[KATARIBE 10506] [HA19]プレストーリー

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Date: Tue, 30 Jun 1998 16:11:16 +0900
From: tt76470 <aida@nnl.isas.ac.jp>
Subject: [KATARIBE 10506] [HA19]プレストーリー
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199806300708.QAA24459@asagiri.eng.isas.ac.JP>
Posted: Tue, 30 Jun 1998 16:08:34 +0900
X-Mail-Count: 10506

中崎です。

狭間19・時の放浪者のプレストーリーが上がってますので、
こちらにも流します。


狭間19「時の放浪者」プレストーリー「放浪開始」
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「放浪開始」
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 時間実験装置の暴走。
 俺の調査した結果から出てきたのは、つまりそういうことだった。
 「つまりヒーセの操作ミスか?」
 室長は蒼い顔をしていたが、無理もないことだった。
 時間移動機構自体、開発されてさほど時間の経ったものではない。まだ
安全が確立されたわけではないし、そもそも時間の中を移動し、別の時代
に干渉したら何が起こるのか、正確なことがわかっているわけでもない。
 「操作ミス?」
 険悪な顔で、主任研究員がきしるような声を出した。
 「あいつはまともに何かを操作できたためしなんかないぞ」
 「今ここで何を言ったって、奴は戻ってきませんよ」
 俺はあくびをかみ殺しながら、主任の愚痴を遮った。
 ヒーセが糞の役にも立たない奴だということは、ここにいる誰もが知っ
ている。注意力もなければ観察力もなく、不注意を咎められると『だって
これが俺の性格だ、仕方がない』と開き直る、お荷物。中央政府の高官の
息子ということで首を切れずにいるが、奴がいなくなればみなが安心する
のは明白。
 しかし、未知のフィールドである時間の中にそういう奴が放り込まれた
となれば、話は別だ。奴が何かしでかす前に首根っこを引っつかんででも
連れ戻す必要がある。
 奴の悪口を言っている暇などない。
 「たしかにそうだな。それで、何か案があるのか?」
 「アルトゥアンを使います」
 「危険すぎる」
 室長が、即座に言った。
 「彼はまだ試験中じゃないか」
 「しかし、あれ以上に強力なのもないんですよ、室長」
 「だが、試験中のものに乗せるテスト乗員の手配は」
 「俺がやります」
 主任の顔に一瞬、悪意のある笑いがひらめいた。
 気がつかなかったわけじゃないが、しかし実際、今のアルトゥアンを動
かせるのは製作者たる俺一人。ヒーセの馬鹿を追っかける手段としてアル
トゥアンを使うなら、俺が乗らざるをえないのはわかりきっていた。
 たとえ、主任の破壊工作が待っていたとしても。

 アルトゥアンは、俺の計画を聞いて異議を申し立てた。
 『危険すぎる計画です、ショニ』
 ショニ、というのは俺の呼び名。本名ではないが、しかし本名はあまり
にもありふれた名なので、アルトゥアンが混乱する。 
「危険だろうがなんだろうが、あの馬鹿を勝手にうろつかせるよりはまだ
マシだ」
 『しかし、あなたの生命に関わる事態が起こる可能性は70%です』
 「幸運を祈るさ、せいぜい。あの馬鹿にばかり面白い目を見させてたま
るかよ」
 『主任が妨害工作に出る可能性があると申し上げてもですか?』
 「主任が妨害に出るのは出発時か、帰還時か?」
 『おそらく帰還時点と思われます』
 「珍しく意見が一致したな、俺もそう思ってるよ」
 操作室に外部から通信が入り、整備担当の顔が映話に映った。
 『すべて異常無しだ』
 「待避してくれ、30秒後に起動する」
 『うまくやれよ』
 この一言が、俺が最後に聞いた整備担当の言葉になった。
 そう。
 事故は、予測どおり帰還の瞬間に起きた。
 実体化プラットフォームの爆発。先に強制帰還させたセーレの小型試験
機が、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
 『いったん退避します。緊急行動コード1発動します』
 「だめだ、コード4に変更‥!」
 間に合わない。
 衝撃で俺は操作盤に叩き付けられ、世界が暗くなった。

 『…全装備、点検終了しました。電源システム一部異常。修復作業に入
ります』
 アルトゥアンの静かな声で、俺は目を覚ました。
 操作室は非常灯だけが灯っていて、暗い。
 「アルトゥアン。現在時点を知らせてくれ」
 計器の異常でなければ、俺は出発時点から約2万年過去にきているはず
だった。
 『出発時点より20544.367年過去です』
 「確かか?」
 『植物層の状態より判断して、ほぼ間違いないと思われます』
 「なんでまた?」
 『退避行動をとった際、異常が発生しました』
 アルトゥアンの防護システムと、外部からの攻撃の干渉。その結果がこ
れということだった。
 『最大出力で移動を制限しましたが、2万年の移動は避けられませんで
した。なお、研究所は干渉波により破壊されたものと推定されます』
 アルトゥアンの記録から見て、研究所は今ごろ、いや、あの時点から後
ではクレーターになっているはずだった。
 「まあいいさ。どうせ俺達も死人扱いされているに決まってる。で、帰
還のめどは?」
 『元の歴史に戻れるかどうかは不明です』
 「このまま寝て待っても無駄だろうな。偶然の結果で生まれた部分が多
すぎるんだ、歴史って奴は」

 こうして、俺とアルトゥアンの長い放浪の旅は始まった。
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実験失敗と言うより、事故と言った方が良さそうなんですけどね。

でわ。
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               中崎  実
 e-mail  :aida@nnl.isas.ac.jp
	 : afn@geocities.co.jp
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