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Date: Tue, 9 Feb 1999 17:14:50 +0900
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 11858] HA06:Story: 「静かなる」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199902090819.RAA08303@www.mahoroba.ne.jp>
Posted: Tue, 9 Feb 1999 17:19:29 +0900
X-Mail-Count: 11858
99年02月09日:17時19分27秒
Sub:HA06:Story:「静かなる」:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
美樹さん帰還、お迎え話(ってえと語弊がありますが)です。
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「静かなる」
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常連さんが帰ってくるのは嬉しい。
「お久しぶりです」
「あ、帰ってこられたんですね」
「御存知でしたか」
「麻樹さんに、自転車旅行に行かれたってお聞きしてました」
たとえ、以前よりまた一段とやせているように思えても。
たとえ、その懐にまた一段と重いものを抱えているように思えても。
「いらっしゃらない間に、多分、また何か増えてますよ」
「それは、楽しみです」
にこにこと、変わらない笑顔で答が返ってくる。
それは、いつものままで。
先だって、麻樹が栢々の夢を見た、と言っていた。
『あの、莫迦兄貴っ!』
そう、夢の海の中に吐き捨てた声。
「……あの」
「はい?」
妹さん、心配してませんでしたか、とか。
グリーングラスに行かれましたか、とか。
そういう、言の葉を接ぐだけの他愛のない話が、相手の周りの静かな空気に
ふいと吸い込まれてしまうような気がする。
「あ、いえ」
何があったのか。
尋ねれば、それ相応の返事は来るだろう。
しかし、知る権利は、己にはない。
「これ、お願いします」
「はい」
古びた色合いの、しかし確かに新しい本を、丁寧に紙袋に入れて。
「はい」
「ありがとうございます」
「また、どうぞ」
大切そうに本を抱えて、出て……行きかけて。
「おや」
「あ、すみません」
「いえ。可愛い猫ですね」
入り口のマットをすっかり定位置にした猫の頭をぽんぽん、と叩いて。
誉め言葉がわかるのか、猫はにい、とやたら可愛らしい声で鳴く。
「では」
「また、どうぞ」
すう、と、風に押されるように、やせた影が出てゆく。
静かな空気だけが、後に取り残されてゆく。
そのまま、しいんと残る静けさに、耳を傾けてみる。
ある日の瑞鶴である。
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てなもんで。
では………栢々話〜〜(よろりら)