし
                :ょう」
 花澄          :「でも、なんで?こんな物が?」
 前野          :「十さん、まさかこれを美少年に見せると……?」
 十            :「笑えない冗談だね。とにかく、このテープはもともと僕
                :が持ってたものじゃない。多分直紀さんが昨日持ってきた
                :テープの一つだと思う」
 前野          :「何にせよ、ただの悪戯にしちゃ手が込んでる。本当に心
                :当たりは?」
 十            :「……ない。こんど誰かに聞いてみよう。紘一郎君なら何
                :か知ってるかもな。吹利の怪奇現象には彼は詳しい」
 前野          :「十さん。これ借りてゆきます。解析してみます」
 十            :「頼む。多分、悪戯だと思うが」

 煖            :「くっしゃん」
 花澄          :「風かしら?」
 
 いつのまにか日は落ち、夕闇が松蔭堂に忍び寄りつつあった。


 ○疑心
 -------

視界がぼうっとしている。

 直紀     :「いま…何時」

頭がまだ寝ているのか手は時計に側をすり抜ける。
何度かつかみ損ねた末、やっと時計を掴むとじーーーーーっと凝視する。
くしゃ、と頭をかいて枕元に戻す。蛍光塗料が塗られた文字盤は3時を指していた。

 直紀     :「変な時間に起きちゃったな」

ぽふっと枕に顔を埋める。ごろりと布団の中で寝返りをうつ。
もう一度寝直そうかな…とも思ったが、妙に目が覚めてしまった。
やはりいつもより体が重い。朝から寝ているが疲れがとれたような気がしない。
いつもなら一日ごろごろしていれば、夜には治っているのだが。

……ほんとに紘一郎の言ってたように”呪いのビデオ”見ちゃったのかなぁ

                 ・
                 ・
                 ・
                 ・

ぶんぶんっと首を振る。いきなり思いっきり頭を振ったので視界がくらくらする。

だいたい13日以内って…それじゃあなに?
アレ見たのが昨日だからあと12日の命だっていうの??
それにビデオに描かれたような死に方っつったって。

確か…そう、葉ずれみたいな音がしてそれからゆっくり光が動いて……それから?
それから………………あたし、覚えてない。
どくん! と心臓の音が側で聞こえたような気がした。

 直紀     :「………寝よ」

もぞもぞと布団に入る。早鐘のようになる心臓が煩かった。

 ○噂
 ----------
翌日
紅雀院大学内 中庭

黒いファイルに目を通しながらミルクパンをゆっくり食べていると、
ぱたぱたと薄黄緑色のセキセイインコが側に降りる。
じいと小鳥を見、手元のパンをちぎってよこす。
おおきめにちぎられたパンを四苦八苦しながら食べている様子をしばらく
眺めていたが、小声で話しかけた。

 紘一郎    :「ねーちゃんは?」
 すー     :「うーーーーん。まだ大丈夫とは言えないけど、うなされながら
        :会社に行ったよ」
 紘一郎    :「うなされて?」
 すー     :「うん。なんか化粧のノリが悪いーとかぶつくさ言ってた」
 紘一郎    :「……そか。まあ熱もないんだからそうそう休んでも居られない
だろ。
        :そろそろ忙しくなるはずだし」
 すー     :「そうそう、この時期になると部屋が尋常じゃなく荒れるんだよね」

昨年の惨事思いだし、はぁ、と鳥の姿のまま溜息をつくと紘一郎の手元をのぞき見る。

 すー     :「ねえ、こうちゃん。それどうなった?」
 紘一郎    :「ああ。情報は入って来るんだけどな。どうも…これと言った
        :進展はないな」

ぱらと、ファイルを開くとページを捲っていく。
”呪いのビデオ”タイトルの後の記述がひとりでにどんどん書き込まれてゆく。

 すー     :「ほんとだ。だいぶ長くなってるね。あれ?この記述さっきも
        :あったよ?あ、これも」
 紘一郎    :「どうもな情報がループしてるようなんだ。噂というものは人から
        :人へ伝達されるものだからな、少しくらい尾鰭がつくはずなんだが
        :今回に限ってパターンはいくつかあるとしてその一つ一つがここま
        :で正確に伝わっているし、第一の噂からの関連事項が上がってこない
        :というのは」
 すー     :「変…だよね。……ね、こうちゃん。ほんとに、ほんとに直ちゃん
        :呪いのビデオ見ちゃったのかな」
 紘一郎    :「今のところ何とも言えないな。ただ疲れていただけなのかも
        :しれんし」

グリーンハイツ吹利
直紀宅

 直紀     :「およ、紘一郎にすーちゃん。連日続いて来るなんて珍しいね」
 紘一郎    :「少しはマシみたいだな」
 すー     :「大丈夫?あんまり無理しちゃだめだよー」
 直紀     :「だぁいじょうぶよっ(笑)ちゃんと会社にも行ったしさー」
 すー     :「でも、あれ?直ちゃん、肌荒れてるよ。ここ」
 直紀     :「へっ?うぁ、ほんとだ。やだなぁ、疲れジワができてるーー」

すーが指したところを見てみると、たしかにうっすらと細い線が入っている。
肌もいつもより幾分くすみぎみだ。

 直紀     :「ううう。何はともあれ、ぱっつんぱっつんの肌が自慢だったのに」
 すー     :「何はともあれって(^^;」
 紘一郎    :「まあその唯一の自慢も脆くも崩れ去ったわけだ。…って目の下
        :シートをしながら怒るな、笑えるぞ」
 直紀     :「ぷうううう。でっ、ただ様子見に来たってワケじゃないでしょ」
 紘一郎    :「ああ、そうそう。昨日言った”呪いのビデオ”のことなんだが
        :情報が停滞してるんで、実際動くことにした。幸い被験者がここ
にいるし」
 直紀     :「ちっとも幸いじゃないやいっ!ひどいよう、紘一郎がいぢめる
よう」
 すー     :「こうちゃん、からかってる場合じゃないでしょ!」
 紘一郎    :「今のところ『13日以内に死ぬらしい』という噂は記入されて
るが、
        :『ビデオが元で死んだ』と言う噂は流れてないから安心しろ。んでだ
        :今どんな感じ?」
 直紀     :「……………機嫌悪い(ぶすーーーー)」
 紘一郎    :「ふんふん……機嫌悪し、と(書き書き)」 
 すー     :「(はぁ)んじゃ、直ちゃん。あたし達そろそろ帰るねえ。明日は
        :休みだからって出歩いちゃだめよう」

ひょいっと紘一郎の首根っこを掴むと、玄関までずるずる引きずる。
がちゃんとドアを閉めると、夜風が二人の髪を撫でた。

 すー     :「どう思う?直ちゃんの様子」
 紘一郎    :「ただ単に疲れてるって雰囲気じゃないな。本当にビデオが関係
している
        :とするなら余り表立った動きは出来ないな」
 すー     :「そうだね。ビデオが呪いの類なら、こうちゃんの能力で増幅す
るかも
        :しれないもんね」
 紘一郎    :「一さん辺りに相談するのが良いかもしれないな。本職だし」 
   

○
----------

よく晴れた日曜日の朝、グリーングラス。

直紀 :「ユーラさーん、おーはーよー」

涼しいドア・ベルの音と一緒に、いつもなら飛び込んでくるはずの人物が少し疲れた
笑みを浮かべて手を振る。

ユラ :「おはようござ…あれ?直紀さん?」
直紀 :「うん、最近なんかもうー。うー、だるぅー」

ぽてぽてと入ってきて、ことん、とカウンターに突っ伏す。

ユラ :「春先だから…体調おかしいのかな?」

レジ脇のポットに手をのばしかけ、カウンターにちょこんと顎を乗せてこちらを見る
顔の表情に目を留め、手を止めた。

ユラ :「よっぽど…疲れてる?特製のお茶煎れた方がいいのかしら」
直紀 :「うーん、それより…なんかいい化粧水とかないかなぁ?ぱっつんぱっつん
のお肌がー、あ”う”−−−」

ふにゃあああ、と機嫌の悪い猫よろしく顔をしかめる。

ユラ :「この季節だもんねぇ、花粉も飛ぶし乾燥もする…って」

つぶやきながら、背後にずらりと並んだ瓶の中身をガラスポットに次々と放り込み、
お湯を注ぐ。

ユラ :「はいどうぞ、春先用のお茶。あと化粧水なんだけど…」

そこまで言って、ユラは急に口をつぐんだ。

直紀 :「ふにゃ?ユラさん、どうかした?」
ユラ :「…変よ」
直紀 :「変、って?」
ユラ :「直紀さん、体質的にも、…あと能力的にも、乾燥肌になんかなるわけ…」
直紀 :「うーん、そうなんだよねー。だからもう、極端に体力も気力も駄目になっ
てるのかなぁって…」
ユラ :「…いや、そこまで駄目になるって、それ実はすごくまずいかも…ほかに何
か体調おかしくなった
りしたことない?」
直紀 :「いやもう、ひたすらだるくてー。もうここ二三日、会社行くのも辛いさぁ。
ユラさんとこにもねー、
ほんとは昨日来たかったんだけど、いちんち寝ててー…あう…」

あくび交じりに、ぽて、とカウンターに突っ伏す。
ユラが小さく息を吐いた。

ユラ :「直紀さん、病院には行ったの?…直紀さん?」
直紀 :「行ってなーい…これから行こうかと…あ、でも今日休みぃ…」

カウンターの上の肩が、だるそうに揺れる。
す、とユラは手を伸ばし、その肩に触れた。瞬間、眉が厳しい形になる。ユラはカウ
ンターを回り、直紀の脇に手を回した。

ユラ :「ちょっと…直紀さん、二階に行こう。で、そこで休もう。今ちょっと出歩
かない方がいい体調だから、それ」

返事もしないうちに直紀の体を抱き上げ、

ユラ :「荷物、特にないね」

すばやく周囲に視線を走らせると、内階段を上り始めた。

直紀 :「あの、ユラさん、あたし別に病人じゃ…」
ユラ :「立派な病人」

そのときにはもう二階のドアを開けている。

ユラ :「あとで和室にお布団敷くけど、その間とりあえず私の部屋に寝てて。今日
は特に用事
とか抱えてないよね。一とデートの約束とかしてても、だめだよ。しばらくはここか
ら出さないからね」
直紀 :「ユラさん、なんかむちゃくちゃ言ってるー」
ユラ :「たぶん、ね。でも、ここだったら倒れてもすぐ対応できるけど、店先で直
紀さんが倒れたら、と思うと…」
直紀 :「そこまで悪く…あれ?」

くしゃ、と体の力が一瞬抜けるような感覚に襲われ、直紀は思わず体を震わせた。

ユラ :「今はそこまで悪くなくても。…あ、これ飲んで暫く横になっててね、とり
あえずだるい
のは少しましになるはずだから」

棚の瓶からシロップ状の液体をグラスに注いで渡すと、自室のドアを開ける。

ユラ :「なんかごたついた部屋でごめんなさいね。私ちょっとこっちの仕事片づけ
ちゃうから…」

言い置いて今度は電話に手を伸ばす。

ユラ :「あ、朴庵先生?小滝です。店長いらっしゃいます?…あ、いえ、ちょっと
急病人で、
私が店の方空けることになりそうなんで…ええ、あ、そうですか、来ていただける、
と。はい、
わかりました。それじゃお願いします…」
直紀 :「ユラさん、なんか大ごとに…」
ユラ :「いいから休んでて…だって、かなり辛いでしょ、今。このまま帰れる?」
直紀 :「…うーん…確かに無理かも…」
ユラ :「ん、だから。暫くここで休んでそれでよくなるんだったらそれはそれでい
いから。
で、私、代わりのバイトの子が来てくれるまで店番してる。何かあったら呼んでね。
…それじゃ」

階段を足音が下りて行き、直紀はユラのベッドに残された。
いいようのない倦怠感が襲ってきた。ユラに渡された薬を飲み下すと、それはやがて
圧倒的な眠気に変わった。
いつのまにか直紀は眠り込んでいた。

一方、店に下りたユラは、再び受話器を手にしていた。

ユラ :「あの、柳さんのお宅でしょうか?あの、私、小滝…ええ、グリーングラス
の小滝ユラです。
紘一郎さんでいらっしゃいますよね。実は…」



****************************************************************************
*********

でまぁ、続くようですね。

とりあえず、ここから続く話としては、
1)前野君がビデオの解析をしているはず………
2)ユラさんから電話をもらった柳紘一郎君の動き。
3)あとは、松蔭堂でビデオを見てしまった人々は?
4)ユラさんから、麻樹へと電話がかかって狭淵兄妹へと

松蔭堂で見た人々が、倒れているなら、麻樹はそっちからも絡めますしねぇ。
んむ。
とりあえず、のーみその整理に(^^;

廣瀬瑞樹 Miduki Hirose


    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage