[KATARIBE 12462] [HA06]:EP: 「過去亡き魂」シーン4

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Date: Tue, 30 Mar 1999 17:10:39 +0900
From: ソード  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 12462] [HA06]:EP: 「過去亡き魂」シーン4 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199903300810.RAA11156@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 12462

99年03月30日:17時10分33秒
Sub:[HA06]:EP:「過去亡き魂」シーン4:
From:ソード
こんにちは、ソードです。

 書けるときにどんどん書いてしまおうと思います。

 前のシーンがよほどな修正にならない限り、このシーンにはつながると思い
ますので。

 1行のログを修正して、ようやくEPとして完成しました。

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夜中、書斎
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 一人、書物を読みふける英一。いろいろあって精神的に疲れてはいるが、ま
だ眠らなくてもどうにかなる。
 あした、結論を出すためにも、できる限りの情報を得ておきたかった。

 英一     :「奥六群……」

 奥六郡郷土史保存協会。
 東北地方の地祇(国津神)をまつり、日本における東北地方の霊的独立分権を
望む思想組織。という事ぐらいだろうか?具体的な事は分からない。

 SE     :ぎしっ
 英一     :「ん?」

 英一は、今日ほどこの家の年期に感謝した事はない。


同時刻、寝室
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 美都は目を覚ました。体調の悪さから、思った時間に置きられないとも思っ
たが、しっかり目を覚ましている。
 真夜中。あれから数時間しか経っていない。

 美都     :「(さあ……いこう……)」(布団を畳む)

 体調は悪くない。寝不足と疲労感以外には、いたって正常だ。ナノマシンに
よる体温の上昇も収まっている。
通常の人間なら24時間かかる所を、わずか6時間あまりで回復してしまって
いた。

 美都     :(寝ている紫苑をみて)「……じゃあね。バイバイ」

 小さくそういうと、後は後ろも見ずに部屋からでる。玄関までは、それほど
遠くない。

 紫苑     :「……」

 紫苑に、猫の常識は通用しない。閉じたふすまの隙間からにじみ出て、廊下
で猫の形を形作る。

 紫苑     :「……(行くか……)」

 猫の足音はしない。紫苑は、黙って歩く美都の後をついていった。


玄関
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 美都     :「……」

 玄関に立ち、しばらく廊下の方を見る。最初に入ったときに、この家の雰囲
気にほっとした。
 この家で起こる一つ一つが、彼女の足りない部分を埋めて行っているようだっ
た。
 意識を持って、ちょうど24時間。その間が彼女の人生で、その人生の半分
近くをこの家で過ごしている事になる。
 涙が出そうになるのをこらえる。独りで生きて行く事を決めて、泣かないと
決めた。涙は、自分の決意を溶かし、勇気を流してしまうから。

 美都     :「さようなら……」(深々と廊下にお辞儀)

 一礼して、玄関の鍵を開ける。音を立てないように、慎重に。
 扉を開けようと手を掛け、その手が一瞬の躊躇の後に力がこもる。

 美都     :「!……(あかない?)」
 英一     :「あかないよ」

 背後からの声。物音は全くしなかった。空気の流れさえも無かったのだ。普
通の人間では不可能だが、彼なら出来る。空気の壁を彼女との間に張る事によ
って、音と流れを防いだのである。

 英一     :「その玄関は、今の君では開けない」
 
 なんの事はない、扉の周囲を空気で固めているだけなのだが。

 英一     :「なぜ、逃げるように出て行くのかな?」
 美都     :「皆さん、やさしいから……私がいなければ、普通の日常
        :が送れるじゃないですかっ」
 英一     :「ああ成程、関わった連中まとめて胃炎にして放り出すわ
        :けか」
 美都     :「だって……私……一緒にいても何もできないんです……。
        :私には、何も無いんですよ……」
 英一     :「……それが、好かん。自分を見てあれが出来ないこれが
        :無い……あんたの価値を他人がどう値踏みするか、あんた
        :が決め付けることじゃない」
 美都     :「でも……私が危険なのは事実です……それは、私の勝手
        :な解釈じゃありません」
 英一     :「それは、その通りみたいだな……で、それがどうした?」

 語気が荒くなる。押さえていた感情が吹き出そうとするのをこらえている。
 彼女の考え方は、納得できない。認める事は出来ない。

 英一     :「あんたが危険だ、というのは、既に見て知っている。そ
        :の危険の度合いについても、それぞれがそれぞれの情報か
        :ら判断している。その上でどうすればいいか考えている」
 美都     :「だから……私だけじゃなく、皆さんまで狙われたら……」
 英一     :「その上で、瑞鶴か小滝さんのところか、留まったほうが
        :いい、と言っている積りだがね」

 美都は、考えてもみなかった。彼らが、自分を守ってくれるという事を。自
分が、かれらを守らねばならないと思っていた。
 彼女の24時間という短い人生の中には、人に頼るという事はなかった。何
かを得るという事は、別の何かを失うという事。自らの身体を、命を失う事で
しか、心を、魂を守る事が出来ないと思っていた。

 英一     :「そういう危険も含めて、判断くらいはしている。……あ
        :んたはそれを信用できないかしれんが、こちらは己の判断
        :をそれなりに信用している」
 美都     :「私っ……皆さんのこと信じてますっ。だからっ。迷惑か
        :けたく無かっ……」
 英一     :「迷惑ではい。と言っている」

 何も無い自分。自分は、この世界にとって、いてもいなくても良い存在だと
思っていた。瑞鶴にとっても、一時の宿り木でしかない。昨夜までは自分の存
在はそこにはなく、明日から自分がいなくても瑞鶴はある。
 自分がいても良い場所……。いる事を意識させてくれる場所。彼は、そこに
居て良いと言ってくれているのだ。

 美都     :「私……頼っても……良いんですか?」

 彼女の、わずかな弱気。涙と共に、捨てた筈のものが戻ってくる。
 涙がかれる事が無いように、自分の弱い心も捨てる事は出来ない。
 しかし、涙がかれる事が無いように、勇気や決意がなくなる事はないのだ。

 英一     :「……」

 どうぞ……と言ってやるべきなのだろう。しかし、頼られて、支えられるほ
ど、自分が強くない事も、厚顔無恥でない事も分かっていた。

 英一     :「……!」

 泳いだ視線は、彼の迷い。それが、結果的に彼に勇気を与えた。視線の橋に
かかったのは、玄関の隅、影からこちらを見ている、猫の紫苑。

 店長     :「………(苦笑)……それは美都さん、あんたが自分で決
        :めることだろう」

 突き放す。自分が支えなくても、彼女は平気だと信じた。後ろから見つめる
紫苑の瞳が、自分の変わりを出来ると信じた。

 美都     :「厳しいん……ですね(にこっ)」

 笑顔。その瞳からは、涙があふれている。泣き声をあげないために、つまっ
た喉の奥に痛みが広がる。
 涙を拭く事で、次の言葉を紡ぐための隙間を空ける。

 美都     :「甘えさせてくれないんだもん」
 店長     :「…………(苦笑)……そういう台詞は、本当に甘えたい
        :相手に言うように」

 わずかに芽生えたいたずら心。心に余裕が戻ってきた証拠であった。靴をす
ばやく脱ぎ、英一の無なものに飛び込んで寄りかかる。

 美都     :(英一の胸に額をつけて)「私にだって、甘えたいときも
        :あるんですよ……」

 いたずら心のつもりであった。男性の胸の、驚くほどの安心感。自分とは違
う骨格とにおい。
 意志の力で封じ込めていた疲労が、気のゆるみに乗じて一気に蘇る。

 店長     :「…………自分をもう少し、大切にせいというに(苦笑)」

 引き剥がそうとして、肩に手を掛けたと同時に彼女の身体がいきなり重くな
る。彼女が脱力したためだ。

 店長     :「っと……眠ったのか?」
 美都     :「すううぅ……」

 質問に寝息を持って答える美都。完全に安心しきっている。

 店長     :「紫苑さん」
 紫苑     :「……」

 影から出てきて、音も無く人型になる紫苑。まだ声を出さない。

 店長     :(美都を紫苑に渡しながら)「……頼っていいって……答
        :えるのはあんたの筈だ」
 紫苑     :(受けとりながら)「(心拍数、呼吸、脳波確認。睡眠状
        :態と確定……か)私には……まだ彼女に答えることはでき
        :ません」

 紫苑は、美都を横抱きにして部屋へと連れて行く。
 英一からみても、紫苑の美都を見る瞳の光は、とても人工で作られた物のよ
うには見えなかった。

***************************

 というところで、夜中の会話です。完全に二人の世界だなぁ……(笑)
 1行でのログを修正しつつ書きました。
 モノローグの表現が「変だ」とか「納得いかん」とかあれば、一報ください。
 書いた本人が何書いてるか分からなくなってるので……(笑)

 今回のEPの1番番の山場だと思って気合入れて書きました。なのに登場人
物はわずか3人(泣)
 勇魚さん、すみません。あの二人の雰囲気には入り込めないかったです。

 さて、この後は、エピローグ的にユラさんの所にお世話になります。

 最後の最後は、

 ユラ  「これからよろしくね?美都ちゃん」
 美都  「はい。よろしくお願いします」

 で締めたいと思います。

 修正、加筆お願いします。
 得に、1行で会話にならなかった部分もなるべく入れたつもりですが、多分
にアレンジ加えてるので、お願いします。

 では……また。






    

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