[KATARIBE 11974] [HA14]EP: 『餞別』

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Date: Mon, 15 Feb 1999 19:07:56 +0900
From: lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp (S.S.Kakegawa)
Subject: [KATARIBE 11974] [HA14]EP: 『餞別』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199902151014.TAA07360@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp>
Posted: Mon, 15 Feb 1999 19:14:53 +0900
X-Mail-Count: 11974

蘆会@ねむねむでございます。

最近とんと話を書いておりませんで、おっぽってる連中がたんとおるんですが
……流石に、ちと怨まれそうになってきまして(笑)

チョコ喰いながら思いついたのを、ひとつ。

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エピソード『餞別』
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 黄昏時。
 寒風吹きすさぶバス停のベンチに、大柄な男が一人、腰掛けている。
 大きなリュックサックを足元に置き、革のジャケットの背中を丸めた男の手
の中には、湯気を立てる缶がひとつ。

 松崎          :「畜生、寒いやなぁ……」

 吹利に来てから、既に一年半以上経っている。
 ひとつところにこれほど長く留まっていたのは、久し振りだった。
 そしてこの先も当分、この土地を離れることは出来そうにない。この土地、
吹利を訪れねばならない理由となった仕事は、まだ終わってはいない。

 滞れば、腐る。根を張ったら、二度と飛べなくなる。
 長い滞在の間、あえて部屋も宿も借りずにいたのは、そんな恐怖があったか
らかもしれない。

 やけに早い終バスが去ったあとのバス停を、時折、車のヘッドライトが照ら
し出す。
 かじかむ両手を缶のぬくもりで暖めながら、男が錆びた時刻表を見上げていると、坂道を登ってきた白い乗用車が、彼の目の前に停まった。

 松崎          :「……?」

 両腕の筋肉が緊張して、缶が微かな音を立てる。
 運転席の扉が開いて、ダークグレイのスーツの上から、同じ色のコートを羽織った男が、ベンチの方に回り込んでくる。

 田能村        :「明日の朝まで、バス待ちですか?松崎先輩」
 松崎          :「……田能村。お前か」

 半ば呆れ、半ばほっとしたように名を呼んだ男、松崎に、田能村は手にした
包みを差し出した。

 田能村        :「チョコです。どうぞ」
 松崎          :「……今日が何日だか、判ってやってるのか」
 田能村        :「勿論。いっぱい作ったので、義理と餞別を兼ねて」

 邪気のない笑み。少なくとも、表面上は。
 笑うとますます細くなる目の奥の光は、薄闇の中では見えない。
 缶を置き、包み紙を引き破って、中身にかぶりつく。胃に落ちていく甘さと
ほろ苦さの奥に、アルミホイルの金属の味。

 松崎          :「餞別か……本業復帰、だって?」
 田能村        :「自分の本業が学生だということを、自分でも忘れていま
                :したがね」
 松崎          :「ま、バイトにこんだけ精出してちゃあな」
 田能村        :「給料、安いですけれどね(笑)」
 松崎          :「まぁな(笑)」
 田能村        :「おかげで、論文は一本出し損ねるし(笑)……今晩は、
                :ここで泊まりですか?市街までなら、送りますが」
 松崎          :「そうさな……頼むわ」

 丸めた包装紙を、バス停の柱にくくりつけた吸い殻入れに押し込んで、立ち上がる。
 暖房の利いた車内には、強いチョコレートの匂いが漂っている。

 田能村        :「部屋を引き払っていなかったら、泊められたんですけれ
                :どね。私も、夜までには横浜へ戻って支度をしないと」
 松崎          :「確か、中東の方……だったよな。いつ発つ?」
 田能村        :「すぐ。今週中にテヘラン入りしないといけませんので。
                :私のあとに補充は入りませんが、大丈夫ですね?」
 松崎          :「まぁな。いまんとこ事態は落ち着いてる。こっちからは
                :当分動けない……ま、一人でもなんとかなるだろ」
 田能村        :「下手に動けないのは、何処も同じでしょうから……留守
                :を、頼みます」
 松崎          :「ん」

 冷めたコーヒーの残りを、ずずっと啜って。

 松崎          :「いつ、帰る?」
 田能村        :「さあ。そのうち、ね」

 くすっ、と笑って、田能村はアクセルを踏み込んだ。

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むう。
久々にえぴそど書くと…難しい(汗)
ふぉーまっと、完全に忘れてたもんなぁ。

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閉じたドアの隙間から洩れてくる歌声のように。
東松原蘆会(ひがしまつばら・ろかい)
                  lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp
 http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/6525/

    

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