[KATARIBE 10311] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 4

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Date: Thu, 18 Jun 1998 07:57:33 +0900
From: ad2045@geocities.co.jp (Fukanju Rosei)
Subject: [KATARIBE 10311] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 4
To: kataribe-ml@trpg.net
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Posted: Thu, 18 Jun 1998 07:57:57 +0900 (JST)
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  や、やっとあがったぁ(ぜぇぜぇ)
  現在時刻午前2時半、取りあえず書き上がりましたぁ〜〜〜。
  
  と、言うわけで、不観樹露生@この話が夕飯代わり  です。はい。

  蘆会さん、いー・あーるさん、
  勇魚さん(御本体もお誕生日おめでとうございます。お元気ですか?)、
  ハリ=ハラさん、K’さん、どーも。

  取りあえず(美樹的には)クライマックスシーン。
  ユラ嬢の誕生日に贈る狭淵美樹三部作その3
  「誕生日のための奇想曲」その4です。
  では、どーぞ。

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「誕生日のための奇想曲」(承前)

  松蔭堂の大家氏。……訪雪氏。光を背に受けて、顔は影になって。
こんなにも、大きかっただろうか?  下から見上げているせいか。
それとも。
「美樹さんこそ……どうなされました?」
  脱色された髪の毛が、街灯の光を通して、光っている。和紙の傘
が、シルエットになる。
  差し出された大家氏の手につかまって、体を起こす。濡れた地面
の上を少しだけずれて、シャッターに凭れる。気管支の過敏反応は、
もう治まっている。
「すみません」
  そう答える。答えになっていないことに気が付く。信頼の出来る
人物。確かに、何故と思われても不思議ではない天気。
  頭の上。大家氏の影になっている顔に、苦笑を浮かべてみせる。
「いえ、小滝さんに、誕生日の贈り物をお渡ししましょうかと思い
まして。待ってるんです」
  酔狂。あるいは、やはり変わっていると思われるのだろうか。
「そうですか。しかし、この雨では……まだ、お帰りではないんで
すか?  小滝さんは」
  いつもの調子。いつもの大家氏。何かを解している風流人。
「まだお帰りではないみたいなんで……待ってるんです」
  当たり前のことしか言えない。当たり前の言葉を、当たり前に重
ねることでしか何かを表現できない自分。まだ、わたしは風流には
遠いのだろう。
  ふと気付く。いつもはとらえどころのない大家氏が。何かにとら
われて。輪郭が、シャープになっている。
「ふむ。そこまでして……渡したい、贈り物なのですね?」
  尋ねられた言葉。
  そうかもしれない。そういうふうに解釈されるのかもしれない。
実はそうなのかもしれない。
「渡そうと、決めたものですから」
  左手を、Gジャンのポケットに入れたまま、内ポケットのプレゼ
ントの輪郭をなぞっている。
  渡そうと決めたから、渡す。そういう事だ。
  返事をして。その言葉に、自分自身が得心している。
  わたしの言葉に、大家氏が息をもらす。笑っている?  とらえど
ころのない、いつもの大家氏。
「そうか……決めましたか」
  わたしは、笑む。笑むことによってその言葉を肯定する。
  大家氏が街灯の方向からずれる。大家氏が、少しだけ複雑そうな
笑みを浮かべているのがようやく見て取れる。
「美樹さん、立てますかな?」
  わたしは大家氏の手に掴まって、立つ。開いてしまったのだろう、
肩の傷口が痛む。グリーングラスのシャッターにうつ伏せるように
もたれて、少しだけ休む。
  足元に気をつける。まだ、足元が完全に定まったわけではないが、
立つぐらいなら充分。
  ゆっくりと振り返る。
  大家氏が、拾い上げてくれたわたしの傘の柄を差し出してくれて
いる。やはり、大家氏がそんなに大きいわけがなかった。わたしよ
り、5cmは低い。
「すいません」
  うけとる。受け取って、気付く。いつの間にか雨は、もうずいぶ
んと小降りになっている。それこそ、ちょっとの距離なら大して気
にせずに歩いて行けるほどまで。
「雨の後は、ずいぶんと静かになりましたな」
  大家氏が、独り言のように漏らす。確かにそうだ。雨上がりの夜
の街は、静かだ。遠くを、まだ路面に残った水を飛沫に上げながら
走る自動車の音が聞こえるほど。
  パシャ。
  水音。水たまりを構わずに駆ける、人の足音。わたしは顔を上げ
る。見慣れた……待っていた、影。足元の、マヤ。
  背中で反動をつける。シャッターが鳴る。前へ足を踏み出してい
る。背中で、大家氏が何か言おうとしているのが判る。
「……美樹さん、それにほ……小松さん?」
  ユラさんが、立ち止まる。驚いた顔。それとも、困惑だろうか?
  わたしは数歩前へ出る。雨は完全に止んでいる。プレゼントを、
渡さなければならない。右手をGジャンの内ポケットに入れて、持
つ。今まで時を待っていた物を、引っぱり出す。
「小滝さん、日が変わってしまいましたが……」
  誕生日おめでとうございますという言葉を発しようとした瞬間に、
左脚が、わたし自身の制御下から離れている。足と、手と、口を一
度に動かそうとしたのが間違いだったのかもしれない。自分の左脚
を右脚が蹴っている。躓いている。
「あっ」
「美樹さんっ!」
  さっきと違うことは、自分が転びかかっているのが判っていると
いう点だ。まったく。今日はよく転ぶ日だ。そして、来るはずの衝
撃に備えて目を閉じている。前に一歩だけ左脚を放り出している。
一瞬だけ転ぶのが遅れるだけ。次の一歩は間に合わない。
  やっぱりわたしは格好悪いですな。目を閉じたまま、転びながら
そんな事を考えている。こんな時に考えるにしては莫迦なこと。
「きゃっ」
  柔らかい物にぶつかる。そのまま倒れる。柔らかい物がわたしの
顔とアスファルトの間でクッションになる。暖かい。
  落下の法則が仕事を投げ出したのを感じて、目を開ける。
  顔の下の柔らかい物。路面に転がっている白い球体……ふくろう?
  一瞬の混乱。
「美樹さん!」
  大家氏の声に、認識が戻る。
「す、す、すすすいません、ユラさん!」
  慌てて起き上がろうとして、失敗する。今度は、ちゃんと(とい
うのもおかしい話だが歩道のカラーブロックの上に身体が落ちる。
「すいませんっ!  ユラさん!  服、濡らしちゃいまして!」
  全身ずぶぬれの男がぶつかって、雨上がりの路面に倒れたのなら、
ユラさんの服が濡れないはずがない。
  いや、そうじゃなくて。自分でも、訳が分からなくなっている。
「それから、えと、どこか怪我とかはないでしょうか、あの、えと、
とにかく……すいません!  ユラさん」
  混乱している。混乱して自分でもなにを言っているのか訳が判ら
なくなりかけている。自分が起き上がったりとか何かするひまがあ
ったら何かすることがあるはずなのだがと考えている。
「美樹さんの方こそ、大丈夫?」
  ユラさんは、怒ってはいない。心配そうに、わたしを見ている。
安心できる。
「わたしは、ぜんっぜんらいじょうぶですから」
  呂律がおかしい。それに、よく考えたら、口以外の身体が、動か
ない。ユラさんが、長細いちいさなポリ袋でグルグル巻にした物を
拾い上げながら立ち上がる。地べたに付いたところを払う前に、わ
たしに手を差しのべてくれる。
「本当に大丈夫なの?」
  ユラさんの手に、プレゼントがある。よかった。
「こりぇっくらい、大したことありませんって」
  何故か、霞む視界。語尾の辺りの発音が不明瞭になっている。
「ちょっと、美樹さん、美樹さん?」
  肩が、揺すられている。意識が、飛ぼうとしている。飛んでしま
わない内に、言わなきゃならない言葉。
「ユラさん、誕生日、おめでとうござーます……、それ、誕生日の
贈り物れすから、受け取っていたらけるとうれしい……」
  嬉しいですという所の語尾がちゃんと伝わったかどうかがすごく
気になる。気になるんだけれども。知覚が、混乱している。
「ちょっと、訪……」
「早く……」
  ユラさんと、大家氏との声。意味が、取れない。
  でも、ユラさんの手にはちゃんとプレゼントがある。
  なんか、いろんな方々に、迷惑かけてしまいましたが。
  ユラさん、Happy Birthday to You……

                                                   (おわり)
************************************************************

  ちうわけで、美樹的には(そう、あくまで美樹的には)これにて
みっしょんくりあぁなわけですが、きっちり後始末もふくめて、
別の短編に続けます。(よーするに、関連作品が一本増えるわけです)
「そして……美樹の朝(仮題)」。明日の晩に書けたらいいなぁ。
  訪雪さんとユラさんの動きでネタが使えなくなるかもしれないけど(爆)
  ちうことで。おやすみなさひ……あ、もう3時だ(爆)


  あ、もちろんの事ながら、加筆訂正要求は大歓迎です。



#なんだかんだゆーて、ユラさんのお腹で顔面キャッチしてもらえたんだし。
#これっくらいの虐待行為は愛ですよね愛(^^;>美樹

##しまった。プレゼントの中身出し損なった(爆)
##一応ユラ嬢へのプレゼントの中身を本文以外でばらすのはしゃくなので、
##本文中に使いたい方は直メール下さい。にゅう。
##(いったん寝て30分してから思い出して目を覚ました……
##なんか美樹が最終的にぶっ倒れた時刻に近づいて行くぅ(爆))



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不観樹露生(ふかんじゅ・ろせい)          今月の標語
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