[KATARIBE 12021] HA06:EP: 「チョコレートのクマ」

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Date: Thu, 18 Feb 1999 18:09:41 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 12021] HA06:EP: 「チョコレートのクマ」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199902180915.SAA32039@www.mahoroba.ne.jp>
Posted: Thu, 18 Feb 1999 18:15:00 +0900
X-Mail-Count: 12021

99年02月18日:18時14分46秒
Sub:HA06:EP:「チョコレートのクマ」:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
……何だか妙に時間がかかった割に……なんですが(汗)
まー、闇ぬい君の泣くアイテム発見、とゆーことで。

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EP「チョコレートのクマ」
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  某日曜日。
  某菓子売り場。
  年に一度の稼ぎどきの、バレンタインである。
  きゃわきゃわと笑う女の子の群れの中に、ぽちぽちとそれ以外の人々も
 混ざる。バレンタインの時期にしか手に入らないチョコレートというのも
 結構あるから、菓子好きな人にしては案外逃せない時機である。

 ……が。

  訪雪   :(……流石に儂だと浮くか(苦笑))

  実際は30代前とはいえ、見てくれは30代後半から40代、と、評されたことがある。
  それでも、きゃわきゃわ言う女の子達を避けながら、ショーケースを覗いて
 いたのだが。
  視線を上に戻して……訪雪は心持ち安堵した顔になった。
 
  訪雪   :「……おや」
  花澄   :「あ……大家さん、こんにちは(にこにこ)」
  
  女の子達の群れに圧倒されていたらしい相手は、やはり少々ほっとした
 顔で会釈した。

  訪雪   :「チョコレートを?」
  花澄   :「はい、いい機会ですから(にこにこ)」

  いい機会、というのも変なものである。

  訪雪   :「……といいますと?」
  花澄   :「プレゼントの口実のある日って、そうはありませんし」
  訪雪   :「贈り先は」
  花澄   :「ユラさんと麻樹さんと尊さんと直紀さんとちかちゃん!」

  ………一気呵成に言うなよ。

  訪雪   :「……………成程(苦笑)」
  花澄   :「あ(赤面)……ええと、あと、キノトくんと一さん、美樹さん……
         :食料補給にいいかな、って(笑)」

  身も蓋もない。

  花澄   :「で、大家さんは……?」
  訪雪   :「儂、ですか?……いや、この時期しか無いチョコってのが
         :案外あるものでしてね(苦笑)」
  花澄   :「あ、成程……(ぽむ)……あの、もし、よろしければ
       :大家さんのお勧めのチョコレートって、教えて頂けません?」
  訪雪   :「構わんですよ」

  そうやって、しばらくの後。

  花澄   :「……あら(笑)」
  訪雪   :「?……ああ(笑)」

  ショーケースの中の、チョコレートのクマ。
  座っていても掌の長さほどの身長のある、案外大きなクマを見て、花澄がくすくす
 笑い出した。

  花澄   :「闇ぬい君、見たら何て言うでしょうね」
  訪雪   :「……泣きゃあしませんかな(汗)」
  
  その周りに、クマの形のチョコレートが、大小様々並んでいる。

  花澄   :「……これ、闇ぬい君にあげようかしら」
  訪雪   :「永久保存版、ですか?(笑)」
  花澄   :「やっぱりそうなるかなあ……(苦笑)」

  想像する。

     訪雪   :「ほら、闇ぬい君。これはチョコで出来たクマだ」
     闇ぬい :「う、うん(じーーーーっ)」
     訪雪   :「だから、食べられる」
     闇ぬい :「た、食べるのか?(がーーんっ)」
     訪雪   :「食べんでどうするね(ひょいぱくっ)」
     闇ぬい :「う”………うわあああああああんっ(大泣)」

  憶えず、苦笑が口元に浮かぶ。
  視線をずらすと、相手も同じようなことを考えていたらしく、
 やはり苦笑が口元に浮かんでいた。

  花澄   :「やっぱり、食べられないですよね」
  訪雪   :「そうでしょうなあ」
  花澄   :「でも、見るだけなら喜びそうですよね……よし」

  財布を取り出したのを見て、訪雪は少し離れる。
  数歩先に行ったところで、花澄がはたはたと小走りに近づいてきた。

  花澄   :「あの……大家さん、これ、闇ぬい君に」
  訪雪   :「はあ」

  花澄さんが渡した方が、と、言いかけた機先を制して、花澄はもう一つ
 包みを差し出した。

  花澄   :「それでこれ、大家さんに」
  訪雪   :「……儂に、ですか?」
  花澄   :「いつもお世話になってますから(笑)ゆず共々」
  訪雪   :「……」
  花澄   :「あ、あの、これは、クマの形じゃありませんから(汗)」

  沈黙をどう受け取ったか、花澄が慌てて口を挟む。

  訪雪   :「いや……ありがたく、頂きます」


  と、まあ。
  座卓の前に、神妙な顔をして、闇ぬいが座っている。
  その前に、訪雪は、包みを一つ差し出す。

  訪雪   :「花澄さんからだよ」
  闇ぬい :「う、うん(訳も無く緊張)」

  ふくふくの手をぎこちなく動かして、それでもそおっと包み紙をはずして。

  闇ぬい :「………くまさんだ(小声)」

  一列に並んだクマが、こちらを見て笑っている。

  闇ぬい :「ちょ、ちょこれーとにも、くまさんいるのか(感動)」
  訪雪   :「……ふむ」

  あまり大きなものではない。売り場にあったクマと比べれば、作りも
 さほどのものではない。
  しかしそれでも、それはちゃんとクマの形をとっている。

  闇ぬい :「う、動くのかな(どきどき)」
  訪雪   :「さあ、どうだろうねえ……」
  闇ぬい :「きっと動くんだぞっ(何故か威張りっ)」
  訪雪   :「そうかもしれんなあ(笑)」

  あくまで冗談の、筈、だったのだが。

  こととん、と、軽い音。

  闇ぬい :「わああっ(あせあせ)」
  訪雪   :「……(汗)」

  ぶるん、と一つ。
  はずみを付けるようにして、箱の中のチョコレート製の小さなクマが、
 ぴょい、と立ち上がる。そのまま箱の縁をまたぎこして、座卓の上に
 立ち上がる。
  二番目、三番目、と、クマがそれに続いてゆく。

  闇ぬい :「…………(感動している)」

  何時の間にか一列に並んだクマは、神妙な顔で闇ぬいのことをしばらく眺めて
 いたものだが。

  SE   :てこてこ、とんっ☆

  一斉に足踏みをすると、そのまま、また、箱の中の元の位置に戻ってしまった。

  闇ぬい :「ほら、動いたぞっ(大威張りっ)」
  訪雪   :「本当だねえ(笑)」


 
  で……また、数日後。
  瑞鶴で。

  花澄   :「……あらら(汗)」
 店長  :「で、どうしました?」
 訪雪   :「仕方が無いんで、冷蔵庫にそのままですが……(苦笑)」
 花澄  :「場所、取ってしまいますねえ(思案顔)」
 訪雪  :「クマがいなくならんかどうか毎日のように覗くもんで」
 店長  :「それじゃ食べられない」
 訪雪  :「まあ、儂のものではないですから(笑)」
 花澄  :「いえ、もともと闇ぬい君が見飽きたら、大家さんに、と思ってたんで……
     :でもそうですか、動くんだ」

 何だか妙に感心したような顔で言うのを、じろりと店長が見やる。

 店長  :「……買ってくるなよ、そんなもん」
 花澄  :「……何でわかるの(汗)」
 
 猫が一つ欠伸をする。

 花澄  :「でも、チョコレートのクマが動いたのって……案外闇ぬい君の一念じゃないですか?
     :別に、意思があるとか、じゃなくって」
 訪雪  :「そうかもしれませんが……」
 店長  :「てえことは、闇ぬい君が見飽きるまではまだまだ動く、と」
 花澄  :「あ”」


 冷蔵庫の中のチョコレートのクマは、まだ当分居座るようである。

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 てなもんで。

 ……ばれんたいんってなんだろうなあ(とほいめ)

 であであ。




    

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