[KATARIBE 10277] [HA06] [EP] 花影の鬼 〜序夜〜

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Date: Wed, 17 Jun 1998 01:03:30 +0900
From: poetlabo@cap.bekkoame.or.jp (T.Nagare)
Subject: [KATARIBE 10277] [HA06] [EP] 花影の鬼 〜序夜〜
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199806161603.BAA01601@soda2.bekkoame.or.jp>
Posted: Wed, 17 Jun 1998 01:03:46 +0900 (JST)
X-Mail-Count: 10277

流です。お言葉に甘えて、かろうじて使えそうなとこから始めたいと思います。
では、さっそく。

[HA06]EP: 花影の鬼
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桜咲く陰にも鬼は有るものか、
花見せんとぞ月夜に出でし
男は雲に隠るるなり。
さらばその友連れ立ちて
桜の元へまかりしに、
友の姿は見あたらず
死人の声を聞き居りき。…


練原 努(以下『練』):(公園を歩きながら)こんなに花が散ったのでは、
森 建司(以下『森』):後の掃除が大変だ。
練:(苦笑)その通り。しかし、歌合でなく仕事で花見の場所に来るとは。
森:しかも、酔っ払いの始末とは。
練:ん?そういう話は聞いてないが。桜に浮かれた変な奴が出るとか…
森:そう、おまえみたいな奴とかな。課長の話だと、この桜の下あたりに白い鬼みた
いなのがふらふら出てくるってことで、市民から通報があったらしい。
練:ふん、この陽気だ、鬼だろうとオバQだろうと出てきて不思議はあるまい。
森:で、中にはおまえが入っとるわけか。よおし、捕まえて帰ろう。
練:違ーう! …や?何かへんな感じがしてきた… なんか足元が湿ってきたような…
森:おい、あれではないか?右や左にふらふらと…

        二人の前方に、白い影が登場。人間らしい姿をしているが、どこかが違う。

練:(影を認めて)や、あれは。(森に向かい)建、構えろ。
森:なに?あれは…
練:人間ではない、おそらくは。
(その場に居る人々に向かい、呪)この園を見る人々よ、しばしわれら両名を忘れよ!
(影に向かい、呪)止まれ、花影の下を彷徨える影、人外の者よ。
森:(剣を抜いて構える)その場を動くな、さもなくば斬る。この剣は人間にとって
はただの木刀だが、鬼や幽霊を成仏させるべく祝福されたのだ。
練:まだ斬る必要はない。話してもらおう。

        影が止まり、二人を振り向く。

森:女か?しかし…
練:頭部を喪失した状態で、なおかつその頭部を自分の両腕に抱いている女は、生き
ている人間のうちには見られないものだ。
森:(汗)何だ、そのやけに冷静な描写は…
練:『無しとも言えぬ花影の鬼』か。
(影に向かって)話してもらいたい、あなたのことを。
どうか約束してもらいたい、われら両名にも、またこの広場に集える者たちにも、危
害を与えぬことを。

        すると、女の腕に抱えられた生首が、口をきいた。

生首:あの人はどこ?
森・練:(驚)え?
生首:私をこんなにしてしまった、私のあの人はどこ?ほんとうに、私はどうなって
もいいと思っていたのに… 私を相手に試すだけ試して、どこかへ行ってしまったあ
の人はどこなの?
森:そ、そういえば、この街のどこかで人体実験が行われていると聞いたことが… 
まさかとは思ったが、もしかして…
練:でもそれなら、失敗すれば死んでしまうだけだ。人体実験が死後の世界を制御す
る目的なら別だが。
生首:あなた… 知っているのでしょう?
練:いや、それだけではわからない。あなたが言うその人の名は?
生首:あの人の名、私はそれすら知らない… 私は私が誰なのかも知らない… あの
人達はなにも教えてくれなかった…
森:やれやれ、これでは嘘か真か、どうにも埒があかないぞ。おい、おまえはどうし
て人を脅かしたりしたのだ?
練:(傍白)あの人達、だと?何てこった、僕の知らない組織が関与しているのか?
生首:脅かした?ううん、私は何もしていない… みんなに、あの人がどこへ行った
かきいただけ…
森:(害意のないことを見届け)これは斬ってすむことではないな。
(刀を収めて)それでは、おまえは誰彼構わず、『あの人』とやらの行方をきいたっ
てのか?バカか、てめーはあ!人にものを訊くときは、人並みの格好をしてこんかい!
練:(汗)ちょっと、そいつは無理じゃないか?
生首:人並みの… 格好?でも、ちゃんとお洋服は着てるし… みんな、何も教えて
くれなかった… あの人達と同じ… 子供たちは私に、石を投げた… もう私には、
小石一つ当たらないのに…
森:うーん、もったいないのう。見れば生前は、いい女だったに違いないのに。
練:おまえの女好きは承知してるが、幽霊にまで手を出すんじゃない。
生首:あなたも… あなたたちも、あの人達と同じなの?なにも答えてくれないの?
練:その人が誰だかわからなければ、答えようがない。その名を知らぬなら、教えて
くれ、その人は何をしているどんな人なのだ?
生首:教える?私に教えられることなんかない、あの人はいつもそう言ってた… い
つも厚い壁の向こう側にいて、捕えた私を試すときだけやってきて… 自分はこの街
の誰よりも高いところに居るから安全だ、そう言ってた…
練:あなたは… 捕えられたのか、その人に?
生首:わからない… 捕まるまで私は私だったと思うけれど… 私が誰だったのか、
あの人達がわからなくしてしまった… あの人は私を捕まえて、自分のしたいことを
した…
森:(怒)むう、けしからん奴だ。したいことをしておいて、俺には何も取っとかな
いなんて
SE:(殴音)
練:おまえ、今何を想像した?
(傍白)厚い壁?誰よりも高いところ?市長か、それとも…
(女に向かい)では、その人に会えばわかるのか?
女:(身体が頷く)
練:なるほど、この場合『頭を下げる』という表現は成立しないな。しかしそれでは
、見つかるまで探し回ることになる。
女:(身体が頷く)
練:しかしまた、どうしてそんなにその人にこだわるのだ?ろくでもない男ならいく
らでも世の中には転がっているぞ。
(森を指して)ここにもその例があるが。
森:俺は悪い例か?女に親切なだけだぞ。
女:あの人は、私の父親のようだった… 私にはないものを、全部持ってた… あの
人の言うことを聞かないと、私はどうしていいかわからない…
練:思春期を通過した者が、そんな甘ったれで居てはならん。いい加減に独り立ちし
たまえ。君にひどいことをしたその男が何を考えていたかは知らないが、そいつは君
のことなんか気にしちゃいないだろう、きっと自分のことだけしか考えていないのだ
。君を実験台にして、自分の欲しいものだけを求めたのだ。
女:そんな… ひどい… どうしてあの人の悪口を言うの?
練:君はその人に仕返しをしに行くのではないのか?まあ、そういう女たらしが何を
言ったかくらい、会わなくても僕にはわかるが。
女:だめ、許さない… あの人に手を出していいのは私だけ、誰にも邪魔なんかさせ
ない…
練:だがな、真に復讐の権利を持つのは神あるのみだ、人間に過ぎない身が正義を気
取るのは間違いだ。有史以来、人間の誤った正義感は世界中で人殺しを続けてきた。
君も、その人を殺しにいくより、とっとと成仏したまえ。
女:…あなたも…あなたたちも、私の邪魔をするの?許さない、絶対に許さない!
(白い影が次第に赤く染まる)
森:おい、なんか怒らせたんと違うか?
練:どうもそうらしい。これも成り行きだ、やばくなったら構えろ。
森:おまえなあ…

                女は速やかに変貌を遂げた。

魔術幻燈 ☆★☆ 流琢弥/萩原學/硯研一郎
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