[KATARIBE 10319] Re: [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 3

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 18 Jun 1998 21:54:14 +0900
From: lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp (S.S.Kakegawa)
Subject: [KATARIBE 10319] Re: [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 3
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199806181255.VAA07055@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp>
Posted: Thu, 18 Jun 1998 21:55:02 +0900 (JST)
X-Mail-Count: 10319

蘆会%ねむいにゃあでございます。
こんにちは>ヲレ(笑)

At  7:27 PM 98.6.18 +0900, S.S.Kakegawa wrote:
>蘆会%とりあえずざいせいぴんち脱出でございます。
>不観樹様こんにちはでし。
>
>続けて書いてもよいのですが、残りは次のめるにて。
>
ということで、続きをば。

**********************************************************************

 一瞬、躊躇ってから、傘を取り直して、早足に美樹に歩み寄る。胸の中で、
躊躇った自分を叱咤する。何をしている。恋敵なら、苦しんでいるのを見過ご
してもいいというのか?お前はその程度の男か。いい年こいて、子供だな。
 美樹はアスファルトに膝をつき、体を折って、激しく咳き込んでいる。何が
起きているのかは判らない。しかし、危険な状態だということはすぐ判る。
 蹲る体の上に傘を差しかけるようにして、身を乗り出す。とりあえず、助け
起こすべきだろうか。何と声をかけようか。

「……美樹さんではないですか」
 我ながら、間抜けな言葉をかけたものだ。しかし、他に何も思いつかなかっ
た。美樹の呼吸は、さっきよりはずっと規則的になっている。体に貼りついた
シャツの肩に、じんわりと赤い染みができている。倒れたときに傷つけたか。
「おや、大家さんではないですか。どうなされました?こんな真夜中に」
 美樹が首をねじ曲げて、こちらを見上げる。いつもと変わらぬ、どこか暢気
な返事。字面だけは。声は掠れていて聞きづらい。呼吸はまだ浅い。差しかけ
た傘の影で、表情までは判らない。
「美樹さんこそ……どうなされました?」
 答えを返さずに、腕を取って助け上げる。とはいっても訪雪の力では、細い
体をほんの少しずり上げるまでしかできない。呼吸の鎮まった背中を、閉じた
シャッターにもたせかける。
「すみません」
 美樹の苦笑。一体、何が済まないというのだろう。助けられたことがか。
「いえ、小滝さんに、誕生日の贈り物をお渡ししましょうかと思いまして。
待ってるんです」
 予想通りの答えが帰ってくる。引きつりかけた頬を抑えて、頷く。
「そうですか。しかし、この雨では……まだ、お帰りではないんですか?小滝
さんは」
 いまの自分は、白々しい表情を浮かべていることだろう。帰っているはずが
ない。この騒ぎを聞いて、出てこないはずがない。帰っているなら。
「まだお帰りではないみたいなんで……待ってるんです」
 素直な答え。無論、待っていたことは知っている。途中からとはいえ、見て
いたのだから。しかし、見ていたことを明かせば、問いは自分に還ってくる。
還ってきた問いに、お前は何と答えるつもりだ?
 この男の、想いのほどを問うてみたい。ふとそんな思いに駆られる。一人の
女を挟んで争う……争うかもしれない相手の、力を測ってみたくなる。負ける
かもしれない。とっくに、負けているかもしれない。そんな恐れを曖昧な表情
に包んで、問いかける。
「ふむ。そこまでして……渡したい、贈り物なのですね?」
 まるで、他人事のように。
「渡そうと、決めたものですから」
 期待したとおりの回答。一番恐れていた答えでもある。いまの問いかけが、
彼にそう決意させたのかもしれない、という後悔が頭をよぎる。懐に手をやり
かけて、彼も同じ動作をしていることに気付く。そういう、ことか。
「そうか……決めましたか」
 口の端が緩む。溜息に近い、笑い。苦笑ではない。少しだけ複雑な笑い。何
故そんな反応が起きたのか、自分でも判らない。口の中で、負けそうだな、と呟く。ここまで一途な想いを見せられたら……受けて立つしか、ないではない
か。でなければ、尻尾を巻いて逃げるしか。
 逃げる?彼女は、ユラは、お前にとってその程度の存在か?
 面白い。お前の想いがどれほどのものか、見せて貰おうではないか。訪雪。
 美樹の手を取って、とりあえず立たせる。足元がふらついているが、立てな
いことはなさそうだ。傾く体をシャッターにもたせかけておいて、近くの路上
に転がった傘を取りに行く。さっき煖が渡していた、コンビニ傘。美樹の方に
柄を向けて差し出すと、すみません、と言って受け取る。雨は、既に小降りに
なっているのだが。
「雨の後は、随分と静かになりましたな」
 懐中時計を出して、街灯の下で見る。もう、午前か。夜が明ける前に帰って
くるようなことは、流石に……
 背後から、水たまりを蹴る足音。
「美樹さん……それに、ほ……小松さん?」
 咄嗟に出てきた名前を、姓に言い換える声。足元を、黒い猫が擦り抜ける。
辛うじて立っている状態の美樹が、声の主、ユラの方に足を踏み出す。
 祝う言葉をいいかけたところで、美樹の足がもつれる。支えるために差し出す腕。間に合わない。一瞬早く、ユラが美樹の前に踏み出す。ポケットから出された包みが手から飛び出すのを、呆然と眺めている、自分。
「美樹さん!」
 転倒した美樹がユラの体に受け止められて、二人が縺れるように路面に倒れ
込む。先に起き上がったユラが、美樹の手から落ちた包みを拾い上げ、美樹の
手を取って助け起こすまで、動くことが出来なかった。
 しどろもどろの口調で謝り続ける美樹と、それを気遣うユラ。突っ立ったま
までそれを眺めている自分。間抜け以外の、何者でもない。
 二人に手を貸そうとしたところで、美樹の口調がおかしいことに気付く。呂
律が、回っていない。目が宙をさまよっている。
「ちょっと、美樹さん、美樹さん?」
 美樹の肩を揺さぶって、ユラが呼びかけている。真剣に名前を呼ばれている
相手に、嫉妬の念を覚える。そんな場合ではなかろうに……呂律の回らない舌
で、美樹はなおも、ユラに言葉を投げ続けている。
「ちょっと、訪雪。美樹さんに、何があったの?」
 脳の何処かで、かちりと歯車が噛み合う。ループしていた思考が動き出す。
「説明は後で。早く何処かへ運ばにゃ……ユラ、君の部屋を貸してくれるか」
 頷いたユラの手から美樹を掬い上げる。背中に負った長身は、頼りないほど
軽かった。

**********************************************************************

……っと。余り進んでないですね。
やっぱりスランプですな。

続きは、明日にでも。
……しまった。明日は授業があるぢゃないか(をい)

##################################################
君がいるから、僕がいる。
東松原蘆会(ひがしまつばら・ろかい)
                  lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp
 http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/6525/

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage