[KATARIBE 10671] [HA06]EP: 『口紅』

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Date: Wed, 8 Jul 1998 19:10:47 +0900
From: 田中 久美子<kumiko.tanaka@systemplaza.co.jp>
Subject: [KATARIBE 10671] [HA06]EP: 『口紅』
To: "'kataribe-ml@trpg.net'" <kataribe-ml@trpg.net>
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Posted: Wed, 8 Jul 1998 19:12:53 +0900 
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  ども、久志です(^^)/
おしごとさいかいするつもりが、なぜEPを書いている?(ばく)
であであ『口紅』続きです。

『口紅』
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  夕日が沈み、空がほんのりと群青から濃紺に染まっていく。
  寄りかかった電車のドアから肩に振動が伝わってくる。本宮和久はドアによりか
かったまま、窓の外に流れる景色を見ていた。電車は帰宅ラッシュの一歩前程度、
少しづつ学生の姿が減り、会社員風の人が増えてきている。今日は授業中突然倒れ
たクラスメイトの家に鞄とプリントを届けるために電車で市街へ行った帰りだった。
これもクラス委員である彼の勤めでもある、幸いバイトは定休日で休みだった。
  疲れた。ため息と共にこつんとドアのガラスに額を当てる。思えばめまぐるしい
一日だった。今朝方の担任の成田先生が急病で倒れ、クラスメイトの船越も突然倒
れた。救急車を呼ぶやら、毒ガスでも漏れたのか?とか新興宗教のテロか?など根
拠のない噂が立つやらで生徒も先生方も大騒ぎだった。
  二人とも病院に運ばれたが双方意識が戻らず、その倒れた原因さえわからないと
いう。何よりも、その二つの出来事ともに自分が居合わていたというのが、本宮の
気分を更に重くさせていた。

  真っ赤な口紅。
  瞼に浮かぶ、成田先生が倒れた時も船越が倒れた時もシャツに鮮やかに残されて
いた口紅の跡。脳裏に焼きついて離れない、これは偶然だろうか?二人が倒れたこ
とに関わってくるのか?口紅をつけられて発病する病気などあっただろうか?考え
れば考えるほど、混乱してくる。ともかくもうすぐ降りる駅だ、次はこっちのドア
が開く。滑り込むように電車が停まりドアが開く、人の流れに押されながら改札へ
と向かう途中、前のほうの人込みから鋭い悲鳴が上がった。
「なんだ」
「貧血か?」
  ラッシュ時ほどではないが、そこそこ人を埋め尽くしたホームが一瞬ざわついた。
あっという間に悲鳴の聞こえたところに人だかりができる。本宮も人をかき分け、
悲鳴のもとへ駆けつける。
  予想はしていた、そして現実は予想を裏切らなかった。
  倒れていたのはうつ伏せに倒れた若い男、その傍らで必死に男に呼びかける若い
女、おそらく恋人だろう。しかし、泣き叫ぶ女よりもぐったりと崩れ落ちた男より
も何よりも、本宮の視線を引きつけたのは…
  自分で息を呑む音が聞こえた。
  真っ赤な口紅の跡。地味なストライプのシャツの背中に唇のしわ一つ一つを写し
取ったかのようにくっきりと鮮やかに残された跡。知らず握り締めた手が汗ばむ。
騒ぎに気づいた駅員達が慌てて担架を担いで走ってくるのが見えた。
  一度目は問題ない。
  二度目は偶然だろう。
  しかし、三度目は……
「偶然じゃない…」
  真っ赤な口紅の跡。
  運ばれていく男を見ながら、得体の知れない不吉な予感に思わず身震いした。
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で、切る。

とりあえず以上です。

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『罰がなければ、逃げる楽しみもない…』

  田中久志(ひさやん)  fwhs3290@mb.infoweb.or.jp
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