[KATARIBE 10246] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」

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Date: Mon, 15 Jun 1998 15:45:31 +0900
From: ad2045@geocities.co.jp (Fukanju Rosei)
Subject: [KATARIBE 10246] [ha06][nv] 「誕生日のための奇想曲」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199806150645.PAA22121@geocities.co.jp>
Posted: Mon, 15 Jun 1998 15:45:41 +0900 (JST)
X-Mail-Count: 10246



  ども、不観樹露生@40度とっぱぁ(^^;  です。はい。



  風邪引いてるのに、ついつい友人の「ただ酒」の言葉に

つられて、飲みに行ったのが土曜の晩……

  にちよーびはどこに行ったのだろう(^^;



  ちなみに、もう微熱しかありません(^^;  ふぅ(^^;



  で、ユラ嬢の誕生日に贈る狭淵美樹小説三部作、その3……

の筈でしたが、途中までです。これ。

  取りあえず、流します。



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「誕生日のための奇想曲」



  お腹が鳴った。

  だけど、その音を合図に何かが劇的に変化することもない。

  お腹の鳴る音は、お腹の鳴る音だ。単なる胃のぜん動運動。

  自分以外には、聞こえようもない。

「中国・四国・近畿地方に大雨警報」

  昼。近鉄吹利駅前の小さな電光掲示板が告げたとおり。

  雨。

  ここん所の雨続きに、持っていたまともな傘は全部なくなってし

まっている。

  結局、手元に残っている傘は、この、いい加減古びて骨の部分に

錆が浮き上がっていて、肝腎の中央部分に指が三本楽にはいるほど

の穴が空いたコンビニ350円傘だけなのである。

  ないよりはまし。

  まぁそういう事だろう。少なくとも、路面から盛大な飛沫を巻き

上げているこの雨の中歩くのであれば。

  ジーンズは、一見変色した様子は見せていない。それというのも、

既に腰の部分にまで水が染み通ってしまっているから。

  もうすぐ夏至。だから、まだ明るい。

  きっとこの空のどこかにはまだ太陽が見えているのだろう。

  夕方の7時だけれども。

  ハーブショップ・グリーングラスの店の前の路上も、既に水深1

cmほどの川となっている。

  目の前を、電気バスが通り過ぎていく。バスのあげた飛沫がかか

っても、さほど気にはならない。これ以上濡れることなど出来ない。

  本を……置いてきてよかった。

  そんな事を考えている。研究室の自分の机の上に、いつも持ち歩

いているショルダーバッグは置きはなしてきている。防水素材で出

来ている筈のショルダーバッグも、縫製部分から破れ掛けて、水か

ら内容物を守るという役にはまったく立たなくなっているのだから。

  Gジャンのポケットに突っ込んだままの左手を少しだけ、動かす。

  サリッと音がする。ラッピングの上から、かぶせたポリエチレン

の袋の音。内ポケットの中で時を待ち続けている。

  いつもなら、まだ開いているはずの時間だったのだ。

  閉店間近のグリーングラス店内へと入って、誕生日のお祝いの言

葉を一言。

  そして、これを渡して、帰る。それだけの筈だったのだが。

  やはり……どなたか。いらっしゃるのかもしれませんね。誕生日

を、共に過ごす、どなたか。

  可能性の問題。

  だけれども、どう動くのかが自分にとってもっとも有利なのかと

かそういう風に考えたくはない。

  待って、みましょう。

  いつかは、帰ってこられるはずですし。わたしは、単に誕生日の

贈り物を届けに来ただけなのですから。

  眼を閉じる。

  左頬に、鈍い痛み。まだ少し腫れている瞼。雨の冷たさが、心地

良いと感じてしまうのも、怪我のせいかもしれない。

  痛みは、熱。水は痛みを消す。浄化の水。天より降り注ぐ、聖水。

  眠ることさえ出来ないほどの痛みも、雨の中、ゆっくりと癒され

る。形だけでも。

  鼻の奥が、むずかる。来る。

  それを感じる間もなく、出る。くしゃみ。ポケットティッシュを

用意する間もない。顔が、雨に打たれる。すっかり湿気て閉まって

いるポケットティッシュで、雨と粘液を拭き取る。

  一息つこうとした瞬間に、咳。肺の奥の方からわき上がる咳。連

続して、横隔膜が痙攣して。何かを、絞りだそうとする。

  絞ったところで、何も出てきそうもないのに。息が続かなくなる。

胸を押さえながら、しゃがみ込む。頭にかかる水流が強くなる。傘

が、落ちた。

  咳の連続の中から、呼吸の種を見つけてゆっくりと育てていく。

少しずつ。無理はせずに。やっと、まともに呼吸が出来るようにな

ってくる。雨を、遮ることよりも、呼吸を回復することの方が優先。

だから、雨に打たれている。酸素不足のせいで、思考が惚けている。

  空き缶。

  車道の隅を流されていく。誰が投げ捨てたのか。水流の中、奇跡

的に潰されもせずに。

  アスファルトに付いてしまっていた、腰を上げる。傘を取りに。

  あんな傘でも、ないよりは、マシ。

                                             (その2に続く)

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  そういえば、煖さん、来ます?  傘持って。

  ではまた。








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