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Date: Thu, 9 Jul 1998 19:48:42 +0900
From: "E.N." <nakazono@ss.ffpri.affrc.go.jp>
Subject: [KATARIBE 10707] Re: HA06:Story 「夏休みその昔」
To: kataribe-ml@trpg.net
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In-Reply-To: <9806291119.AA01358@150.26.109.137.ss.ffpri.affrc.go.jp>
Posted: Thu, 09 Jul 1998 19:46:34 +0900
X-Mail-Count: 10707
こんにちは、いー・あーるです。
皆さん、こんにちは。
段々夏になって参りました。
……早めに書き出してて良かったなあ(爆)
「夏休み その昔」の続きです。(すみません、続いてます(汗))
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「あんたたち、午後はお外で遊んどいで」
お昼のそうめんを茹でながら、沙都子おばさんがそう言った。
これは、ぼくらのせいじゃない。ちゃんと宿題やってたし、花澄も
黙って座ってたし。
あれは、お客さんが悪いんだ。
「……あれ?……てーんちょ、隠し子?」
「…………あんたで10人目」
びし、と、はたきを突きつけて、沙都子おばさんは言った。
「って……じゃ、誰?」
「甥と姪」
短い答え。
「だいたいね、どーしてこうもうちの常連さんは発想が似通ってんだか」
「だって、雰囲気似てるんだもの、店長に」
ふと、おばさんは眉をひそめた。
ほんの一瞬、だったけど。
「…当たり前よ、血は繋がってるんだから」
「いや、それだけじゃなくって」
沙都子おばさんと花澄は、似ている。
ぼくとおばさんは……似ていないかもしれない。
「はい英一、お箸そっから出して。花澄はフォーク使う?」
「おはし、使えるよ」
「ならいいけど…はい、のいたっ」
どん、と、サラダのお皿を卓袱台の真ん中に置いて。
「おばさん、お店は?」
「店番頼んであるから、大丈夫」
沙都子おばさんは、風が見える、という。
風は友達なんだ、という。
風が店番してくれるんだ、という。
「ねえおばちゃん?」
「何?」
「なんでおばちゃん、けっこんしないの?」
お箸をがんばって使っている花澄が、一しゃくいのそうめんをつゆの中に
落としてから聞いた。
沙都子おばさんが、お箸を下ろす。
「………花澄。よおくお聞き」
「?」
「まだあんたには分らないだろうけど、よおく覚えておおき……英一も」
「??」
「一人暮らしってのはね……楽なのっ!そりゃあもう、楽なのっ!」
……そうなのかな。
「わかんないだろうねえ、まだ」
「……うん」
「でも、楽なの。そうね、花澄や英一が、今のおばさんと同い年になったら
良く分かると思うわ」
それって。
おばさんとぼくが……20歳違うから……
………なあんだ、うんと先だ。
「……っと」
と、ぼくが納得した時に、おばさんは不意にお店の方を見た。
花澄も同時に、お店のほうを見た。
「はいはい、今行きます」
おばさんは、風が見えるという。
そして、多分花澄も、風が見える。
「じゃ、それ食べたら、下ろしといてね」
………ぼくには、風が見えない。
ご飯を食べおわって、ぼくらは外に行った。
砂利道が、ぴかぴか光っている。
「いざとなったら、花澄の言うこと聞いてね。で、花澄は聞かれたら
ちゃんと風に聞いたこと答えること」
「はい」
「……はあい」
妹を連れて行くのは、凄く面倒なんだけど。
でも、それをいったら、怒られるから。
凄く……怒られるから。
虫かごを持って、帽子を被って外に行く。
妹も、帽子を手で抑えながらついてくる。
ゴムで止める帽子なんだけど、喉が苦しいから嫌い、と、妹は言い張る。
草っ原を、どんどん歩く。
歩く度に、バッタがぴょんぴょん出てくる。小さいのは捕まえても面白くない。
大きいのは、でも、遠くに飛んでいく。
葉っぱは、鈍い刃物みたいにぼくらを引っ掻いてゆく。
踏みつける度におこる、緑の、匂い。
どろっとした、きつい香。
「とんぼ」
「あ」
ひう、と、空を切るおにやんま。
黒い……大物。
おにやんまの正面に壁。
ごつんとぶつかった、その横にも壁。
「捕まえたっ」
おばさんに、去年教わった方法。
そっと羽根を掴んで、緑の虫かごに入れる。
のぞきにくる妹を、手で払って。
「見せてよ、おにいちゃん」
「向こう行けって。とんぼ驚くだろ」
「やぁ。見るのっ」
「だめっ」
ぷっとふくれた花澄を放って、前進。
しばらくしてから、おにいちゃん、という声と、ぱたぱた走る音が聞こえた。
それを、放って、ぼくは前進した。
そしたら、ばたん、という音がした。
そして、ふにゃあ、と泣き出す声。
だから、妹って邪魔だ。
「……おにいちゃあん」
「知らないよ」
「おにいちゃんってばあ」
「じゃ、帰れよっ」
「やだっ」
ばっと立ち上がって、走ってくる。
……それが出来るんだから、すぐ来ればいいんだ。
やっぱり……妹って、邪魔だ。
重く淀んだ水の匂いを乗せて、風が吹いてくる。
沼……かな?池?
足はどんどん速くなる。
草っ原を越えて、細い通りを一つ越えて、また一つ空き地を越えて……
そして、少し広い道。
そして、青い針金の柵に囲まれた池。
おにいちゃん、という声が、聞こえない。
せいせいする。
針金は一個所だけ破れてて、そこからじめじめした道に降りることが出来る。
道の上に黒揚羽が止まって、ゆるゆると羽根を動かしている。
そおっと近づく。ぬるぬるした道の上を足音を立てないよう。
そおっと、そおっと………
「おにいちゃんっ」
ぱあん、と弾けるように蝶が飛び上がった。
「……ばかっ!」
目の前が真っ赤になるくらい、腹が立った。
「花澄のばかっ!黒揚羽逃げただろっ!」
視線の先で、妹の顔がくしゃっと歪んだ。
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一旦、切る。
まあ、兄妹喧嘩の一つや二つや三つや四つ……(爆)
本体は、弟にこれやってました(笑)
何度泣かしたことか……(とほひめ)
多分、次で終わります。(宣言しとこう、うん)
ではでは。
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『Hitch your wagon to the Star in Heaven』
いー・あーる(nakazono@ffpri.affrc.go.jp)
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