[KATARIBE 10951] [HA06]夏休み

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Date: Thu, 23 Jul 1998 00:13:00 +0900
From: Fushiki <aida@nnl.isas.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 10951] [HA06]夏休み
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199807221522.AAA08718@ginga.eng.isas.ac.jp>
Posted: Thu, 23 Jul 1998 00:22:45 +0900
X-Mail-Count: 10951

中崎です。

三高さんからのファイルの転送になります。

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        こんにちは、三高です。
        御不沙汰しております。皆様、お元気ですか。
    たま〜には、顔出ししませんと、と思い立ち
    ひとまずEPを送ります。

ショートEP『夏休み』
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 「夏休み。」
 なんとも、うれしい響きである。
 足取りもつい軽くなろうというものだ。
 ロッカールームで制服に着替えながら、杉田和志は口元が緩むのを禁じ
えなかった。
 明後日から、3日間の夏休みなのだっ! 
 さらに年休と有給休暇と非番も併せて、まるまる一週間、休みを取った。
お盆休みも正月休みもゴールデンウィークもない職場としては、感動的大
盤振る舞い長期休暇なのだ。
 予定は立てていないけれど、梅雨も明けたことだし、ドライブがてら旅
に出るのもわるくない。
 白浜か有馬、足を延ばして城崎へ行こうか。
 のんびり温泉につかって、それから温泉饅頭の食べ比べをしよう。さら
りとしたこし餡の薄皮饅頭が好きだが、重曹の効いた田舎饅頭も捨て難い。
 それとも京都へ出て、和菓子屋巡りでもしようか。一人で行くのもなん
だから、お袋と姉貴を誘ってもいい。どうせ二人とヒマを持て余す専業主
婦だし。
 いかにも甘党らしい想像をめぐらせ、口元がにやける。
 『いかがなされました?』
 あまりにヘラヘラしていたのであろう。肩先に姿を現した朱里が、訝し
げな顔をして和志を見上げる。
 小首をかしげる雀の式神になんと答えればいいのやら、
 「なんでもないよ。」
 口元引き締めそれだけ言うと、ロッカーの扉についている小さな鏡越し
に、照れ笑いを返す。
 『チュ、チュ、チュン(???)』
 真ん丸な瞳を白黒させ、疑問符で一杯になってしまった朱里に肩をすく
めると、和志はネクタイに手を伸ばす。
 鼻歌混じりに鏡を覗き込み、慣れた手つきでネクタイをしめ始めたその
時、鏡に人影が映った。
 「楽しそうですねぇ。」
 ぎょっとして振り向くと、案の上、そこには郵便課の殿真主任が立って
いた。この人がわざわざ他部署に出ばってくる理由は一つ。裏の仕事がら
み。和志の胸中に、にわかに暗雲が立ち込めてくる。
 「さて。す・ぎ・た・くん。」
 殿真が口元に笑みをを張り付けて、出し惜しみするような言い方をする
時はロクなことがない。浮かれていた気分が、ぷしゅーっとしぼんでゆく。
 そんなこちらの気持ちを知ってから知らずか、殿真は手にした茶封筒の
中から、三つ折りにした紙を取り出した。
 「はい、闇局からの招待状! 」
 わざとらしく陽気に言って、目の前でパッと開いたA4用紙には、細か
な文字が印刷されていた。その一文。
 [ 杉田和志 右の者、近畿郵政研修所にて一週間の特務研修を命じる ]
 闇局主催の若手職員育成のための、夏期特別研修会への出席を命じる文
書であった。
 和志はクラクラッとめまいに襲われる。
 「期間は明後日から一週間。君は、ちょうど夏休みでしたか。
 仕事をわざわざ休まなくても行けますよ。無理して休む口実を作る手間が
省けて助かるでしょう。」
 嬉々とした殿真の言葉に目の前が暗くなる。あぁ、温泉饅頭ゥゥゥ。
 鬼のような宣告をする上司の顔を、どよ〜んとした目付きで見上げると、
殿真はニヤリと微笑んだ。
 「良かったですねぇ、夏休みの暇つぶしが決まって。研修所はクーラーが
きいていて居心地がいいですから、まぁ、がんばって勉強してください。」
 ダメ押しの台詞は、和志を奈落の底に突き落とすのに威力十分であった。
 がっくりと膝をついてしまった和志の目の前に、パッと文書をつきつける
と、殿真は何故か足取り軽く、その場を立ち去った。
 パタパタパタ・・・。
 和志の落胆ぶりを心配した朱里が、慰めようと飛び上がり、和志の頭の上
にとまって、つんつんと突っ突く。
 「ゥゥゥ返せ。」
ぼそりと和志がつぶやいた。
 『ピチュッ?(びくくっ)』
あまりの暗さに竦み上がる朱里。
 「俺の夏休みをかえせぇぇぇぇっっっ!!! 」
 地の底から沸き上がるような声で和志が発した言葉は、しかし、誰の耳に
も届かなかった。

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 というわけで。

  三高: かくして和志の野望は潰えたのであった。
  和志: 俺の夏休みを返せぇぇぇっ。
  三高: 見苦しい。まだ言うか。
  和志: だってだってだって(涙目)。
  三高: ロクな術も使えんのだ、この際、特訓でもしてきたまえ。
  和志: 一応、般若心経くらい読めるぞ。
  三高: 読めても使えなくては意味がない。せめて結界のひとつ、
      真言のひとつもできなくては。
      今の君には、モノノケが見えるという特技しかないのだから。
  和志: どうせ俺は人畜無害なただの郵便屋さんですよ。
  三高: 拗ねるなよ、いい年して。僕だって職場の都合で
      もう夏休み、消化したのだからね。
  和志: それで、俺に腹いせしてたのか?
  三高: さぁ? (ニッコリ)

                             以上。『かもめ〜る好評発売中』
                         三高久志でした。

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以上です。
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               中崎  実
 e-mail  :aida@nnl.isas.ac.jp
	 : afn@geocities.co.jp
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