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Date: Tue, 16 Jun 1998 20:49:48 +0900
From: lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp (S.S.Kakegawa)
Subject: [KATARIBE 10272] [HA06]NV: 『電話』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199806161150.UAA06676@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp>
Posted: Tue, 16 Jun 1998 20:50:24 +0900 (JST)
X-Mail-Count: 10272
蘆会％今日はカレーを喰いそびれたでございます。
いー・あーる様、不観樹様、勇魚様、こんにちは。
ユラさん誕生日話をひとつ、流します。
これだけの分量にこんなに時間がかかるとは……やっぱりスランプかなぁ。
ちなみに時間は誕生日前日です。
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小説『電話』
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夜、吹利本町の裏通りの路上。
電話ボックスの壁に傘を立てかけた訪雪は、もどかしげに受話器を取る。
手の中で汗ばんだカードを挿入口に差し入れる。吸い込まれたカードの後を
追って、指先が覚えた番号を押してゆく。家の黒電話では、人の耳から逃れることが出来ない、それゆえの、夜の外出。
「……まるで、不倫だな」
プッシュホンの発信音を聞きながら、嘲笑交じりに受話器に向かって呟く。自分も、多分彼女も、誰かを裏切って続けている関係ではない。ただ、この街
で被り続けてきた仮面を守る為だけに、こうして隠し続けている。そしていま
まで隠し通してきてしまったがゆえに、たとえ何ひとつ後ろめたいところがな
くとも、自分はそれが晒されることを恐れてしまうのだろう。
やけに長く感じられる無音の時間……そして、相手が話し中であることを示
す、断続的な音。
薄暗い蛍光灯を仰いで溜息をつき、力なく受話器を下ろす。昨日かけたとき
も、とうとう話し中のまま繋がらなかった。
昨日と同じように、正確に５分間、ボックスの中で待ち、カードを投入する
ところから繰り返す。話し中。更に５分。
深い溜息をひとつついて、緑の電話機から吐き出されたカードを袂に落とし
込む。目的を胡麻化すために買ってきた、コンビニのポリ袋が、手首でかさり
と音を立てる。
「こんな時に限って……一体、何があったんだ？」
ガラスの壁に凭れて、強くなりつつある雨の音を聞く。額を伝わって流れた
汗が、顎の先からぽたりと落ちる。着物の裾も袖も、ここに来るまでに濡れて
しまっていたが、長い間入っていたボックスの中は、訪雪ひとりの体温で蒸し
暑いくらいだった。
「儂のときいっしょだったから、今度の誕生日はいいや、とはいかんよなぁ」
ボックスの傍らを通りかかった男が、訪雪の独り言に不審そうな顔をする。
目当ての彼女、小滝ユラの誕生日は、明日。今日中に、約束は出来ないかもし
れない。返事を聞かぬまま、準備を進めてしまうか。明日まで、予定は未定の
ままで待ち続けるか。
待っても、来ないかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。誘う日が判って
いるなら、前々から誘うつもりなら、何故昨日まで連絡を取らなかった？
彼女の忙しさを言い訳に、一緒にいることを怠ってはこなかったか。
関係を隠そうとするあまりに、冷たくしてはいなかったか。
子供たちの世話に追われて、淋しい思いをさせなかったか。
偶然に頼りすぎた腐れ縁に、甘えてはいなかったか。
相手の幸福よりも、隠すことを優先できてしまう。その程度の、想いだった
のか。
愛想を尽かされても、当然ではないか。こんな男は。
「大丈夫……だよなぁ。明日、来るよなぁ」
胸を押さえた掌に、懐深く仕舞いこんだ、小さなケースが触れる。
その感触を確かめながら、訪雪はもう一度、カードを挿入口に差した。
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さて、次は当日ですね。
そろそろきちんと気持ちを決めてくれんかなぁ、このおやぢ（笑）
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君がいるから、僕がいる。
東松原蘆会（ひがしまつばら・ろかい）
lh86010@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/6525/