[KATARIBE 12318] HA06:EP 「明けない、夜」取りまとめ

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Date: Thu, 18 Mar 1999 04:50:00 +0900
From: Masaki Yanagida <yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 12318] HA06:EP 「明けない、夜」取りまとめ
To: kataribe-ml@trpg.net
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 ども、D16です。
 以前流した「明けない夜」
 こちらでつくった取りまとめ流します。

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EP:「明けない、夜」
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○黄昏に
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 窓から冬の西日が差し込んでいる。
 吹利市街のビデオ制作、販売会社(有)ELnetのオフィスで、在庫のビデオテ
ープと格闘しているOLが一人。

 直紀		:「だー!だから、香港映画ははけないって言ったのに!」

 散乱しているビデオのパッケージは香港製のカンフー映画。町場のビデオ屋
では人気があったが、こんな物はふつう長距離バスの中では見ない。

 社長		:「おかしいなぁ、面白いし。それにこっちは結構話題にな
		:ったじゃないか」
 直紀		:「だからといって、バスの中で『スピード』なんて見たく
		:ないです」
 社長		:「つまりあれだね、誰も船に乗ってる時には『ポセイドン
		:アドヴェンチャー』は見たくないって言う(笑)」
 直紀		:「(わかってりゃするなっつーの)……あれ、これは……
		:なんだろ」
 社長		:「ん?どしたね柳くん」
 直紀		:「しゃちょーこのビデオ、制作のほうのが混じってますよ。
		:パッケージが真っ黒でなも書いてないです」
 社長		:「ンなはずはないと思うが……」
 
 一時間後。
 黄昏時、部屋に明かりがともる。フローリングの部屋。少し乱雑にものが散
らかっているのはここしばらくすーが来ていないせいだ。

 直紀		:「今度また、こーいちろーに来てもらわなきゃなぁ」

 ぱたぱたと部屋着に着替えると、紅茶のマグカップを抱えてテレビの前に座
る。
 会社からちっと借りてきたビデオを取り出す。
 役得というやつらしい。

 直紀		:「『スピード』と『タクシー』は今見てもいいけど、『カ
		:ンフー・カルトマスター魔王教主』は一さんとこで見たほ
		:うがいいか」
 
 と、抱えたテープの中からなにも書いていないパッケージがぽとりと落ちる。

 直紀		:「あれ?なんであたしこんなの持ってきたんだろ?」

 何も書かれていないただのパッケージ。落とした拍子に開いたパッケージの
中からは同じようになにもラベルされていないカセットが見えている。

 直紀		:「っかしいな。制作のほうじゃないのかな?」
 
 取材や素材としてのビデオでも、どんな物かというラベルぐらいは貼る。
 未使用の物かと思ったが、爪は折られていた。

 SE		:「がしゃこん、きゅるるる」
 直紀		:「なんだろ、真っ暗でよく見えないなぁ」

 暗闇の中、かすかに明滅する光。蛍か、蝋燭か。
 音は風と木々の葉ずれにも似たかすかなざわめき。
 と、光が動いた。
 いつのまにか直紀の視線はその光に誘われている。
 スピーカーからの音は相変わらずだが、何の編集もされていないその音が却
って見るものに緊張感を抱かせた。
 そして、

 直紀		:「……あれ?」

 画面にノイズが流れていた。部屋は暗闇に飲みこまれている。唯一の光源で
あるテレビの青白い光が直紀の顔を照らし、窓に映していた。
 直紀は外を見る。

 直紀		:「……わっ!」

 人がいたように見えた。
 すぐにそれが窓に映った自分の姿だということに気がついたが、なにか不安
は拭えなかった。
 それはきっと、白いノイズに照らされた自分の表情がその時あまりに虚ろで、
まるで死に顔を思わせたからに違いなかった。

 SE		:「きゅるるる。がしゃ」

 画面がブルーバックになる。
 テープが終わったらしい。

 直紀		:「……っていま何時?!」

 時計を見る。
 暗いはずだ。八時を回っている。
 二時間近く直紀はこのテープを見ていたことになる。少なくとも時計はそう
言っている。

 直紀		:「ねてた、のかなぁ」

 直紀は気味悪げにぶるっと震えると、電話を取り松蔭堂に電話をかけた。
 一の在宅を確認すると、直紀は『カンフー・カルトマスター魔王教主』のテ
ープをかばんにつめこんだ、そして一瞬ためらい、なにもラベルされていなか
ったテープを取って部屋を出た。
 
○影の入場
----------

 吹利駅前。夕暮れ時。
 店の常連と本宮に店を預けて、湊川観楠は銀行にやってきていた。
 大した用ではない。

 観楠		:「さてと、用事も済んだし早いところ戻らないと」

 うんと伸びをして、商店街をベーカリーに向かって歩き出す。
 冬の黄昏時、商店街は夕食の買い物をする人々で心地よい喧騒に満ちている。
 と、観楠の目の前を一人の大柄な男が横切っていった。

 観楠		:「あれ?あれは一さん?」

 一瞬観楠が別人と思ったのも無理はない。背格好や顔立ちは似ていたものの
、その男は仕立てのよさそうなスーツにグレーのロングコート。きれいに櫛の
入った髪の毛にきっちりと髭をあたってある。
 おおよそ、観楠の知る一とは思えなかった。

 観楠		:「(一さん、就職の面接にでも行ったんだろうか)一さん
		:!」

 観楠は呼びかけた。
 が、男は答えなかった。
 やがて、男の姿は吹利の雑踏の中に消えた。

 観楠		:「人違いだったかなぁ」

 ○始まり
 --------

 松蔭堂にて
 かしゃんと小さな音を立てて垣根の扉が開く

 直紀		:「へへへ、こんばんわぁ」
 十 		:「あ、いらっしゃい。いま暖房つけるから」
 直紀		:「…って、この寒いのに暖房切ることないでしょうに(^^;」
 十 		:「さっきまで居間の炬燵にいたから。ほら、浮かせられる
		:モノは浮かせないと!それに布団をかぶれば寒くないっ(
		:うんうん)」
 直紀		:「まぁ一さんらしいか(苦笑)それはそうと、何か好みっ
		:ぽいビデオがあったから持ってきたよー」

 がさごそとバッグを漁り、先ほど持ってきた『カンフー・カルトマスター魔
王教主』の文字が妙にポリゴナイズされたテープを目の前に突きつける。

 十		:「こ、これわぁ!!伝説のカルトマスターと呼ばれた老祖
		:父が主人公にその技を伝承したが、直後に魔王の儀式によ
		:り生け贄にされ、村は37秒で壊滅!唯一生き残った主人
		:公の娘が主人公の技を密かに盗み富を欲しいままにしてい
		:る男に弟子入りをし、いつかは魔王教主を倒すという壮大
		:なストーリーー!!(ここまで一気)と噂に高いあのビデ
		:オではっっ」
 直紀		:「………………………むちゃくちゃB級っぽいよ、それ(^^;」

 第一噂にはなってないぞ、おそらく。

 十		:「早く見よう、見よう!直紀さん(わくわく)」
 直紀		:「はいはい。…みゅ?」

 パッケージから取り出し、デッキはどこだったかいな?と
 きょろきょろしてると、じーーっと顔をのぞき込まれる

 十 		:「じーーーーーー」
 直紀		:「な、なにかな??」
 十 		:「なんだか顔色が良くないようだけど…」
 直紀		:「うーん、そっかなぁ。最近忙しかったから疲れが溜まっ
		:てるのかもね」

 がさごぞとテレビ前に散乱した本やらビデオやらをかき分けテープをセット
する
 ビデオは妙な盛り上がりを見せ、そうそうやっぱりB級なりのこだわりとア
ジがたまらないね!とかあこでの無意味な効果音や爆発音が何とも言えん!だ
のそれぞれ感想を言い合ってると

 十 		:「あれ?こっちのビデオは?」
 直紀		:「あ、それ?何だか制作の方のビデオも一緒に持って来ち
		:ゃったみたいなんだ。だけどねえ、なんか変なんだよね」
 十		:「変?」
 直紀		:「うーーんと、うまく言えないんだけど…こっちは明日み
		:よっか、もう遅いし」

○ビデオ
----------

 ブラインド越しに朝日が射し込む
 すがすがしい朝の雰囲気

 直紀		:「あ”ぉ”う”ーーーーーー。だるーーーーーーーー(ぐ
		:てぇ)」

 …年頃の女が『あ”ぉ”う”ー』はないだろうに(;_;
 直紀がもそもそ布団の中で動いてると、玄関の方から声が聞こえてくる

 すー 	:「あれ?鍵あいてるよ、こうちゃん」
 紘一郎	:「いくら姉でも、鍵開けたまま外出しないはずだし、まだ
		:中に居るんじゃないか?」
 直紀		:「(うにゅ、うるしゃいやい)」
 SE		:もぞもぞ

 すー		:「あーなおちゃん、何してんのよう!会社始まってるじゃ
		:ないよ」
 直紀		:「あう”ーー。なんか、だるいんだよう、動く気しないん
		:だよう(もそもそ)」
 すー		:「もーー!昨日まで元気だったくせに何言ってんのよ。ほ
		:らぁ、退いた退いた。掃除できないでしょーー」
 紘一郎	:「俺がな(はぁ)」

 一通りの片づけを終え、かちゃかちゃとお茶の準備をする。

 直紀		:「でもちょうど良かったさーー。そろそろ片づけに来てく
		:れないかなーー
   		:って思ってたのさーーー(ぐてーー)」
 紘一郎	:「この時間居たのは予定外だったが、まぁちょっと聞きた
		:いこともあったからな」
 直紀		:「ふぅん。あ、すーちゃん、そこの週日野菜取ってぇー」
 すー		:「もう、結構元気なんだから自分で取りなよねー(ぽい)」
 直紀		:「さぁんきゅう。水分補給ーーーっと、あれ??」

 コップを横に傾け、液体を取ろうとするが、出てきたのは
 オレンジ色のとろっとした液体だった。
 どう見てもゼリーには見えない。

 すー		:「むう、ゼリーにする気力も残ってないのか(^^; だいじ
		:ょぶ?」
 直紀		:「???おっかしいなぁ、ちゃんとゼリーになってるハズ
		:なんだけどなぁ。…まぁこれはこれで、いいか(ごきゅご
		:きゅ)」
 すー		:「うん。確かに。また違った味わいが(ごきゅごきゅ)」
 紘一郎	:「…それはそうと姉ちゃん。会社で妙な噂聞かないか?」
 直紀		:「みゅ?噂??(ごきゅごきゅ)」
 紘一郎	:「ああ、”呪いのビデオ”の噂だ」

○拡大
-------

  次の場面は………泣声から始まったりする。


  ぢいいっと、かすかな声。
  松蔭堂の玄関にいた花澄は、飛び上がった。

  花澄   	:「な、何事っ?!」
  訪雪   	:「……ゆずさん、ですかな?」

  ぢい、としか聞き取れない声は、しかし、花澄の耳には悲鳴と聞こえた。
  
  花澄   	:「あの今ゆずどこにっ?」
  訪雪   	:「多分、一君のところに……」
  花澄   	:「有難うございます、失礼しますっ」

  一息で二つの挨拶をしてのけると、ぱたぱたと一氏の部屋へと向かい……

  前野   	:「あ、こんに……どうしました?(汗)」
  花澄   	:「え、今あの、ゆずの声が……」
 
  ぢいいいいっ、と、今度はもっとはっきりした声がした。

  前野   	:「あ、本当だ」
  煖     	:「ゆずちゃん、ですね」

  その声を背後に聞き流して、はたはたと走って……

  花澄   	:「ゆず?!」
  譲羽   	:「ぢいっ(花澄ぃっ!)」

  ぴょん、と飛びついてきた少女人形を抱え上げて……で、見たものは。

  花澄   	:「………(脱力)」
  十     	:「ん?どした。ゆずちゃん。そんなに怯えて?」
  譲羽   	:「ぢいいいいいっ(わああああんっ)」

  暗い部屋から出てきた……声から察するに一らしい人物は、すっぽりと
 ゴジラのマスクを被っている。

  花澄   	:「気持ちは判らないでもないですけど………前野さんの次
		:は一さん、そんなにゆずを脅かさなくても(苦笑)」
  前野   	:「私は脅かしてないんですけど…(^^; 」
 
  後ろから追いついてきた前野が苦笑する。

  十     	:「あうあう、冗談だって。はいはい外すから」

  脱ぐと今度はガメラマスク。

  譲羽   	:「……ぢいいいいっ(ひしっ)」
  十     	:「うむ、これもこわがるか。無理はない」

  すぽん、とそれも脱いで。

  花澄   	:「…………(一体何重になってるの(汗))」
  十     	:「じゃあ、この埴輪マスクだ。これならタイチやシュイチ
		:と一緒」
  前野   	:「怒りモードになってますよ(汗)」
  十     	:「へ?ああ、間違えた」
  譲羽   	:「ぢいいい……(へばりつきっ)」

  かくかくと、木粘土製の体が音を立てて震えている。

  花澄   	:「……一さん?(にこにこにっこり)」
  十     	:「じゃあ、いいかげんにマスクとりますね。どれどれ、ご
		:しごし。はいとれた」

  で、とれた後には……お約束通りのっぺらぼう。

  譲羽		:「…………ぢい」

  譲羽のほうは恐いもんだから、とれた、と言われてもよう見ない(笑)

  花澄 		:「……見なくて正解(溜息)」

  と。

  煖		:「あの〜、十さ〜ん(ぱたぱた)」

  何時の間に入り込んだのか、一の部屋のほうから煖が声をかける。

  十		:「はぁい」

  向けられたのっぺらぼうの顔に驚いた様子も見せず、

  煖     	:「この、“季刊 全国高校生制服専門紙 Boys-B”は、
         	:どの棚に置きましょうか?(にっこり)」
  十     	:「……(のっぺらぼうのまま滝汗)」
  前野   	:「………(^^;)」
  十     	:「ああ、ちょっとまって、その引き出しをあけるとすごい
		:ことが!」

  形勢逆転。
  それに追い討ちをかけるように。

  花澄   	:「……そうですか、口がないなら食べられませんよね……
         	:煖ちゃん、これどうぞ(にっこり)」

  手に持っていた箱を差し出して。

  花澄   	:「ショートケーキの詰め合わせ、ですけど」
  煖     	:「あ、ありがとうございます(にこにこ)」
  十     	:「だあああああっ!い、今顔出しますからっ!」
  花澄   	:「……(苦笑)……はい、どうぞ」

  箱を一旦、押し頂くにしてから横の棚の上に置き、ぺりぺりと特殊メイクを
  剥がし出す。その音に、ようやく譲羽が頭をもたげた。

  十     	:「にしてもよくできてるでしょこのマスク。サークルの後
		:輩が特撮研で。うちに来たらだれか脅かそうと思ってたん
		:ですが」
  譲羽   	:「……ぢい(恐る恐る)」
  前野   	:「ゆずちゃん、大丈夫?(苦笑)」
  譲羽   	:「………ぢい(涙目でこっくり)………ぢいぢいぢいっ
         	:(一さん、こわかったのっ)」

   手をぶんぶん振りまわしての、力説である。
 
  十     	:「最初の獲物がゆずちゃんとは思わなかったな。しかし、
         	:脅かしがいがある。おばけの気持ちわかるなぁ」
  譲羽   	:「………ぢい(恨みがまし〜)」

  苦笑した花澄が、まだぱたぱたと背後で動きまわっている煖に声をかけた。
 
  花澄   	:「煖ちゃんも……如何です?ケーキ」
  煖     	:「この、“愛蔵版ビデオ 青葉”シリーズと、“全国制服
		:美少年データベース”の整理が終ってから頂きますわ(に
		:っこり)」
 
  一瞬、取るべき表情を選び損ねた前野と花澄である。

  十     	:「(事態を認識したらしい)だぁーっ、だから引き出しの
		:なかは駄目だって!」
  煖     	:「はいはい(にこにこ)」
  十     	:「だいたい、何でまた急に……」
  煖     	:「あら、キノエちゃんから一さんのお部屋、是非とも掃除
		:して貰えないかって、頼まれたんですけれども?」
  十     	:「何で最初にそう言ってくれなかったんですかぁ?(泣)」

  ………それどころでは無かったような気がする。

  十     	:「ああまったく……(引き出しを閉めている)」
  煖     	:「じゃあ、この封禁してあるビデオボックスの方を…(い
		:そいそ)」

  何やらぶつぶつ言いながらあちこちを取り繕いはじめた一を尻目に、
  煖は、ビデオボックスを開いた。

  十     	:「あ、そこのは直紀さんが持ってきてくれたビデオで(汗)」
  煖     	:「あら?こちらのはタイトルが書かれてませんけど……」

  『カンフー・カルトマスター魔王教主』と書かれた方はそのまま、
 つい、と、ラベルの無いテープを引っ張り出す。試すすがめつした挙げ句、
 近くにあったビデオに突っ込む。
  見事な手際である。

  SE   	:(ガショ…きゅるきゅるきゅる…)
  花澄   	:「………(汗)………あ、あの煖ちゃん、それ……見てい
		:いの?」
  煖     	:「でも、タイトルくらいは見ないと、ラベルが付けれませ
		:んもの」
  十     	:「って……あああ煖ちゃんっ(滝汗)」
  前野   	:「……(苦笑)……ん?」

  きゅるきゅるきゅる、と、幾分かすれた音は、そのまま、テープの中の
 かすかなざわめきと重なっていった。

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 こんなところです。
 先ほど書き忘れたんですが、口調その他修正よろしくです。
 それじゃ

柳田真坂樹(Masaki Yanagida)
東京大学農学部森林理水及び砂防研究室
研究生
e-mail:yanagida@gaia.fr.a.u-tokyo.ac.jp
    

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