[KATARIBE 11504] [HA06] 小説『尊退魔行』 - 2

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Date: Tue, 10 Nov 1998 10:59:02 +0900
From: Aoi Hajime <aoi@ndc.cht.co.jp>
Subject: [KATARIBE 11504] [HA06] 小説『尊退魔行』 - 2
To: kataribe-ml@trpg.net
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In-Reply-To: <9810160808.AA00188@black.ndc.cht.co.jp>
Posted: Tue, 10 Nov 1998 11:04:55 +0900
X-Mail-Count: 11504

 葵@なんか自分で自分の首閉めてるぞ(笑) >ヲレ。です

 さてさて、なんだか雲行きが妖しくなってきたぞ(笑)

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2.

 「うーん、暗くなっちゃったなぁ」
 あたしの脚なら日暮れまでに着けるだろうと踏んだ行程は予想以上に厳しく、
既に日はとっぷりと暮れ、辺りは完全に闇に閉ざされてしまった。
 雪も本降りになり、腕時計に付けたコンパスが無ければ既に方角すら分からない
状態だ。
 「はぁ、参ったなぁ、こりゃ野宿……かな」
 不用意に歩き回って遭難するのも馬鹿馬鹿しいから、何とか雪をしのげる場所を
見つけて雪洞でも作って野宿しようかと辺りを見回したとき、あたしの耳に何かが
聞こえた。
 「エンジン音?」
 その音はだんだん近づき、今でははっきりエンジン音だと分かった。
 まもなく遠くの方から一条のライトがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
 「おーい!いるー?」
 ふと、エンジン音が弱まりライトの辺りで呼ぶ声が聞こえた。
 どうやら誰か探してるらしいけど、こんな時間にこんな所を探してるのって……。
 あたし……かな?。
 「ここよー!」
 大声で返すと「今行くからそこにいてねー」の返事と共に、再びエンジン音が
近づきだした。
 数分後、エンジン音の正体はスノーモービルだって事が判明した。
 「良かったぁ、見つかって」
 あたしの前に雪を蹴立てて止まったスノーモービルから明るい女の子の声がかかった。
 「あの……ひょっとして、幽明館の人?」
 あたしの位置からだと、ライトが逆光になって彼女は見えない。
 「うん、ひょっとしなくても幽明館の人。あたし館山雪乃、えっと、如月……尊さん
だよね?お母さんに言われて迎えに来たの」
 「良かった〜助かったわ」
 あたしの安堵した声に、彼女、館山さんはゴーグルを外して、ボブに切りそろえた
サラサラの髪を揺らしながらクスクス笑う。
 「無茶するわねぇ、この道を歩いて上がろうなんて、このまま野宿でもするつもり
だったの?」
 「うん」
 「へ?」
 あたしがサラっと事も無げに答えると彼女、呆れちゃったみたい。
 ま、正常な反応ね。あたしも他人がこんな事言ったら呆れるでしょうけど。
 でも、あたしにとってはこの程度なら十分野宿出来る状態なのよね。
 快適とは言い難いけど、雪洞作れば蝋燭一本で十分凍死しないだけの暖は取れるし。
 その程度の訓練は積んでるし。
 「あっきれた……まぁ見つかったからいいや、とにかく、後ろ乗って雪酷くならな
い内に戻るから」
 「じゃ、よろしくね館山さん」
 「んー館山さんってのもなんかくすぐったいから……名前で、うん、雪乃で良いわ」
 「ん、わかった、じゃぁ……雪乃……ちゃん?」
 「それで良いよ」
 それが癖なのか、クスクス笑いながら雪乃ちゃんがリアシートの雪を払う。
 「じゃ、あたしも尊で良いわ」
 あたしが後ろに乗った瞬間。
 「OK、尊さん。飛ばすからね、しっかり掴まっててよ!」
 「え?ちょ!ちょっと!」
 あたしの悲鳴は唸りを上げるエンジン音にかき消された。

 「はーい、到着だよー」
 「……」
 「あれ?大丈夫?」
 あたしはようやく幽明館についた。
 雪乃ちゃんの後ろに乗ってからの事はあんまり語りたくない。
 筆舌に尽くしがたいってのは月並みな表現だけど、身をもって体験した場合それ
以外に言いようの無い場合も有るんだって事がよくわかった。
 筆舌に尽くしがたい運転では有るけど、あえて表現するなら。
 そう、疾走するジェットコースターに大型冷蔵庫を据え付けて、その中に洗濯機
を入れて、ぐるぐる回された。ってのが近いかしら。
 え?判らない?判らなくて結構。あたしも判りたくないから。
 「そっか、寒かったからね、早く入ろう」
 「ち、ちが……」
 フラフラのあたしは、半ば雪乃ちゃんに引きずられるように、幽明館の玄関を
くぐった。
 お祖父ちゃん曰く、大正時代に建てられたという建物の、古風な引き戸の玄関を
開けると、年代を感じさせる朱絨毯を敷いた黒光りする廊下と、帳場から出てきた
女性ががあたしを迎えた。
 「おかーさーん!尊さん連れてきたよー!」
 「まぁまぁ……この雪の中を、大変だったでしょう」
 「えぇまぁ……」
 雪乃ちゃんの声に、いそいそと帳場から立ってタオルを手に駆け寄ってくれる女性。
 たぶん、雪乃ちゃんのお母さんかな?に、二度と体験したくない運転で到着した上に、
体の芯まで冷え切って唇まで紫色になったあたしは、それだけ答えるのがやっとだった。
 「こんなに冷え切って……」
 上がり框にへたり込んだあたしの両頬を、ふわりと暖かいものが包んだ。
 「あ…」
 見上げると、優しく微笑む女性があたしの頬を暖かい手で包んでいた。
 「あ、あの…」
 暖かな感触と突然のことに、どぎまぎしたあたしが言葉に詰まると、その人はスッと
離れて。
 「あら、ごめんなさいね、私はここの女将で館山志乃と言います。十兵さまからお話
は伺っていますわ」
 そう言って、女将さん、志乃さんはにっこり微笑んだ。
 「え、ええ、そうです。御依頼の件、祖父より承って参りました。如月尊です。」
 あたしはそこでやっと彼女の顔をまじまじと見ることが出来た。
 柔らかなラインの眉に彩られたちょっと垂れ目がちな大きな目、緩やかに束ねた艶
やかな黒髪。しっとりと落ち着いた雰囲気に鮮やかな紫地の着物と茶の帯がよく似合ってる。
 あ、右の目尻に泣きぼくろも有るや。
 「どうか……なさいました?」
 「あ、い、いえ」
 見つめるあたしの目が恥ずかしいのか、ちょっとはにかむ志乃さん。
 なんだか、雰囲気は大人の女性なんだけど、微笑む表情とか……なんて言うのか、
可愛いって表現の方がぴったり来るみたい。
 この女性(ひと)幾つなんだろう……。
 「ちょっとぉ、お母さん!尊さん連れてきたのあたしなんだからね!あたしにも一言
あって然るべきじゃない?」
 後ろから雪乃ちゃんが憤懣やるかたないって感じで割ってはいる。
 「あら、御免なさいね。雪乃も雪の中お迎えご苦労様」
 「遅いって」
 雪乃ちゃんは雪だらけになったジャケットを脱いでストーブの側にかけながら
苦笑する。
 スノーモービルに乗ってるときは暗くて分からなかったけど、雪乃ちゃんは、
お母さん似なのね。大きな垂れ眼がちの眼にがとっても可愛い。
 「とにかく。そんな事より、尊さんもあたしも冷え切っちゃってるから、お風呂
いってくるわ」
 そう言って雪乃ちゃんはあたしの手を掴むと有無を言わせず引っ張り出した。
 「あ、あの、依頼の件は?」
 「そんなの後々!とにかく暖まらなくっちゃ話も何もないわよ」
 「そうね、ゆっくり暖まってらっしゃい」
 …………。
 なんか……とっても嫌な予感がする……。
 こういう強引な展開の先に待ってるのは……大体ろくでもない事件なのよね……。
 
 あたしは、雪乃ちゃんにズルズルと引きずられながら今後の展開に頭痛を
禁じ得なかった。

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 うーむこの先どうなるんだろう(笑)(ぉぃ
 筆者も分からないこの先の展開(笑)
 はてさてどうなる事やら(笑

                                           葵 一( aoi@ndc.cht.co.jp )
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Hajime Aoi (Masaki Yajima)  Nagano, Japan
E-Mail: aoi@ndc.cht.co.jp / yajima@cht.co.jp
    

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