[KATARIBE 10481] Re: HA06:Story 「夏休みその昔」

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Date: Mon, 29 Jun 1998 20:21:58 +0900
From: "E.N." <nakazono@ss.ffpri.affrc.go.jp>
Subject: [KATARIBE 10481] Re: HA06:Story 「夏休みその昔」
To: kataribe-ml@trpg.net
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In-Reply-To: <9806231126.AA01346@150.26.109.137.ss.ffpri.affrc.go.jp>
Posted: Mon, 29 Jun 1998 20:19:33 +0900
X-Mail-Count: 10481

           こんにしは、いー・あーるです。
         皆さん、こんにちは。

 
「夏休み その昔」
あれで止めると何だか訳が分らないので……

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  翌朝。
  起きて……咳き込んだ。

「英一?」

  とっくの昔に起きてたらしい沙都子おばさんが、ひょいと覗く。

「どうしたの?」
「……線香」

  蚊取り線香の、残っているのは香りだけだったけど。
  妹はまだ寝ている。

「線香って……ああ、そういうことか」

  言葉と同時に、入り口からふわりと風。
  蚊帳が風にゆるりとふくらむ。
  線香の匂いが、窓から押し流されてゆく。

「これでいい?……ほらかーすみ、起きなさい」

  にゃあ、と、はい、の間の返事をして、妹はころんと転がる。
  沙都子おばさんはそれ以上言わず、蚊帳の白い輪をはずしてしまう。
  ふわんと頼りない感触が、頭の上に落ちてくる。
  ふにゃあ、と、花澄が目をこすった。

「ご飯、用意しとくからね」


  卓袱台に並んだご飯を僕らが食べおわる頃には、おばさんは瑞鶴のほうに
移動してしまっていた。

「ごちそうさま」
「さまぁ」
「はい……おろすだけおろしといて」
「はあい」

  食器を重ねて、流しに置いて。
  そして僕らは、何だかこそこそとお店を覗いた。

  いっぱいに詰まった、本。
  紙の、匂い。
  硝子戸を開け放したところから、乾いた風が入ってくる。

「何してんの、あんた達」

  苦笑混じりの声が、横手からした。

「あ、おばさん……」
「遊んできたら?」
「……見てたら、駄目?」
「駄目じゃないけど」
  困ったのとおかしいのが半分半分、みたいな声で。
「遊びに行かないの?」
「……本、見たら駄目?」
「立ち読み禁止」
  とん、とぼくの頭を小突いて、おばさんは笑った。
「ま、いいか。レジのとこなら居ていいから……ああ、ついでだ、宿題
持っといで」
「……宿題〜?」
「持ってきたでしょ?日記、とか無いの?」
「……あるけど」
「じゃ、レジのとこでやってなさい」
「……花澄は?」
「花澄は……椅子持ってきてあげるから、そこのとこに座ってらっしゃい」

  鉛筆を、ことさらゆっくり削ってから、書き出す。
  日記……昨日のこと。長い長い新幹線の中の時間。
  そして、夜のこと。公園に遊びに行ったこと。
  そして………

  鉛筆の端っこを噛みながら、どう書こうか、考える。
  考えて………

  ぱしゃん、と打ち水の音。
  バケツを持って、おばさんが入ってくる。それを奥に置いて、
 そのままするすると本の間を動いてゆく。

  外の明るさを、本が吸い取っているようで。
  なんだかあたりは、ぼんやりと…茶色をかけたように見える。
  すいすいと、沙都子おばさんが動いてゆく。
  本が一緒に、整列してゆく……

「こーら、英一」
  こん、と痛くないげんこつが飛んでくる。
「手が止まってるわよ」
「……だって」
「だってじゃない。お母さんから言われてるんだな。ちゃんと宿題させてねって」
「……ちぇー……」

  消しゴムを取って、思いっきりノートをこする。
  妹は……何だか一生懸命、外を見ている。

「花澄、何見てんの?」
「くも」

  視線を追って、外を見る。
  通りの向かいの家の向こうに、もくもくと白い入道雲が立ち上がっていた。

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  てなもんで、一旦切る。
……ああ本当に、夏休みの日記化してきたぞ(汗)

  入道雲に関しては、案外実話。
  三つの頃、砂利のうえに転がって、ぼーーーっとしていたので、母が問うと
「くも」
  ……飽きもせずに、入道雲を見る子だったそうです(笑)

……これ、続けていいのかな(汗)
まあ、70年代の風物紹介、程度に(あせあせ)

では。

 
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  『Hitch your wagon to the Star in Heaven』
 
          いー・あーる(nakazono@ffpri.affrc.go.jp)
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