[KATARIBE 11870] [HA06][EP] 「回想構造」

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Date: Wed, 10 Feb 1999 12:23:46 +0900
From: fukanju@trpg.net (R.Fukanju)
Subject: [KATARIBE 11870] [HA06][EP] 「回想構造」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199902100323.MAA27067@trpg.net>
Posted: Wed, 10 Feb 1999 12:22:53 +0900
X-Mail-Count: 11870

ども、不観樹露生@体力レス です。はい。

  いーさん、どーもです。

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「回想構造」

  夢を見たのだ。
  長い、長い、物語の。
  
  既視感。読んだことのあるはずの物語。
  デジャ・ヴ。読んだことのないはずの物語。
  憶えていないほど、昔に。
  憶えていないほど、未来に。
  必ず、読むはずの物語。
  
  だからわたしは、旅に出ることにしたのだ。
  その物語と、出会うために。


「いつ戻れるか、判りませんから」
  そう告げる。
  そう告げたのは、すでに、半年前。
  発端は唐突だった。

  郵便受けをなにげに開く。一通の手紙。茶封筒。
  表書きには、友の名前。
  久しく音沙汰も途絶え。懐かしさのみを思い出させる名前。

「やぁ、狭淵君、よくここまで来てくれたね」

  彼はわたしを…………すでに愛称では呼ばない人になっていた。
  わたしも自分を…………すでに僕とは言わない人になっていた。

「それならなおさら…………、この本は、君にプレゼントするわけ
にはいかないのです。北元さん」

  わたしは彼を…………すでに愛称では呼ばない人になっていた。
  彼も彼自身を…………すでに俺とは言わない人になっていた。

  友の血。それは降り注ぐ。摂氏37度の雨のように。
「すまなかった、迷惑をかけてしまって…………」
  友に渡すかもしれないはずだった、小さな文庫本に。
  そして、物語に。
「申し訳ないです…………お役に立てませんで…………」
  わたしの汗と、友の血は。よく似た味をしていて。頬を伝い落ち
る生暖かい液体。涙では、ない。

  なぜ、自分の口元から笑みを消すことが出来ないのだろう。こん
な時にまで。

  回想。階層。

「本当の規則は…………自分自身の心の中にしかないのさ」
  苦笑いしながら。あれは、中学の制服を着たての頃。
「僕たちのルールを決めましょう。僕はきっちゃのルールを尊重し
ますよ」
「俺は、みきぃの規則を尊重するさ」

「なぁ、みきぃ。俺は思うんだけどさ。世界には不思議じゃないこ
となんて何一つないんだ」
  あれは、小学生。
「僕もそう思いますよ」
  不思議という言葉が、なんの疑いもなく、希望や憧れにだけ結び
ついていたあの頃。どんなに考えても、まだまだその先に不思議が
あるというこの世界への胸の高鳴り。

  頚動脈から、吹き上がる、血。

「今も、思いますよ。『この世には不思議じゃないことなんて何一
つない』って」
  でも、不思議とは。考えてはならないほどの悲しみ。考えの及び
もしない痛み。苦しみ。闇。そんなものも含んでいると知ってしま
っている今では。

「狭淵君、君は自分のルールを守っただけなのだから。僕は、納得
しているよ」
  それでも、笑みを消さないのが、友。
「だから、気にしなくていい」
  わたしは、笑むしかない。
「決して忘れないのも。わたしのルールですから」

  現実と、非現実の狭間だから。
  世界を変革しないから。
  物語の中だから。


  板張りの中世の文書館に、鮮血の雨は降り続ける。
  今も降り続いている。
  きっと。


  思い出がいくら増えようとも。
  胸の傷が、いくつに増えようとも。
  わたしは、たぶん、わたしのままだ。
  奈落の底に落ちるまでは。

「にゃぁ」
  背中を撫でてやった猫が、気持ちよさげに鳴く。
「では」
「またどうぞ」
  わたしは、花澄さんに軽く一礼して。瑞鶴から外へと踏み出す。
  冬の陽光が、眼にしみた。

                                                      (終)
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  って、重ねます(^^;
  美樹の不在の間について、美樹自身が語ることは………
  ほとんどないでしょうけど(^^;


…………。…………。…………。…………。…………。…………。…………。
不観樹露生(ふかんじゅ・ろせい)        2月の標語
fukanju@trpg.net        他者を傷つけることと、傷つけないこと。
                                      どちらがより困難だろうか。
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/2045/fukanju.html
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/4097/index.html
…………。…………。…………。…………。…………。…………。…………。

    

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