[KATARIBE 10350] [KA06] [EP] 花陰の鬼 〜第一夜〜

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Date: Sat, 20 Jun 1998 20:24:05 +0900
From: poetlabo@cap.bekkoame.or.jp (T.Nagare)
Subject: [KATARIBE 10350] [KA06] [EP] 花陰の鬼 〜第一夜〜
To: kataribe-ml@trpg.net
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Posted: Sat, 20 Jun 1998 20:24:42 +0900 (JST)
X-Mail-Count: 10350

流です。前回の続き。
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 公園管理者である練原努と森建司が出会った影は、変貌を遂げた。首を切られた女
の姿が溶解し、白い影が赤く染まり、再び人間の形をとり、そして…

練:ううむ、これが鬼と呼ばれるものなのか。実物を見るのは初めてだ、なんという
得難い体験だ!
森:下がれ、練!(練原の襟首を掴んで飛び下がる)

        きいぃぃぃぃん(二人を狙って飛んできた何かが甲高い音を立てる)

森:せいっ!(飛んできたものを刀で弾き返す)

        ☆かちーん

練:ナイスヒット!走者2塁を回って3塁へ!
森:(下段に構え)ふん、タマは速いが、軽いようだな。
鬼:ホホホ小賢しや人間、これを受けるか。(第二撃)
森:受けいでどうする。(薙ぎ払う)
鬼:これではいかが?(第三撃)
森:何のこれしき。(刀で受ける)や、これは?女の腕だ!
練:(歌う)火炎を払ふ森が剣、さやりしものを投げ返せ、そを投げつけし主が許
刀:(意思を持つもののように回転し、刀身をつかんだ腕を放り出す)

        白い腕が宙を飛び、鬼のところへ戻った。

練:奴が投げてきたと思ったものは、奴の腕そのものだったか。いったいどんな腕な
のか、構造を見てみたいものだ。
森:いや、奴の腕とは限らん。どっかで引き抜いてきたのかも。
練:うげ… 大根じゃあるまいし…
森:来るぞ、練!
鬼:(二人に襲い掛かろうとするが、その場から動けない)
練:(鬼の様子を観察しながら小声で)さっき呪いをしておいたからな、まだ縛りが
効いているようだ。
森:(同じく小声で)じゃあ、奴は絶対にあそこから動けないのか?
練:(囁く)いや、認識を改めるまでは。
森:(囁く)どういうことだ?
練:(囁く)僕が縛ったのは『影』『人外』だからな、奴が『自分は人間だ』ってん
なら、その時点で効果は切れる。
森:(囁く)なるほど。
(上段に構え)よし、今のうちに…
練:待て、消すな。知りたいことが
鬼:私、は、『鬼』だ。元は『人間』だ。(呪縛が解ける)
練:ありゃ、聞こえたか。『地獄耳』って言うもんなあ(;_;)
鬼:があああっ!(襲いかかる)
森:うりゃああっっ!(真っ向から斬り下ろすべく踏み込む)
練:(歌う)おお、わが麗しの君よ、何故吾に付き従ふや?吾既に失はれたり、吾既
に損なはれたり、何ぞこの抜殻を求むるや?
鬼・森:がつん!(接触と同時に飛びすさる)
鬼:(ぴたっ)
森:…何で止まる?
練:止まりたかったのに違いないな。
(鬼に向かって)悲しみを知れる者よ、おまえは以前、この言葉に出会ったな?

        鬼の周囲を、風が走り始めた。

風:のおおおおっーーーーーーーーーーーーーーー
練:(鬼へ向かって歩きながら)語れ、汝さまよえる魂よ、悲しみに酔える者よ。
(鬼から森を庇うような位置に立って)おまえの中に貯め込まれた嵐をこの聞き手に
向けて、今こそは吐くべきの刻だ。
森:おい、やめろ!

        鬼から、風が吹きつけてくる。

風:どおっっ!
森:うわあ、飛ばされるぞ!練!
練:下がってろ、こいつは本物の風じゃない。奴の中に隠れていた言葉の渦だ。僕は
これを食べてみて、あいつに何があったか理解するつもりだ。
森:この馬鹿、あいつはおまえを殺す気だぞ!
練:そのような愛着を示す理由を知りたいものだ。どうしてそんなに僕は愛されるのだ?
森:違う、女から愛されるのは俺に決まっとるっっ!
練:いいか、聞け。鬼とはまつろわぬ者、虐げられし者、権力から追われた者共の謂
だ。同時に神秘の力をもって技芸を教える神でもあった。この国の歌詠み達は遠い昔
から、そのような力に近づこうとしてきたし、またそのような力を持つものと信じら
れてきた。勅撰の歌集が何度も編まれたのは、それが呪術に他ならなかったからだ。
鬼に近づくことを目標とする詩人にとって、これは貴重な機会なのだよ。
森:てめえが鬼になろうってのか?
練:(笑)いや、その点は大丈夫だ。まあ、万一のことがあれば、おまえが斬れ。
(鬼の風を吸い込む)う、ぐおお…(倒れる)
森:くそっ、いわんこっちゃない。畜生!(鬼へ向き直る)
む?いない。いないぞ?
練:鬼… は… 僕の中…        だ…
森:何い?奴が乗り移ったのか?練!おまえはまだ人間か?もう鬼になったのか?
練:いや… だから、つまり… 交戦中、だ…(にやり)
森:うう。目を閉じたまま笑うんじゃねえ、この馬鹿が… くそう、俺はどうしたら
いいんだ?

魔術幻燈 ☆★☆ 流琢弥/萩原學/硯研一郎
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