[KATARIBE 10294] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 3

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Date: Wed, 17 Jun 1998 11:55:29 +0900
From: ad2045@geocities.co.jp (Fukanju Rosei)
Subject: [KATARIBE 10294] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」その 3
To: kataribe-ml@trpg.net
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Posted: Wed, 17 Jun 1998 11:55:34 +0900 (JST)
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  ども、不観樹露生@給料日まであと8日  です。はい。



  ユラ嬢争奪戦関連者の皆様おはようございます(^^;



  というわけで、ユラ嬢の誕生日に贈る美樹小説三部作その3

「誕生日のための奇想曲」その3です。



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「誕生日のための奇想曲」(承前)



  傘は、しっかりと握っている。しっかりと柄を握ってさえいれば、

傘をとばすほどひどい風ではない。

  雨の方は止む気配もない。爪先。一年以上前に廃棄処分になって

てもおかしくないスニーカーの中で、足の親指を上下動させる。自

分に足があるという事を何時間かぶりに感じている。防水などとい

う言葉とは縁のない靴の中は、きっと自分の体温と水でどろどろに

なっている。爪先が伝える感触がそれを肯定する。足首の腫れ上が

った青痣を、濡れた靴下が少しだけ冷やしている。

  髪の毛の中に住み着いた水分が気化熱を奪っていく。体温を奪っ

ていく。時を停めて、聴覚を麻痺させて、水流は落下し続ける。

  ポケットティッシュの袋をGジャンの右の内ポケットから取り出

す。何もせずとも、水が滴り落ちる。袋ごと絞る。わずかに濁った

水が指の隙間を伝う。慎重に解体する。一枚だけ。破らないように、

そっと取り出す。

  濡れにくい場所にあってすら、これだ。シャツの内側まで濡れて

いる。川に飛び込んで1キロ泳いだのと大して変わらない濡れよう。

  湿り気を持ってはいるが、まだ水を吸えなくもないティッシュの

一枚を、顔の皮膚に当てる。拭き取る。汗と、雨と。少しだけ、マ

シになったかもしれない。

  格好悪いよな。

  自己評価。率直な自己評価。

  格好良いとは、絶対に言えない。

  こんなに格好悪い男からの誕生日プレゼントは。迷惑だろうか?

  そんな事も考えてしまう。

  迷惑なのか……。受け取ってもらえるのか?

  煖さんがいるときに、言ってしまった言葉。酔狂。

  恋、だと思うのだ。だから酔っている。だから狂っている。

  この贈り物一つを。受け取ってもらえるかどうかということに。

自分自身を賭けている。

  物思いの重さに、傘が揺らぐ。決して、右肩の傷が痛むからでは

ない。傘を、立て直す。雨を遮断する領域を、自分の身体に可能な

限り合わせている。

  ろくな服も持っていない。ずぶぬれの、着古したジーンズとGジ

ャン。腕っ節で護れるというわけでもない。それが出来るほど強く

もない。他人を殴れるほど優しくもない。

  彼女の微笑み。

  もしかしたら。このプレゼントで、彼女が微笑んでくれたら。そ

れだけで暖かい気持ちになれる。だから、渡さずにはいられない。

渡さなければ、ならない。自分自身に対して生じた義務。

  神を信じないわたしにとって。言霊を信じるわたしにとって。最

大の誓約。狭淵美樹。自分の名をもってする、心の内の誓約。

  ふわりと、宙がまわる。右脚を、反射的に踏み出している。膝関

節が悲鳴を上げる。外界を再認知する。

  身体が、平衡を取り戻す。前のめりに倒れそうになっている身体

を起こす。シャッターに寄り掛かり直す。店の前には、ユラさんが

雨の前に店内に収容したのであろうプランターの跡。

  雨が降り出す前に来れていれば。

  もう少しはスマートに。何気なさをふくめて渡せていたかもしれ

なかったのだが。

  否定する、自分の思考。

  アルバイトが終わって、給金を手渡されたのが午後四時。無理を

言って、取って置いてもらった店にその給金をそっくりそのまま残

金として支払ったのが四時半。後渡しのラッピングされたプレゼン

トを手にしたのが、五時。京阪吹利駅に着くのが六時。どうやって

も、これ以上早くは、プレゼントを持ってここに立っていることは

出来なかった。

  過去の仮定を想っても仕方がない。

  その通り、と相づちを打つように咳が出る。季肋部を押さえる。

感覚脱失を合わせ持つ、いつもの傷口が暴れる。咳が、止まらない。

痛みが、治まっていかない。足がもつれる。両足に力を込めようと

する。

「あれ?」

  目の前で、世界がまわる。まっすぐに立っているはずの街路樹が

横倒しに回転する。

  膝と、腰に、力が入らなくなっている。膝が、路面に衝突する。

  咳が出続ける。涙が出る。

  左手で、かばっている。ユラさんへのプレゼント。右から肩と、

側頭部に迫ってくる水流に被われた透水性カラーブロック。

  水なら染み込んで終わりだよな。

  なに莫迦なこと考えてんだか。

  二つの考えと、歩道の路面が衝突する。

  咳は出続けている。左胸の痛みは体幹部の筋肉をのたうちまわら

せている。それを傍観している。右肩から下の感覚がなくなってい

る。ユラさんはまだ来ていないのに。

  混乱。

  倒れるはずはない。まだ渡していないのだから。

  咳が、浅い呼吸が、脳血流中の酸素を低下させている。そのせい

だ。動けないのも、体がいう事をきかないのも、まともに考えられ

ないのも。咳が止まらない。判っているのだ。

  咳が止まらない。痛みは既にどうという事もない。咳が止まらな

い。咳が止まらない。ユラさん。咳が止まらない。

  咳を止めさえすればユラさんが。咳が止まらない。ユラさんが。

  息を出来るだけ、吐き出す。反射的に吸う息が、次の咳を誘発し

ている。だから、吸わない。横隔膜の痙攣を、ブロックする。咳を、

無理矢理止めていく。

  倒れたままの姿勢で、呼吸を落ち着かせていく。浅く速い呼吸な

がら一定のペースの呼吸へと移行させていく。

  雨混じりの酸素が前頭葉へと流れ込んでくる。

  そんな事を考えながら、右腕を動かす。さっきと違って、自分の

思うように動く。起き上がろうと、体重を支える。力を込めた瞬間

に、路面で打った肩から痛みが走る。この間の傷口が開いたのかも

しれない。あとで消毒のし直しだろう。

「美樹さんではないですか」

  聞き覚えのある男の声。目を開けて、首をねじ曲げる。頭上に立

っている影。街灯を背に受けて、顔が見えないが。

「おや、大家さんではないですか。どうなされました?  こんな真

夜中に」



                                                  (つづく)

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  体力不足で、今日はここまでしか書けませんでした(^^;

  まぁ、引きがうまくはいって、ちょうどいい切り方かも(爆)



  いやぁ、服着たままシャワー浴びる実験なんてするもんでは

ないっすね(^^;  リアルな描写に役に立つかと思いましたが、

あんまり役にも立ちませんでしたし(^^;

  …………こーゆーことしてるから体力が不足するのかも(自爆)



  あとは、訪雪氏と美樹の対決(?)シーンとユラ嬢ご帰還の

シーンだけです。今夜がんばらないとあがらんなぁ(^^;

  ふぁいとぉ。








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不観樹露生(ふかんじゅ・ろせい)          今月の標語
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