[KATARIBE 10843] [Ha06]EP: 『口紅』

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Date: Wed, 15 Jul 1998 17:26:18 +0900
From: 田中 久美子<kumiko.tanaka@systemplaza.co.jp>
Subject: [KATARIBE 10843] [Ha06]EP: 『口紅』
To: "'kataribe-ml@trpg.net'" <kataribe-ml@trpg.net>
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Posted: Wed, 15 Jul 1998 17:30:22 +0900
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  にゃあ、久志です。
  えぴそーど『口紅』続きます。
つれづれで書き出したEPがどんどんでかくなっていく(墓穴)

『口紅』
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  翌日は朝から上の空だった。何度も授業に集中しようとするが、その度に脳裏に
焼きついて離れないあの映像が浮かぶ。
  先生が、船越が意識を失い、死んだように倒れる姿。ホームにがっくりと倒れた
若い男、男にすがり泣き叫ぶ女の姿。ポロシャツに、ワイシャツに、カッターシャ
ツに残された刻印。血の色にも似た、赤い口紅の跡。
「ねぇ、もとみー」
  すべて電車で口紅をつけられて、その後で倒れた。しかし何のために?なぜ口紅
をつける必要があったのか?
「も・と・みーっ」
  それとも口紅そのものに意味があるのだろうか?まさか毒?もしくは呪いの類だ
ろうか?どれも確証が持てない、自分に知るすべがない。
  じゃんじゃかじゃんっ!
「うわあっ」
  耳元でいきなりギターの音色が響く。顔をあげた先に、トーテムポールよろしく
愛敬のあるフラナの顔と無愛想な佐古田の顔が縦に並んでいる。
「おどかすなよ、佐古田」
「もとみー、なにボーッとしてるの?もうお昼休みだよ、ご飯食べよっ」
「ん、ああ」
  時間感覚がすっぱり抜けている、顔をあげると教室の時計はもう12時を過ぎてい
た。言われてはじめて空腹感を覚えた。
「やっぱり、気になるの?船ちゃんと先生のこと」
  首をかしげて神妙な顔で覗きこんでくるフラナ、やっぱりそれなりに昨日のこと
が気になっているんだろう。一人だけで悩んで、周りを心配させてもしょうがない、
頭を振って立ち上がる。
「いや、ともかく飯食べにいこう」
  中庭の日陰でめいめい昼食を食べながら、かいつまんで、夕べの帰りの電車での
出来事を話す。駅構内で倒れた男、その背中に刻まれた口紅の跡。
「口紅…かぁ」
「ああ、間違いない。成田先生や船越のシャツにつけられたのと同じ真っ赤な口紅
の跡だった」
  さすがのフラナも黙り込んでしまう。佐古田は相変わらず無表情のまま手にした
カップを傾けた。
「…こうなると、さ、絶対偶然じゃないよね」
  しばらく黙った後にぽつりとフラナがつぶやいた。手にしたままだったクロワッ
サンを思い出したようにはむっとくわえた。無表情のままの佐古田が手にしたスー
プを飲み干し、無言で肯いた。
「でもな、だからって警察に言ってもどうにもできないだろう。倒れた原因もわか
らなければ、口紅が原因だって証拠もない」
「でも、実際口紅をつけられて三人も倒れてるんでしょ?」
「ああ」
  警察にも言えない、証拠もない、手がかりもない。
「そもそも、なぜ口紅をつける必要があったんだろう」
「口紅に毒が塗ってあるとか、血でも吸われたとか」
  もし、毒を塗るんだったらわざわざ服につけなくても、直接肌につけた方がいい
のではないだろうか。しかも口紅につけるとしたら自らも毒にやられる危険性があ
る。血でも吸ったとしたら、服に穴でも開いてるはずだ。それに吸うのだったら、
シャツにつけられていたような唇を押し付けた跡はつかないはずだ。
「それは…なさそうだな」
「んーなんなんだろ、ね」
  そこで止まってしまう、他に想像しうるもの…
「…暗号」
  ずっと押し黙っていた佐古田がぼそりと一言つぶやいた。
「え?」
「わからない者にはわからない、が、知っている者には何かの意味を伝えるものか
もしれない」
  無表情に淡々と語られる言葉、妙に説得力のあるように思えた。
「暗号…か」
  でも、それが本当に暗号なのか、もし暗号だとしても、何たるかがわからない。
「なんとかなるよぉ、三人よれば…なんとやらっていうじゃんっ!」
「…文殊の知恵だ」
  ともかく、今わかっていることだけでもまとめてみることにした。適当に破った
ノートの切れっ端に、思い出せることを書き出してみる。
  手がかり
  1.全て電車で被害にあっていた…犯人は電車に乗っている?
  2.シャツにつけられた口紅…犯人は女?
「男だったらやだね」
  じゃんじゃん。これは佐古田もギターで同意した。
「それと、口紅の跡がついていたのは…」
  口紅がついていたのは肩より下、肩甲骨の中ほどのところ。大体口紅のついてい
たあたりの高さに手をおいてみる。
「この位置が唇の位置として…ちょっとフラナ顔の位置あわせてみてくれ」
  ひょこっとフラナが立ち上がり、手をかざした位置に口の高さがあうように非常
階段に飛び乗る。顔の大小もあるが、あまり大きな問題にはならないだろう。
「とすると頭のてっぺんがここの位置になるな」
  ちょうど本宮の鼻と上唇のあいだあたり。
「船越の背…俺とそれほど変わらないくらいで、先生も同じくらいだったから」
  たしか船越は一センチ低い176だったはず。昨日駅で倒れた男も、同じくらいだ
ったように記憶している。
「犯人の身長は160ぐらいか」
「踵の高い靴はいてるかもしれないよ」
「じゃ155くらいから見ておこう」
  手がかり
  4.被害者はおよそ身長176cmくらいの男…推定
  5.口紅のつけられた位置から考えて…犯人の身長は推定155〜160cm
「これぐらい…かな、どれも推測ばかりだけど」
「もとみー、捜査はこれからだよぉ」
  あくまでのーてんきなフラナの声、しかし少なくとも、一人でうだくだ悩むより
はいくぶん落ち着いて考えられる。この時ちょうど、昼休みを終える鐘が校舎に鳴
り響いた。
**************************************************************************
つづく

であであ
    

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