[KATARIBE 10924] [HA06]EP: 『口紅』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 21 Jul 1998 15:51:38 +0900
From: 田中 久美子<kumiko.tanaka@systemplaza.co.jp>
Subject: [KATARIBE 10924] [HA06]EP: 『口紅』
To: "'kataribe-ml@trpg.net'" <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <73B77F96C572D11180B70000E20C5924136221@tonen.co.jp>
Posted: Tue, 21 Jul 1998 15:57:31 +0900
X-Mail-Count: 10924

  にゃあ、久志です。
みいみい、あしたになったら電話が使えるぅ(^^)
はーやく明日になぁれぇ☆
  というわけでEP『口紅』続きです。

『口紅』
*********************************************************************
  夕暮れ過ぎ、すっきりと晴れた昼間とうってかわって一面薄暗い厚ぼったい雨雲
に覆われた空。遠くの空ででちかちかと光る雷の筋が見える、雨こそまだ降ってい
ないが、この調子では駅から帰る頃にはざんざん降りになりそうだ。
「三人で電車に乗るの久しぶりだね」
  ドア沿いの手すりにつかまり、フラナのちょっと嬉しそうな声。確かに普段は徒
歩通学でめったに電車には乗らない、が、それほどはしゃぐことでも無いような気
もするが。
  あの後、今度は三人揃って市外にある船越の家まで行ってきたのだ。応対に出た
船越の母に昨日船越が来ていたシャツを貸してもらえるようにたのんだ。突然の申
し出に少々面食らっていた様子だったが、昨日も顔を出したクラス委員がいること
もあって、素直に借り受けることができた。幸い、昨日の騒ぎでシャツを洗う暇も
無かったらしい。ビニール袋に入れられたシャツの背中にはまだくっきりとあの口
紅の後が残されている、一連の出来事の唯一の手がかりだ。
「どこの口紅だろね」
  残念ながら、色を見て種類を当てられるほど化粧品に精通している人間はこの中
にはいない。
「まぁ…また、おいおい調べていくさ」
  クラスの女の子に聞けば、少しは手がかりがつかめるかもしれない。それともベ
ーカリー常連の女性陣に聞いたほうだいいだろうか。しかしどちらも化粧品に詳し
い人物は思い浮かばない。
「瑞希ねーちゃんも尊さんも花澄さんもあまりお化粧しないよね」
  こくこく、ギターはさすがに電車では迷惑なので、無言で頷く佐古田だった。
ガタン、電車が小さく揺れ速度を落とす、もうそろそろ駅につく。
「あ、美樹さん」
「え?」
  突然のフラナの声に思わず間抜けた声になってしまう。
「おや、本宮君にフラナ君に佐古田君、電車とはめずらしいですね」
  狭淵美樹さん、バイト先のベーカリーの常連さん。無類の本好きの医学生。線の
細い、いやかなり痩せ過ぎの体にさっぱりしたワイシャツ、ジーンズ姿。
「美樹さん、今帰りですか」
「ええ、本宮君今日はバイトではないんですか」
「はい、バイトは週4なんで、今日は休みなんです」
「美樹さんはバイト帰りですか?」
「今日は病院の帰りに本屋に寄っただけですよ」
  たしか、以前手術をしたと話していた。あまり丈夫そうに見えない華奢な体に分
厚いハードカバーの本が入ってると思われる紙袋を抱えている。
「あのねぇ美樹さん、僕たちね探偵してるの」
  子供が大人に向かって自分のすることすべてを自慢するかようなのーてんきな声。
危うくその場でこけそうになるのを踏みとどまる。
「おい、フラナ」
「そうですか探偵ですか、がんばってくださいね」
  にっこりといつもの穏やかな笑顔、相手が良かった。ほっと安堵のため息がでる。
言われてみれば、自分らがしていることは探偵の真似事以外の何者でもないだろう、
でも、今現在起きている出来事は笑って済まされる事ではない。そうこうしている
間に電車が減速しホームに滑りこんでいく。
「つきましたね、雨が降っていないといいんですが」
  ドアが開くまでのほんの一瞬、意識が外のホームのほうに向けられる。音を立て
てドアが開き、降りようと足を踏み出す。
「え?」
  丁度、視界の隅に美樹の背中をすり抜けるように一人の女が動くのが見えた。丁
度背中で隠れる位置に立っていたのだろうか、電車に乗っている間見た記憶が無い。
身を翻しホームへと降りる、一瞬。
「…っ!」
  目をかすめた、赤。
  口元を彩った、深い赤。
「美樹さん、背中っ」
  直感、反射的に声が出ていた。突然の声に驚いた美樹が立ち止まり不思議そうな
顔になり、不自然に動きが止まった。
「美樹さんっ」
  スローモーション、同じ光景、三度目の光景。顔がこわばり、ゆっくりと美樹の
体が傾いでいく。
「美樹さんっ!!」
  フラナの甲高い声が頭に響く、我に帰ったように、崩れるように倒れる美樹の体
を支え、その背を見る。
「…口紅…」
  フラナの怯えたような震える声、フラナだけではない自分も震えていた。
美樹の背中に残された跡。口紅の意味を調べようとした自分達を嘲笑うかのように
つけられた真っ赤な口紅。
「フラナっ!佐古田!美樹さん頼むっ」
  騒ぎを聞きつけた人達の合間をぬって、駆け出した。気配をまったく感じなかっ
たあの女の跡を追って。
**************************************************************************
つづく
(アップテンポなメロディ)
  教師、クラスメイト、通り掛かりの男のみならずベーカリーの常連、美樹まで謎
の赤い口紅に倒れた。
  謎の女の正体は?赤い口紅の意味は?
  女の跡を追い走る本宮、彼に何が待ち受けているのか。
次回、こうご期待!

  むぅ、美樹さん倒れてしまいました(^^;)
不観樹さん、美樹さんの台詞などなどで修正・追加などありましたらおねがいしま
す。

------------------------------------------------------------------
『罰がなければ、逃げる楽しみもない…』

  田中久志(ひさやん)  fwhs3290@mb.infoweb.or.jp
------------------------------------------------------------------


    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage