[KATARIBE 12452] [HA06][Novel] 「鴬谷」

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Date: Mon, 29 Mar 1999 15:49:27 +0900
From: fukanju@trpg.net (Rosei Fukanju)
Subject: [KATARIBE 12452] [HA06][Novel] 「鴬谷」
To: kataribe-ml@trpg.net
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ども、不観樹露生です。はい。

  美樹の日常(?)エピソード小説研究室編です。

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「鴬谷」

  わたしは、研究室の共用端末の前で、一つ、大きく伸びをした。
  肩と、背骨の脇についている筋肉群がみしみしと悲鳴を上げる。
  これは疲れている。
  その事を実感する。
「狭淵君、こっちの端末、どうもメールが読めないみたいなんだけ
ど、ちょっと見てくれるかな?」
  父と生年月日が同じ助教授に声をかけられる。
「あ、はい」
  最近は、やはりネットがらみのトラブルが多い。
  侵入されたとか機密保持がとかどうこう言うものではなく。
  単純に。動かない。それだけなのだが。
  pingを打つ。届かない、返事。
「やっぱり、メールサーバが落ちているようですね。あと、ネーム
サーバも同じマシンを指定しているので、ネットスケープも使えな
くなってるんですな。そっちだけは臨時に使えるようにしておける
ので、そうしておきました」
  なんだかなぁ。
「ふぅ。なんだか前のサーバの時も動かなかったりメールが使えな
くなったりよくあったけど、新サーバになったら、もっと酷くなっ
てない?」
  ため息をついているところに、助手の先生が声をかけてくる。
  彼女がわたしの同級生の、奥方になったのが、去年。
「まぁ、しょうがないですけどね」
  わたしは肩をすくめてみせる。
  一年半余り管理者が決まらないままで、放っておかれた旧サーバ
は、誰が見ても寿命が来ていたし。
  だいたい、新サーバの管理者を巡っても責任の押しつけ合いの暗
闘があったとか無かったとか。
「自前でサーバ立てない限りはねぇ」
  わたしのこの研究室での身分は、ただの居候学生。
  だから、わたしにはサーバ管理をする権限がない。
「でも、狭淵君が卒業していなくなったら、そのサーバを管理する
人が居なくなっちゃうじゃない」
  居候学生だから。いつまでもいられるわけではない。
  卒業してこの研究室に戻ってくるのかも、まだ判らない。
  わたしには、なんの保証もできない。
  唐突に、鴬が啼く。
「あら、いい声………」
  全員にお茶を入れてくれていた初老の技官の先生が呟く。
「どこから聴こえて来るんでしょうねぇ」
  のんびりとした、その声に、ふいと空気が柔らかくなる。
「みなさん、お茶が入りましたよ」
  鴬。
  明日もこの地で啼くのかは知れず。
  されども、いな、なればこそ、今日の声を愛づ。
「お、鴬。いい声で啼いてるねぇ」
  実験疲れで眼を赤くした院生の先生が、お茶休みに入ってくる。
「狭淵君、復学の準備、進んでる?」
「えぇ、ぼちぼちと」
  わたしは、明日はどんな声で啼くのだろう。
  わたしは、明日はどの谷で啼くのだろう。
  まだ、見事には啼けないけれども。

                                                      (Fin.)
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  ちうことで。
  美樹もわたしと同様、ぼちぼちと復学準備しているらしいです(^^;
  であ。


廣瀬瑞樹 Miduki Hirose


    

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