[KATARIBE 10395] HA06:Story 「夏休みその昔」

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Date: Tue, 23 Jun 1998 20:28:38 +0900
From: "E.N." <nakazono@ss.ffpri.affrc.go.jp>
Subject: [KATARIBE 10395] HA06:Story 「夏休みその昔」
To: kataribe-ml@trpg.net
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In-Reply-To: <358D7E2A147.12ABSHIVA@mail.multi.gr.jp>
Posted: Tue, 23 Jun 1998 20:26:00 +0900
X-Mail-Count: 10395

            こんにちは、いー・あーるです。
           sfさん、不観樹さん、こんにちは。

 IRCの書き込みに、

>[Fukanju] あと、70年代で生きて(物ごごろついて)いるキャラは……
>[sf] 70何年です?
>[Fukanju] 71、2年を想定しています。
>[sf] にゅう……花澄さんが3、4さいね。
>[sf] 瑞鶴店長の平塚英一氏は、7、8才ですか。
>[Fukanju] そうですね。って、その頃から瑞かくはあったのかなぁ?
>[sf] いー・あーるさんに決めてもらわないと、わからんでし。当時からある
>と面白いかも……。
>[Fukanju] 花澄さんの御両親が経営者なんですかねえ?

等とありましたので。
この時代……つまり、花澄が3、4歳の頃の話です。

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「夏休み その昔」
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「ツバメ号とアマゾン号」の終わりが近づいた頃、新幹線の車内放送が
新大阪駅までの時間を告げた。
「花澄、起きて」
 膝の上にひとまねこざるの本を抱えたまま、妹はぐっすり眠っている。
「花澄、沙都子おばちゃんとこ、もうすぐ着くよ」
「……ん〜」
 肩を揺すると、ようやく目を覚ましたらしい。
「……おばちゃんは?」
「まだ。でもあと10分で新大阪、だって」
 東京駅、新幹線に乗って、この席に座るまで、お母さんがついて来てくれた。
新幹線を降りたら、そこに沙都子おばさんが来ているそうだ。
……とは、わかっていても、やっぱりあと10分、って、緊張する。
荷物は、自分の分が一つ、妹の分が一つ。
「ぼく、次で降りるの?」
 通路を隔てて向こう側のおばさんが尋ねる。
「はい」
「荷物、持てる?」
「はい……ほら花澄、リュック背負って」
 もう一度目をこすると、妹はぴょんと立ち上がり、本を一度座席に置いてから
リュックをよいしょ、と背負った。
 切符を確認。もう一度座席を確認。
「その本、忘れちゃ駄目だよ」
「うん」
 自分の読んでいた本は、かばんの中に詰め込む。
 少しずつ、駅が近づいてきている。

 その夏は、特別だった。
 いつもはお父さんもお母さんも一緒に、鬼海のおじいちゃんのところに
直接行く。
 ところがその夏は、お父さんの出張にお母さんがついていくことになってて、
僕らだけ先におじいちゃんのところに行くようになっていた。
 というのに。
「え?……あら、大丈夫?」
 数日前におばあちゃんが熱を出したそうだ。夏風邪だろう、大した事は
ない、とはいうものの。
「じゃ、子供たちが行ったら邪魔ね」
 僕も妹もむっとしたけれども、お母さんは「邪魔に決まってます」で
片付けてしまった。
「でも……ああ、間が悪いわねえ、どうしよう」

 その時に、来たらいい、と言ってくれたのが沙都子おばさんだった。

 新幹線がホームに止まる前に、窓の外に見なれた顔があった。
 白いブラウスに、紺のスカート。ぴっと手を上げて、笑っている顔。
「さとこおばちゃんだ」
 妹が嬉しそうに言う。
「ああ、お迎えの人だね……気を付けてね」
「はい、有難うございました」
 二人揃っておばさんに挨拶して、急いで戸口に向かう。溜息に似た
きしむ音と一緒に、扉がゆっくり開く。
「おばちゃん!」
「こんにちはっ!」
 飛び込んでいった妹を抱き上げると、沙都子おばさんはにこ、と笑った。
「よし、無事に着いたね」

 おばさんは、お母さんの妹だ。
 吹利市で、一人で本屋さんをやっている。
 書店、瑞鶴。とてもめでたい名前なんだよ、と、おばさんは前に言っていた。

「四日、でしょ?どうせあたしも姉さん達に合わせて一回は帰るつもりだった
からさ。その時にこの子達連れていけば、母さんもそれまでに風邪治せるし」
「それでいいの?」
「うん……ああ、但し、別にどこに連れて行けるわけじゃないわよ。こちらも
本屋閉めるわけにいかないから」
「それは構わないわよ……ああ、丁度いいから英一には宿題やらせといて。
どうせおじいちゃんのところにいけば、宿題なんて忘れるんだから」

 幾つも乗り換えて、吹利まで。
「疲れたみたいだね、英一」
「……うん」
「寝てていいよ」
「うん」
 でも、何だか眠れない。
「おばちゃんのとこ、もう少し?」
「まだ、あとちょっとかかるね……いいよ花澄、寝てて」
 うん、と頷くと、妹はまた目を瞑る。
「さっきまでずっと寝てたのに」
「疲れてるんだ」
 くす、と笑うとおばさんは妹の頭を自分の方に凭せ掛けた。
 
 沙都子おばさんは、僕らには特別な人だった。
 
「さて、と」
 書店、瑞鶴。
 入り口に貼り付けてあった張り紙をはずして。
「じゃ、英一と花澄はそちら入っておいて。ここ開けたらゼリー出して
あげるから」
「うん」
 日差しが、硝子戸を通して入ってくる。
 それでも、お店の中はひんやりしている。
 お店の向こうに、おばさんの部屋。
 畳の、うっすらと緑の匂い。

 微かに、風。

「二人とも、あんなに良く寝たら、夜眠れないんじゃない?」
 ご飯をよそってくれながら、沙都子おばさんは笑った。
「……ん…」
「ねないと、だめ?」
「おかーさんに怒られるわよ」
「……おにいちゃんとかすみが?」
「おばちゃんが」

 少し笑って、しゃもじの先で自分をさして。

「ま、今日は、それでも、来たばっかりだもんね……少し外に遊びに行こうか」
「うん!」

 おばさんのリュックに麦茶とお菓子と花火を詰めて、近くの公園へ行った。
 ぶらんこに乗ったり、ジャングルジムに乗ったり。
 夜って楽しいんだよ、と、おばさんは笑う。

 さわ、と、風が吹く。

「英一は」
「なに?」
「空気固めるの、今でも出来る?」
 何でもなげに沙都子おばさんが言って
「うん。去年より出来る」
 何でもなげに、僕が答える。

 お母さんにも、あまり出来ない話。

「やってみてごらん」
「うん」

 吹いてきた風を、固めてみる。
「おっと……こら英一、危ないよそれは」
 固めた風を片手に受けて、沙都子おばさんがこん、と僕の頭を叩く。

 沙都子おばさんは、風が見える、という。
 風は、友達なんだ、という。
「こら花澄、ぶらんこ揺すってる時にそういう危ないことしない……で、
あんたらも甘やかすな」
 立ち上がって、片手を離しかけていた花澄が、びっくりして手を止める。
 風が、迷うように動く。
「じゃないとこの子、危ないってことが分からなくなるよ……いざって時に
どうする気だ?」

 風は友達。
 水は仲間。
 火は元気がよくて。
 地は支えてくれる。

 支えられることに、でも、頼ったら駄目だよ。
 沙都子おばさんはよくそう言う。
 何だか良くわからないけど……そうなんだろうな、と思う。

 線香花火で競争して。
 お菓子食べて。
 ぶらんこのって。
 そのうち花澄がこっくりこっくりしだしたから、おばさんが花澄を背負って
帰った。
 それが、一日目。
 それが、おばさんと僕らの夏休みのはじめ。

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……で、続く………のかおい?(爆)

まあ、英一少年が、数年後、回想して書いてるんでしょう(適当)

新幹線に関しては、本体が3歳の時に、叔母に連れられて乗っかった記憶あり。
富士山だよ、と言われたのを覚えてます。
で、確かこの頃、岩波子供の絵本で、ひとまねこざるシリーズを読んだ記憶が。

で、7歳の時に、弟と二人で、福岡から東京まで行ったことあり。
……あの時は、本を3、4冊抱えていったなあ(とほひめ)
#七時間の間、読む本がなくなるのだけが不安だった(汗)

もし、根性があれば、続きが出るでしょう(……(^^;;))
#しかし、「本の湧く場所」については何も書いてないぞ(汗)

でわ。

 
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  『Hitch your wagon to the Star in Heaven』
 
          いー・あーる(nakazono@ffpri.affrc.go.jp)
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